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死して敵を涙させる
神儀から数日後の深夜。
「なに。フラウス殿がやって来たと」
グラックスは驚いた。
フラウスは、ローマの熱烈な同盟者。グラックスのルカニアにおける作戦の一翼を担っていた。
「こんな夜更けに何事であろう?」
少し首を傾げた。
「いかがいたします、プロコンスル閣下」
訊いたのは、副官として付いていたラエリウス。
この時、グラックス、なにゆえか占い師の言葉が頭によぎった。
『充分にお気を付けなされよ。さもなくば足を不意にすくわれることも…』
(まさか…これのことか)
そう思ったのだ。
(…いや、気に掛け過ぎだな。同盟者がわざわざ会いに来てくれただけ)
思い直したグラックス。
「無論、会おう。ここへ通すがよい」
「はっ」
そのフラウスが現れた。恰幅良い温厚そうな顔つきであったが、注意凝らせば、油断すべからざる目つきをしている。ルカニアが戦乱の地であることの証左だ。
その開口一番。
「絶好の機が訪れましたぞ」
「ほう…何かありましたか」
「実は…」
彼は、ハンニバル側のルカニア人指導者たちが、昨今のローマ軍優勢の戦況に動揺していることを伝えた。うまくいけば、ローマ側に寝返る可能性大なり、と。
「ほう。それは近頃ない耳寄りな話であるな」
グラックス、眠気も一気に覚めた。
「…ただ」
「ただ、何なのだ?」
「なかなか踏ん切りつかぬようで」
「なにゆえか?」
「はい。何分、ここ数年ローマ軍に刃を向けた事実は否みようがありませぬ。果たして、今更降伏して許されようか、と懸念しております」
ローマ国家は寛容であったが、裏切りを許さない。鉄の団結を誇るからには、それを乱す者には容赦ない鉄槌が用意されているものだ。
「ふむ…」
「そこで、閣下より親しく言葉を賜り、今降参すればこれまでのことを赦免し、地位も認めると御墨付きくだされば、彼らも安心して降ってまいりましょう」
「なるほどの」
グラックスは頷いた。
(彼らルカニア人全てを掌握すれば、ハンニバルはここで孤立する。いや、さらには、タラス一帯のハンニバル勢力とカンパニアを分断することも出来る)
ルカニア人勢力との死闘で生まれる犠牲を思えば、これまでのことには目をつぶり和平することの利は明らかだ。
「いかがでしょう」
フラウスはぐいと身を乗り出した。
「彼ら指導者と膝付き合わせ談合して頂けますまいか。ならば、わたくしも、側面から和解の取りまとめに尽力いたしましょう」
しばし熟慮していたグラックス、顔を上げた。
「よろしいでしょう。直々出向いて、話し合うことにしましょう」
「おお」
フラウスは喜悦の声を上げた。
「早速のお聞き届け感謝いたします。これで、ルカニアは再びローマの旗の許に団結することになりましょう」
繰り返し礼を述べ、フラウスは暗闇の中へと去っていった。
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