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追撃戦(続き)
その頃、ジスコーネ率いるカルタゴ軍は、スキピオの予見通り、バエティス川河口方面に進んでいた。イリパに通ずる道が、早くもラエリウス率いる部隊に封鎖されていると知ったからであった。
「なんたる手回しのよさよ」
ジスコーネは、スキピオの周到な采配に舌を巻いた。
だが、彼は狼狽していなかった。さらに下流にも、幾らでも渡河するに適した地点のあることを知っていたからだ。
「ならば下流に向かうのだ。さすがに、そこまでは手が回っていまい」
ということで、全軍進路を変え南東の方角に進み始めた。
「下流に向かうぞ!」「川に沿って進むのだ!」
兵たちは、傷ついている身を濡らし、あえぎあえぎ行軍した。
だが、イベリア兵の多くは、もはや戦意を喪失していた。
「このままついていっても見込みはないぞ」
「そうだ。逃げ出すならば、今のうちだぞ」
雨は敵の目を紛らすのに好都合と同様、脱走兵にもまたとない逃走の機会を提供していた。彼らは雨と闇に紛れ、行軍の列からこっそり抜け出した。
カルタゴの上将たちに咎める余裕はなかった。追撃を振り払うのが先決。そういうことだから、道々、こぼれ落ちるように兵が姿を消していく。
やがて、下流のとある地点に達した。周囲は緩やかな丘陵が広がっている。
川幅は1スタディオン(約177m)ほど。だが、折しもの雨に水嵩増し、大蛇がうねるように流れていた。
「よし。ここらは浅瀬だ。小舟並べ橋を架けて渡河するのだ」
ジスコーネの命令に、早速カルタゴ兵は橋を架け始めた。
山に遭えば道を切り拓き、川に遭えば橋を架け渡す。これも戦いの一つだ。しかも、カルタゴは元々鉱山開発など土木工事を得意とする。
だが、豪雨のため水嵩増し水流速いとあって、工事は甚だ難渋した。
それでも、なんとか小舟を繋ぎ合わせ船橋を対岸へと伸ばしていく。
「間もなく橋が完成いたします」
アドヘルバルが言った。
「うむ。渡河さえ出来れば…」
ジスコーネ、祈るような心地であった。
(対岸には敵もいないであろう。ガデスまでの退路が開ける)
と、その時である。
「閣下!」
アドヘルバルが叫んだ。
「どうした?」
振り返ったジスコーネの顔が凍り付いた。
それは背後の丘陵の上に、ずらりと松明が灯っていたからだ。
「あれは…ローマ軍か!」
その軍団は、喚声を上げると、なだらかな丘を駆け下って来る。
「それ、一気に突き崩すのだ!」
「バエティス川に追い落とせ!」
押し寄せて来たのは、シラヌスとマルキウス率いる軽装歩兵と騎兵隊だ。
背後から襲われたカルタゴ軍は、大混乱に陥った。
「うわっ!」「ひいい!」
カルタゴ兵は逃げ惑った。
彼らは昼間に手痛い敗北に遭ったばかり。戦意既になく、ローマ兵の剣槍の鋭峰をよけるべく、散り散りに逃げ始めた。
「引くのだ!ここを捨てて退却するのだ!」
ジスコーネ、渡河を諦めると、敵の包囲網を突破し、西南へと馬を走らせた。
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