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待ち人来る
紀元前195年秋。ここイオニアのエフェソス。
アンティオコス大王は、再びここに戻っていた。
「ゼウクシス、ギリシア世界の現況はどうか」
リュディア総督である腹心の彼に訊いた。
このゼウクシス、第二次マケドニア戦争では、小アジア全域を舞台に暗躍した。フィリッポス五世に味方すると思わせ、肝心な部分で援助の手を引くなど、アレクサンドロス大王再来を気取る偽英雄を随分と苛立たせたことであった。
無論それはアンティオコス大王の意図に沿うものであった。
「フィリッポスを助けよ。されど勝利を助けるな」
大王はそう命じていた。
小アジアにフィリッポス王の勢力が拡大し過ぎるのは困る。強国ペルガモン併呑となっては一大事。とはいえ、フィリッポスとの同盟がエーゲ海進出の大義であったから、見た目は同盟国の振る舞いでなければならない。
ゼウクシスは、そこらのさじ加減をうまく塩梅して来た。例えば、フィリッポスがペルガモン包囲戦の際、兵糧の補給を求めて来たことがあった。その時にも、
「承知した。すぐに手配つかまつる」
二つ返事であったが、兵糧の輸送を何のかんのと理由を付けて遅らせ、結局、補給に詰まったフィリッポスは退却していった。
結果、目論見は成功したといって良いであろう。フィリッポスの占領地の多くを、今や大王の軍が占領し、さらにイオニア、リュキア、カリアの地域に大きく勢力を張り出すことに成功した。リュシマケイアの再建も順調に進み、長男のアンティオコスを現地軍司令官として派遣していた。
「は。先頃のイストミア競技祭の布告により、ギリシア民衆のローマへの信望ますます高く。アカイア同盟諸国、アテネやスパルタでは、ローマを讃える人々の声で埋め尽くされております」
ローマのフラミニヌスは、ローマ元老院の名で、イストミア競技会場において全ギリシアの独立・自治の復活を宣言していた。それはギリシア人の歓喜をもって迎えられた。
「そうか…」
大王は冷笑した。
「ということは、アイトリアは甚だ不愉快であろうな」
「はい。まさにその通りで」
ギリシアの覇者を自負するアイトリア同盟は、ローマが意のままに和平条約を起草し、ギリシア世界の新秩序を定めていくことを、苦々しく憤懣やり方無く思っていた。
このアイトリアだけが、イストミアの布告に不満を抱いていた。
「…して、手は打ったか」
「はい。いずれからも、陛下の御来光を切望するとの返事」
ゼウクシス、会心の笑みを浮かべた。
そう。アンティオコス大王は、アイトリア同盟と手を組み、ギリシア進攻を企図していたのだ。そのための道程を、腹心ゼウクシスにせっせと均(なら)させていた訳だ。
(時は間近。アイトリアに上陸し拠点を確保し、マケドニア、アカイアを制圧してしまえば、ローマとてどうにもなるまい)
ローマも、リュシマケイアの決裂以降、アンティオコスの進攻を予期し、デメトリアスとカルキスに守備隊を置き備えていた。
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