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マニアケス帰る(さらに続き)
実は、マニアケスは、二人の安否の確認と解放を図るため、密かにスキピオに働きかけ続けていた。
対するスキピオの反応は鈍かった。
「ガデス陥落の際に捕えられローマに連行されたようだがの。調べておく」
ヒスパニア司令官だった彼は詳細を承知している筈なのに、とマニアケスはいぶかったが、相手は戦勝国最大の実力者。それ以上、強く追及も出来ない。
その後の再三の問い合わせにも、
「セルギウスに命じ調べさせておく」
と、のらりくらりかわされるばかり。
同じ頃、マサエシュリの王シファクスが虜囚のまま死去したとの報が耳に入ると、焦燥を深めた。
(まさか…。御二人の身に何かあったので、口に出せずにいるのではないか…)
マニアケスは不安に駆られた。
彼女が帰国を決断したのも、ハンニバルと協議し、善後策を練るためでもあった。
「いやのう」
スキピオは苦笑した。
「もともと、二人の御仁は、そなたの帰国に併せて解放する予定であったのだ」
「そんな…人の悪い」
マニアケスは美しい眉を少し寄せた。
あれほど心配して様々に問い合わせてして来たのに、ということであろう。
「ふふ」
スキピオは、悪戯を見つけられた少年のような笑みを浮かべた。
「無事を伝えれば、そなたはすぐに連れて帰ると言い出すであろう。そこで、セルギウスに命じ、とある娼館の一角に住まわせていた」
「娼館に…」
マニアケス、セルギウスが元娼館の主であったよと思い出したようだ。
「二人をだしに時間を稼がせてもらった、という訳だ。これが余の土産だ。連れて帰れ」
スキピオは全てを白状した。さばさばしていた。
とはいうものの、これはスキピオ格別の配慮であった。
敵国の捕虜の解放は、身代金などの代償を伴うもの。特に、身分が高いと、その値はぐんと吊り上がる。ハンニバルの妻子ならば、途方もない巨額になりかねない。
スキピオは、それを、すぱと無償で解放するというのだ。
それだから、
「大丈夫なのですか?」
マニアケス、かえって心配の言葉を口にした。
「私の取り分として預かっていた。大丈夫だ」
スキピオはニヤとした。
つまり、戦利品のうち司令官の分け前として預かっていた、ということなのであろう。ということは、金銀宝石と同じく自分の財産であり、どう処分しようと勝手ということになる。
マニアケスは、ここでも震えるほどに感動した。
「ありがとうございます。このことは、必ず…必ずハンニバルにも伝えます」
マニアケス、ローマでは決して口に出すことのなかった主の名を上げ、感謝の言葉を口にした。
スキピオも頷いてこう言った。
「伝えてくれ。戦いは終わった、とな」
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