新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

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 ※ヘラクレスの柱(現ジブラルタル海峡)です

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 決別(続き)
「閣下」
 マシニッサが口を挟んだ。
「我ら四人がこのように一堂に会し語らうのも、おそらくこれが最後となりましょう」
 そう。カルタゴとローマは、以降敵対関係に入ることが予想される。マッシュリはカルタゴと同盟関係にあるから、やはりローマとは敵となる。
「宴を開き、別れを心行くまで惜しまれてはいかがしょう」
 マシニッサはしみじみといった。
 彼にとっても、この旅は忘れがたい一期一会になったようだ。
 その夜、四人は、心行くまで酒を酌み交わし、様々に語り合った。難しい世上の話を忘れ、この出会いを美しい思い出とするため、それだけのために語り合った。


 翌朝。
 プブリウスとアッティクスの姿が船の上にあった。
「プブリウス君」
 ジスコーネは、異国の友の名を呼んだ。
「君は、これからローマに戻り、名誉ある階梯を登っていくのであろう」
 この『名誉ある階梯』−ラテン語のクルススホノルムの訳語−は、名門子弟が出世を遂げる過程で就任する、高級官職の総称である。
 即ち、下位から順に、財務官(クワエストル)、按察官(エディリス)、法務官(プラエトル)、執政官(コンスル)、監察官(ケンソル)である。名門に生まれたからには、執政官や監察官という上級官職に登り詰めることを、当然のように目指すことになる。
「よく御存じですね」
 プブリウスは、ジスコーネの博識に驚いた。
「向こうに回す国なのだ。知っておかねばなるまい」
 ジスコーネは、淋しげな笑みを浮かべた。
「そうなると、君も、いずれは法務官や執政官として、軍を率いることになろう」
「そうなります」
 プブリウスは頷いた。
 彼のスキピオ家は名門。現に、父スキピオは今年の執政官選挙に立候補の予定であり、その当選が確実視されていた。
 プブリウスが遊学に出ているのも、ひとえに次代のスキピオ家を担う当主として、嘱望される将来に備えるため。


「ジスコーネ殿」
「うむ」
「次に会うのは、お互い戦場になるやもしれませんね」
「そうだな…」
 その言葉に力はなかった。
 ジスコーネは、軍の司令官を務める男。プブリウスも、間もなく、否応なく軍務に従事することとなる。となれば、どこの戦場で遭遇してもおかしくはなかった。
「潔く振舞いましょう。そして…」
 プブリウスは空を見上げた。
「そのあとに、再び笑ってこの天の下にある日が来るまで。生き抜きましょう」
 そういって、右手を差し出した。
「プブリウス君」
 ジスコーネの目に熱いものが湛えられた。
 二人は、ぐっと互いの掌を握った。
 碇が上げられ艫綱が解かれて、船はゆるゆる桟橋から離れていく。
 時代は、平和の世から再び乱世へ。奔流の時を迎えることとなる。

 第三章イベリアの章終り。第四章ローマの章へ。


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