新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

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 歩み(続き)
(そういうことか…くだらぬ)
 ジスコーネは舌打ちした。
(が、バルカ党の議員は二十人程度。こんな愚策では、大した時間稼ぎにもなるまい)
 既に、半数の議員が投票を終えているのだ。
 が、その予測は見事に裏切られた。
 ヒミルコは、この戦術を打つ前に従者を走らせていたものであろう。やがて、バルカ党の議員たちが、一大事出来とばかりに、息せき切って駆け込み始めたからだ。
(くそっ)
 今度はジスコーネが焦り出した。
 このままでは逆転されてしまう。



「おいっ!早く投票しないか!」
 堪え切れず、ついに苛々と注意した。
 その彼を、ヒミルコがジロと睨んだ。
「なにを」
「このような児戯にも似た振る舞い、貴様、恥しくないのか」
 ジスコーネ、爆発しそうになる感情を懸命に自制していたが、焦燥感からか、言葉がみるみる激していく。
「黙れ、ジスコーネ」
 そう言ったのは、今駆け付けたばかりの、バルカ党の重鎮ミュルカノス。
 よほど急いで来たものであろう。肩で息をしていた。ただ、憤っていたのか、眉吊り上げ、唇を歪めていた。
「このような騙し討ちにも似た議決こそ恥知らず。その上、縁戚に連なる御仁を裏切るとは…貴様こそ正気か。汝こそ恥を知るがよい」
 その罵りに、ジスコーネ、とうとう堪忍袋の緒がぶちと切れた。
「黙れ!ミュルカノス!」
「なに、無礼であろう。その物言いは」
 そう。ミュルカノスの方がかなりの年長であった。


「何が無礼か!」
 ジスコーネ、烈火の形相となった。
 祖国の安全を計るため、ありったけの知恵を絞り、苦衷を重ねに重ねた策。
(人の苦心も理解しようとせずハンニバル一人を崇拝し事足れりとする…愚かな)
 その暗愚な面を張り倒したい衝動に駆られた。現にジスコーネの拳はぶるぶる震えていた。ここが戦陣ならば、抜刀していたに違いなかった。
「私事を優先し国事を計るなど国賊の所業ぞ!このジスコーネ、縁戚云々などで国事を誤る愚か者ではない!貴様ら如き軽薄者ではないのだ!」
 ついに、思いのたけを吐き出してしまった。
「な、なんだと」
「言わせておけば…」「許さぬ」
 途端、議場は収拾のつかぬ事態となった。
 罵り合い、果ては両党派の乱闘となった。
 そして…



「議員ジスコーネ殿の議案は、反対多数により否決されました」
 ボミルカルの、か細い声が議場に響いた。
 バルカ党の議員たちはやんやと喝采した。
 それは和平の望みが断たれた瞬間だった。

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