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二人の述懐(続き)
「あれは…マッシリアであったなあ」
スキピオは敢えてラテン語で語りかけた。
となると、理解出来るのはローマ軍の将官だけ。ここでは、スキピオ兄弟の他は、軍団長ドミティウスだけということになる。
「はい。閣下を抹殺するつもりでヘタイラ(娼婦)に扮し近づきました」
マニアケスは、ほほと笑った。
今から28年前の紀元前218年、スキピオは父スキピオ率いる遠征軍に従いマッシリア(現マルセイユ)に赴いたことがある。
「危なかった。そなたの美貌と踊りに夢中になっていたら、いきなり襲いかかって来たのであるからな。ラエリウスがいなかったら、仕留められていたことだろう」
スキピオは首筋をぺんぺん叩いた。
二人は、あたかも幼馴染みが再会したかのように、昔話に興じていく。
居並ぶ諸将は唖然としていた。
エウメネス王らギリシア人の将には会話の内容は分からない。だが、その語気で、二人の会話が親し気なものであることは察することが出来る。
「かえすがえすもアルキメデス先生を救えなかったのは悔やまれる」
スキピオは、ずっと心の底にあったつかえを、ここで吐き出した。
マニアケスは苦笑した。彼女こそシラクサ争奪戦の当事者の一人。
「先生は私がどうこう言う前にとうに覚悟を決めておられました」
「分かっている。あの時は分からなかったがな。今はよく分かる」
アルキメデスは、ヒエロンの遺託に従い全智全霊を駆使してローマと戦い、国家の最後に己の最期を重ねた。それはいかなる名将をも凌ぐ潔い最期であった。
「良く生き良く死んだ。人間らしい生き様なのだと」
「まこと正々粛々、御立派な振る舞いでありました」
二人は、しみじみと述懐した。
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