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※両軍の当初の隊形は4月23日、その後の展開は5月14日の分を御覧下さい。
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空前の大勝利(続き)
ローマの重装歩兵は、執政官を失っても戦い続けた。
四方全てを敵に包囲されても、持ち場から下がってはならぬとの、鉄の掟を護持し懸命に戦い続けた。
「総司令」
マニアケスが言った。
いつの間にか、彼女はハンニバルの許に戻っていた。
「我が軍の包囲から、ちらほら逃れる敵兵があるようですが…」
そう。なんとか血路を開いて、あるいは抜け出てくるローマ兵がちらほら散見された。彼らはアウフィドゥス川に飛び込み、対岸に渡っていく。
「ふふ。敵兵にも知恵のある者は多少おろう」
リュビア人歩兵にローマ軍の鎧兜を着用させているのだ。ハンニバルとしては、当然、このことは予見していたであろう。
「御見逃しになりますので?」
「問題ない」
ハンニバルは言った。
「たとえ、あの中に敵将パウルスが紛れていたとしても、だ。敵の主力を殲滅すること、それ自体に意味があるのだ」
そう。ハンニバルは、敵将を討ち取るといったことに、全く執着していなかった。
現に、もう一人の執政官テレンティウスを取り逃がしたとの報告を聞いても、眉一つ動かさなかった。
(勝利の事実、それこそを得なければならぬ)
それが得られるのならば、敵兵を一人も殺す必要はないとすら思っていた。
(勝利こそが、この世界を変えることができる)
世界を変えるためにこそ、彼は苦闘を続けてきたのだ。
ハンニバル軍の包囲は、急速に収縮した。
ミヌキウスもゲミヌスも、力尽き倒れた。
ローマ軍は中心に向かって崩壊し始めた。
そして。
ハンニバル軍の猛攻は、中心に到達した。
ローマ軍六万はここに全滅したのである。
やがて。
カンネーの地に、ハンニバル軍将兵の凱歌が轟き渡った。
「ハンニバル閣下万歳!」
「カルタゴ万歳!」
この史上空前の大会戦で、ハンニバルは、完膚なきまでの勝利を収めたのである。
この勝利は、これまでのものとは比較にならぬ重みがあった。相手は自軍の倍の兵力、しかもローマの精鋭が勢揃いし、指揮官は屈指の名将パウルス。
それを包囲撃滅してみせたのである。
大地には、響くような人々の歓声が、いつまでもいつまでも吹き上がった。
ハンニバルは、将兵の爆発するような歓呼を浴びながら、馬上進んでいく。
夕日の光彩浴びるその横顔は、勝利者のそれとはおよそ違った。
冷徹な厳しさを湛えていた。
(これから…これからだ。余が志を遂げるのは)
彼は、静かに決意を新たにしていた。
そう。ハンニバルは、この勝利を契機に、さらに大きく飛躍していくことになる。
第6章カンネーの章終わり。第7章地中海の章へ続く。
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