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降伏勘定
この膠着を密かに己の好機として、アンブラキアを訪れた男がいる。
アタマニア王アミュナンドロスである。
彼は義兄のマケドニア王即位という好餌に吊られ大王に味方した。そのため、フィリッポス五世の侵攻を招き、祖国を追われた。
(馬鹿なことを信じてしまったものだ)
痛く後悔したが後の祭り。王族を引き連れエピロスに亡命した。
その後、アイトリアの兵力を借り、マケドニアの部隊を追い散らし、アタマニアの王座を回復することが出来た。フィリッポスの置いた総督の統治が乱暴であったため、アタマニア人が彼の復位を望んだからでもあった。
「アンブラキアの人々には恩義がある。何とかして、余の手で和平を取りまとめたい」
フィリッポスから追われて逃げ込んだのが、このアンブラキアであった。
もっとも、彼には思惑がある。
(ローマに取り入る口実が出来た)
既に、スキピオ兄弟に対しても釈明する使節と手紙を送っていた彼。
(実績をもって、再度ローマとの同盟を復活させたい)
戦後秩序を思えば、ローマの敵として王国を保持することは不可能。
そのため、ロードス、アテネの使者と共に、ローマ軍本陣を訪れた。
「よいであろう」
ローマ軍総司令官ノビリオルは言った。
「アミュナンドロス王には城内に赴かれ、市民を説得して来るように」
この無益な攻防に辟易していた彼は、あっさり許可した。
王は単身市内に乗り込むと、市民の説得に取りかかった。
最初、和睦に消極的態度であった市民は、王の必死の説得に耳を傾け出した。
「分かりました。ですが、我らは同盟の義を貫きたい。城内にあるアイトリア兵の安全な退去が最低限の条件」
強敵ローマを相手にアンブラキア市民は最後まで義を貫いた。これは称賛に値する。
「分かりました。ローマに伝えましょう」
アタマニアの王も感銘を受け、ローマ軍本陣にも戻ると、総司令官ノビリオルを懸命に説得した。
「よろしいでしょう。ですが、あとはこちらに任せてもらいます」
ローマ人の信義に委ねることを求めた。即ち、無条件降伏だ。
とはいえ、仁義を貫いた相手には過酷に報いないのがローマの流儀。
「分かりました。アンブラキア市民に伝えましょう」
王が戻って伝えると、市民は直ちに承諾した。
こうして和議が成立した。アンブラキア市民はアイトリア兵の安全な退去を見届けると開城し、ローマ側に委ねた。まことに潔い対処といえよう。
ローマ軍は、入城するとピュロス時代の王宮に真っ先に乗り込んだ。そして、美術品やら財宝を接収した。だが、市民に対しては危害を加えられることはなかった。それらの財宝だけで、充分ローマ軍を満足させたからだ。
アンブラキア市民は、古今の徳により、自身の身体ばかりでなく尊厳も護持し得たのである。
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