新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

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  娼館の老主人 (続き)
 神殿に着くと、ミルトの手から酒壷と牛が引き渡された。
 牛は神官の手で屠られ、神前に供えられた。
 一通りの儀式が終わると、そこにはハンノンとミルトの二人が残された。
「そなた…なにゆえこの街にやって来た」
 ハンノンは、そんなことを訊いて来た。
「え…」
「ふふ」
 老主人は笑った。
「こんなことは普通訊かぬ。娼婦となる者は訳ありばかりだからの。だが、そなたは何か違う。目に輝きが残されておる。いや、むしろ希望の光が強い。何かとある目標のために娼婦になっているかのような…」
 それはそうだ。彼女は、ローマ国家のため、というのは表向きの理由で、実は自分の幸福のため、夫との未来のため、そして恩人スキピオのため、ここに潜入しているのだ。
「それは…」
 ミルトは答えに窮した。
(こういう目があった…)



「答えにくければ言わずともよい。だがの」
 ハンノンは穏やかに続ける。
「この街を、終生の住処として生きる者も大勢おる。カルタゴ人だけではない。イベリア人もギリシア人も…。そのことを忘れないでもらいたいのだ」
 老主人は何か勘付いたのかも知れぬ。
 長い娼館稼業に生きてあれば、様々な人間を見て来たことだろう。多いのは借金の型に投げ込まれた者や逃亡奴隷であったろうが、それ以外にも、胡散臭い連中の仮の姿も見て来たに違いないのだ。



 ミルトはこくりと頷いた。
「かしこまりました。…肝に銘じておきます」
「そうか…」
 ハンノンはにこりとした。
「礼に良いことを教えてやろう」
「なんでございます?」
「あれを見よ」
「あれは…」
 潟に多数の船が浮かんでいる。漁師が漁に勤しんでいる。



「あ!」
 ミルトは素っ頓狂な声を上げた。
「何を驚いている?」
「漁師が水の上に!」
 そう。漁師たちが水面の上に立っている。いや、そう見えただけで、海水が引いて膝下まで低くなっていたのであった。海の中に入って、手探りで貝やら何かを穫っている。
「どうして…」
 朝、ここに来た時は満面海水を湛えていた筈。
「ははは。やっと気付いたか。そうなのじゃ。夕刻になれば、この潟は大きく潮が引いていく」
「なにゆえでございます」
「海流のせいだと言う奴もおる。風のせいだとも」
 地中海は潮の干満の差が極めて小さい。それゆえ、風の作用が大きかったのではないかと推測される。残念ながら現代それを実証する術はない。というのも、この潟は、その後の歴史で干拓により消失し、今は市街地となっているからだ。



「いずれにせよ、夕刻になれば北の大地と陸続き同然になる訳だ。この街の住人でも案外知らぬ者が多いがの」
「ふーむ」
 ミルトは唸った。
(見つけた…ようやく見つけた)
 その興奮だった。
 そう。彼女は見つけたのだ。この都市の唯一の弱点を。

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