新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

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 名将問答(さらに続き)
 スキピオは微笑して耳を傾けていたが、
「第三もおありかな?」
「第三は私ハンニバル」
「なるほど」
「自賛にも似るが、イベリアを平定し、アルプスを越え、強国ローマと十数年に渡り戦い続けた。このことだけで充分称賛に値するものと自負しておる」
「ふーむ」
 スキピオは、にやとした。
「私は、あなたより下という訳ですね」




「スキピオ殿」
 ハンニバルが隻眼を細めた。
「あなたは私があるおかげで今日があるのだ。あなたは私を教師とし反面教師ともして、戦術眼を磨いて来た筈だ。ザマの戦いぶりを見ても、そのことがよく分かる。即ち、私はあなたの教師。あなたは私の生徒。教師が生徒より上なのは当然であろう」
 確かに、スキピオの戦術は、ハンニバルの戦術を参考にしていた。伝統的な重装歩兵による突撃一辺倒の戦術から、騎兵を駆使した包囲撃滅戦術を採用したスキピオ。それはハンニバルの戦法に着想を得たものに相違なかった。
「なるほど」
 スキピオは頷いた。




「それでは、もし、あなたが私に勝っていれば、どうなっていたのです?」
「その時は、私が、ピュロスはおろかアレクサンドロスをも越えて第一の武将となる。その時には、この地上に私に敵対できる者は誰一人いないのであるからな。マケドニア、エジプト、シリア、そして、アジアの果てまでも全て私に服したであろう」
「なるほど…」
 スキピオはくすりとした。
 でも、そのハンニバルを打倒したスキピオ率いるローマが地中海世界の覇者となったのであるから、ハンニバルの言はあながち法螺とは言い難い。




「ははは」
 スキピオは笑い出した。
「どのみち私はあなたに敵わなかった、ということですな」
 スキピオのいたずらっぽい物言いに、ハンニバルも唇を綻ばせた。
「そう。戦いの勝敗と人間の格付けは、次元の異なる話だ」
 隻眼の男は、アルテミスの像の方を振り返った。
「勝負とは思いもよらぬ目が出るもの。人の業では如何ともし難い」




 それは、ハンニバルの偽らざる本音であったろう。彼は連戦連勝。長く無敵を誇った。
 なのにローマ打倒は叶わなかった。結局、ローマ勃興の歴史の趨勢に敵わなかった、ということが出来るのであろう。
 ある歴史家が、このことを直截に表現しているので引用しておこう。
「もしハンニバルが、世界の他の地域から始めて、最後にローマに来ていたならばも狙っていたものを一つ残らず手に入れたことであろう。ところが、最後に向かって行くべき相手を最初の遠征先に選んでしまったために、そこが全事業の始まりともなり終わりともなったのである」

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