|
[https://novel.blogmura.com/novel_historical/ranking.html にほんブログ村 歴史・時代小説]
↑
ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)
名将問答(続き)
「わざわざそのことを伝えるためにここへ?」
スキピオは訝し気に訊いた。
身柄引渡を要求している敵将の、今後の行く末を気遣っているのだ。
「ふふ」
ハンニバルは隻眼を細めた。
「そなたは私の得難き好敵手であった。また、ザマの後には寛大に遇してくれた。これぐらいのことはしておくべきだと思ったのだ」
ザマの敗戦後に思いがけぬ寛容を得たのだから、それに匹敵する恩恵を与えねば面目が立たぬ、といういかにも名将らしい負けず嫌いなのであろう。
「なるほど…御忠告ありがたく心に留め置きましょう」
スキピオは微笑んだ。
「私からも、一つ、あなたに訊きたいことがあるのです」
今度はスキピオが口火を切った。
「何かな」
「古今の武将で、あなたが認める者たちです」
「ほう…」
ハンニバルは、隻眼をスキピオの顔へ向けた。
「あなたは、世界史に通じ、また我がローマの勇者たちと戦い続け、幾度も勝利を収められました。あなたの評価を、恐らく歴史家も拝聴したいと思っておりましょうからな」
そんな風に言ったが、スキピオも強烈な関心を持っていたに違いないのだ。そして、自分の位置も知りたい、と。これは、武将としての本能に近い好奇心であろう。
「第一はアレクサンドロス」
「やはり」
「彼は、辺境の一王国マケドニアの王であったが、マケドニアとギリシアの寡勢を率い、百万の大軍を擁するペルシア帝国に戦いを挑み、それを滅ぼし、インド亜大陸にまで進んだ。そして、ヘレニズム文明の基を建設した。その功績、人類史上誰にも真似出来ぬもの。第一の英雄の名に値しよう」
この時代、この点については誰の異論もなかったろう。それほどアレクサンドロス大王の威名は世界に轟いていた。将たる者の憧憬の対象であったのだ。
「…では第二は?」
「第二はピュロス」
「ほう」
スキピオは意外な面持ちをした。
「ピュロスは、若年の折、イプソスの戦い(紀元前301年)で縦横無尽に働いたものの捕えられた。が、その後も尊厳を保ち、見事エピロス王に復した。そして、小国の王にもかかわらず、イタリアに進攻、そなたのローマと互角以上に戦い、我がカルタゴとも戦い、さらにはシチリア全土を一時とはいえ平らげた。その類希な戦略、戦術眼はアレクサンドロスに次ぐものと評価できよう」
「ふーむ」
スキピオは唸った。
ピュロスに対する高い評価は異論もあるのではないか。
確かに、戦術の天才と評された彼であるが、終生まともに確保した国土はエピロスのみ。イタリア遠征は大失敗に終わり(第四章)、アンティゴノス王朝から奪い取ったマケドニア王位は、彼の死と共に奪い返されてしまった。
優れた戦術家ではあっても優れた戦略家ではなかった、そう評価出来る人物だ。
|