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追撃戦
「閣下、直ちに追撃の命令を!」
マルキウス、俄然、猛将の顔に戻ると、そう急き込んでいった。
「もう命令は出してある」
スキピオは笑った。
「え!」
「ラエリウスに五千の兵を授け、密偵のハンノン殿を付け、既に送り出してある」
「な、なんと」
「だから申したのだ。諸君は、ヒスパニア全土平定の大功という大きな宝玉を、ラエリウス一人に奪われてよいのか、と」
その言葉に誰もが唖然とした。
スキピオは、勝利に酔うどころか、次の手を早くも打っていたのだ。それも、この勝利に乗じ、ヒスパニア全土を頂戴するために。
そのことが分かった瞬間、幕舎の中は将たちの叫び声が充満した。
「わたくしも是非向かわせて下され!」
ヘレンニウスが吠えるように志願すると、マルキウスが彼を押しのけて前に出た。
「何をいうか!それはこの俺様の役目だ!」
「いかに軍団長殿とてこれは譲れませぬ!」
「なにを!」
誰もが我も我もと身を乗り出した。
このままでは、掴み合いになりそうな雲行きであった。
「諸君、静まり給え!」
スキピオは手を上げ、軽く制すると、
「働き場所はまだ幾らでもある。…というより、働いてもらわねば困るのだ」
苦笑して見せると、手招きしてミルトを呼んだ。
彼女は机に大きな地図を広げた。真ん中にバエティス川の流れが太々とひかれ、本営のある現在地からイリパの城、バエティス川の河口一帯、そして、ガデスに至る地形を詳細に記したものであった。
イリパの戦いの前から、ミルトに命じて作製させていたもの。
スキピオは合戦後の追撃も考慮に容れ周到に動いていたのだ。
「イリパに至る途は、ラエリウスらの手勢で封じてある。それゆえ、ジスコーネは、こう進むに違いない」
彼の持つ筆先が、すっと斜め下へ動いた。
「このように下流へと南西へ走り、そして、バエティス川を南東へ渡ろう。そして、ガデスに退却する筈」
諸将の目が、その筆先に釘付けとなった。どこが己の働き場所となるか、食い入るように見詰めていた。
「そこで…」
スキピオが諸将の顔を見た。
「まず、シラヌス殿、マルキウス殿」
「はっ」「おう!」
「貴殿らには、軽装歩兵と騎兵合わせて五千の兵を授けますゆえ、渡河にかかろうとする敵勢の背後から襲いかかって下され」
「なるほど…」「それは妙案」
二人の熟達の将は唸った。
「ヘレンニウス、ルキウス」
「ははっ」「はっ」
「そなたらには重装歩兵五千を授ける。シラヌス殿らの軍勢に敵勢が追い散らされ退却する所を、どこまでも追撃せよ」
「おう」「かしこまりました」
「他の者は、私が率いる後方部隊と共に行動する。討ち漏らした敵を掃討するのだ」
まさしく、スキピオは、ヒスパニアの陸上からカルタゴ勢力を一掃せんとしたのだ。
間もなく、ローマ軍の陣営も慌ただしく動き始めた。
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