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−これまでのあらすじ−
アルプスを越えイタリアに攻め込んだハンニバルは連戦連勝。カンネーで大勝利し(紀元前216年春)、カプア(紀元前216年)、シラクサ(紀元前213年)、タラス市街を制圧(紀元前212年初頭)。
が、ローマ軍の大反攻によりシラクサを奪い返され(紀元前212年秋)、総力を挙げた包囲戦によりカプアも陥落(紀元前211年秋)。ハンニバルは次第に南へ撤退のやむなきに陥り、イタリア戦線は膠着。
戦線の焦点は再びイベリア半島へ。
紀元前211年冬。ジスコーネは計略を駆使し、父スキピオ、グナエウス率いるローマ軍をバエティス川上流にて潰滅することに成功。
新たにローマ軍の指揮官となったネロはハシュドゥルバルの軍勢を撃破し、『黒岩』と呼ばれる山間に追い詰めるも、ハシュドゥルバルの策にかかり取り逃がしてしまう(紀元前210年)。
その後任の司令官にスキピオが選出され、イベリア(ヒスパニア)に向かう準備を進める。
勢揃い
紀元前210年晩秋。
スキピオは、兵の徴募を終え、他の戦備もすっかり整えた。あとは、軍団率いてピサエ(現ピサ)の軍港まで陸路進み、そこから海路イベリアに向かうだけ。
出発前夜。
スキピオ邸では、主スキピオとラエリウス、ヘレンニウスのいつもの三人が額を寄せ合い、最後の打ち合わせをしていた。
そこでもあの話題が。
「結局、良い密偵は見つからなかったそうな」
「老練の密偵は幾人か集めました。ですが…」
ヘレンニウスは語尾を濁した。要は、マニアケスに太刀打ち出来るような猛者は一人もいない、そういうことだ。
「ラエリウスが頷いてくれれば…」
ヘレンニウスは恨めしげに、幼馴染みの顔を見た。
「まだ言うか…貴様は」
ラエリウスは、うんざりしたような顔になった。
その顔に、ヘレンニウスも執念深く繰り返した。
「まだ言うよ。今は、国家存亡の大事ではないか」
「ならば、人妻を戦場に追いやってよいというか」
「普通の女ならばそうだが、お前の女房は元々…」
また言い合いになった。
スキピオが手を振った。
「ヘレンニウス、もうよい」
「…ですが」
「無い物ねだりしても仕方のないこと。与えられた戦力で最善を尽くす、まずはそれを思わねばならぬ」
スキピオは割り切っていた。
(これまでも、シチリア・カンパニアでなんとか勝利をもぎ取っておるのだ)
と、その時。執事のティロが入って来た。
「ご主人様。来客ですが…」
「今日は忙しいゆえ、全てお断りせよと申しておいた筈」
「それが…」
ティロは、ちらとラエリウスの方を見て、
「ミルト殿ですが」
「なに、ミルト殿」
三人は、顔を見合わせた。
スキピオは執事に頷いた。
「通すがよい」
「はい」
執事は、静かに部屋を出た。
執事と入れ替わりに、そのミルトが現れた。
彼女はスキピオの前に来ると、片膝付いた。
「ミルトにございます。突然の参上のご無礼お許しくださいますよう」
すっと頭を下げた。先頃ラエリウスと共に罪を償うと現れた折と異なり、人妻の落ち着きがすっかり身に付いていた。
「構わぬが…一体、どうなされたぞ」
「お願いがあり、参上いたしました」
「…願いとは何か?」
「是非とも閣下のお供をさせて頂きたく存じまして」
「それは…私のために働いてくれる、と申すのか?」
スキピオは目を大きく見開いた。
「はい」
「む…」
スキピオは、ちらとラエリウスの顔を見た。
「ミルトよ。そなた…」
夫のラエリウスが口を挟みかけたが、妻のミルトが制した。
「今、わたくしはスキピオ閣下とお話しいたしております」
「お前…」
色をなし立ち上がりかけたが、今度はスキピオが制した。
ラエリウス、仕方なく、渋面のまま再びどかっと座った。
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