新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

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 負傷(さらに続き)
「ふふ」
 若き将ハンノンはほくそ笑んだ。
(思う壺…勝てばよい。敵将を殺せばよいのだ)
 こういう割り切りは、カルタゴの武将によく見られる。
 カルタゴは、伝統的に軍司令官に対する視線がとても厳しい。功を上げてもそれほど報いるでもなく、反対に、敗戦を招くと、すぐに磔にかけてしまう。そういう、武将に対する酷薄さがあった。
 だから、武門の人々は、勝利を得るためには手段を選んではならなかった。
(勝たねば何にもならんのだ)



 ハンノン、ためらいもなく弓を手にするや、矢を番え、弦をぐっと引いた。
 そして、迫るスキピオに、ぴたと照準を合わせた。
「弓で向かうは卑怯であろう!打ち物とってかかってまいれ!」
 スキピオは怒った。
 ローマ人も、ギリシア人同様、飛び道具を軽視した。特に、一人の敵と相対する場面では、槍か剣で立ち向かうことを美学とした。
 だが、カルタゴ人にとって、そんな観念は知ったことではない。
「ははは。勝利なくして正々堂々など何の意味があろうや」
 ハンノンは嘲笑うや、矢をぶんと放った。
 放たれた矢は、光線を描き彼方へ飛んだ。
「うぐっ!」
 スキピオは呻いた。
 狙い違わず、矢は執政官の右大腿に深々突き立っていた。
 スキピオは、ぐらりと姿勢を崩すと、どうっと落馬した。
 繰り返しになるが、この時代、鐙はまだ存在しない。だから、騎乗するには、大腿で馬の背をぐっと挟み込むようにしなければならない。つまり、大腿を負傷しては、馬上姿勢を維持することはできないのだ。



「あっ!父上!」
 プブリウスは、父の許へと馬を駆った。
 対するカルタゴ騎兵隊は、敵将の負傷に、わあっと歓声を上げた。
「今だ!皆殺しにしろ!」
 ハンノンは総掛かりをかけて来た。
「そうはいくか!」
 副官マルキウスが、肩を怒らせ、槍を振り回し駆け向かった。
「この俺が相手するっ!」
「ええい!邪魔するな!」
 マルキウスとハンノンは激しく打ち合った。

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