|
https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村
↑
ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)
大平原の戦い−我が教師(続き)
この刻々躍動する戦況の推移に、セルギウス、感に堪えない面持ちとなった。
「プロコンスル閣下。御味方は、閣下の命無く適切な行動に移りましたぞ」
「これは我が教師の教えであるからな」
「教師…どなたのことです?」
「ハンニバルだ」
「ハンニバル…」
セルギウス、思わぬ名に瞳を大きくした。
「ふふ」
スキピオは含み笑いした。
「人生の教師たるは、何も味方にある者とは限らぬ。敵にある者であっても、立派な教師となりうる。特に、一国の将であるからには」
「なるほど…これはカンネーの戦い…ですな」
「そう。ミルトによると、彼はこう言ったとか。優れた作戦とは、声枯らして令を伝えずとも、味方が適宜行動とれるものをいう、と。あの戦いでは、カルタゴ歩兵は自然と我がローマ歩兵を前方左右から挟撃し、カルタゴ騎兵は後方を衝いて来た」
「なるほど…」
セルギウスは唸った。
眼前の光景はまさにそれであった。押されまくっていたローマ歩兵は、ケルト・イベリア兵の鋭峰をよけるように左右に分かれていたが、敵勢の進撃の足が止まると、その両翼に回り込む格好で攻め立て始めていた。そして、背後には騎兵隊が突っ込んでいる。
これは、カンネーの戦いにおける展開に、驚くほど相似している。
スキピオは繰り返した。
「ハンニバルこそ、戦場における我が教師なのだ」
そういうと、彼は右手を上げた。
後方に退いていたウェリテス兵の再投入を命じたのだ。
ケルト・イベリア兵の前面で戦うトリアリィ兵の隊列に分厚さが増した。
その後もケルト・イベリア兵の抵抗は続いた。
いや、彼らには、その途しかなかったからだ。
イベリアにある間、ローマに許された彼ら。それに叛いて、遥々とこの戦線にローマの敵方となってやって来た。従って、彼らを受け容れてくれる都市や部族も皆無なこの地。
「戦うのだ!」
「ローマ兵を倒せ!」
だが、四方全てローマ兵。
あたかも潮の渦に巻き込まれるが如く、包囲は急激に縮まった。
ローマ兵の雄叫びの中、ついにケルト・イベリア兵は全滅した。
数刻あまり続いた戦いは、ローマの大勝利に終わった。
大平原の草原に、ローマ兵の歓喜の凱歌が響き渡った。
その中を、兵の歓呼に応え進むスキピオの姿があった。
彼の瞳は遠くを見詰めていた。
(ついについにここまで来た)
彼の瞳には、次の舞台が映っていた。そこには、未だ干戈を交わしたことのない相手の姿が映っていた。
(ハンニバル…次はあなただ)
第10章アフリカの章終わり。第11章ザマの章に続く。
|