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降伏勘定(さらに続き)
幸いローマ軍は、まだアイトリア本国領内に進んでいなかった。
パイネアスらは、直ちに総司令官ノビリオルに面会を求めた。
「左様か。和平案を受諾、とな」
「はい。アイトリア議会は、以降ローマの友となることを圧倒的多数の賛成で議決いたしましてございます」
「それは祝着」
ノビリオルは頷いた。
「だが、知っているとは思うが、コミティアの承認なくば条約は発効しないのが我が国法の定め。我らも使者をローマに送るゆえ、貴殿らも速やかにローマに向かい給え」
執政官は知っている。ローマ本国のアイトリアに対する嫌悪を。
大王との戦いの発端も、元はと言えば、このアイトリアが煽りに煽った末のこと。傲慢な相手を嫌うローマ人気質からすれば、これほど不愉快な相手はなかったのだ。
「かしこまりました。直ちに向かいます」
アイトリア人たちも知っている。自分たちが嫌われ者であることを。
それゆえ、ローマ人に受けの良いロードス人とアテネ人の使節を共に連れて向かった。
ローマに着くと、果たして、元老院は反アイトリアの空気に満ち満ちていた。
「アイトリアの言い分など耳を傾ける価値なし」
「完全に制圧し、領土は同盟国に分け与え、財産と身柄を我らが接収すべきである」
かつてのアイギナの如くに処分してしまおうという強硬論もあった。
これはマケドニア王フィリッポス五世の働きかけもあったからである。フィリッポスは、交流のあった元老院議員に働きかけ、犬猿の間柄にあるアイトリアの弱体化をここぞと図って来たのだ。これも冷徹な外交戦の一つであった。
「これはまずい」
パイネアスらは狼狽し、ロードスとアテネの使節に頭を下げた。
「我らにお任せあれ」
ロードス人の使節ダモンが胸を叩いた。
ロードスはペルガモンに次ぐローマの友邦。説得する自信があった。
ロードス人ダモンは元老院で演説した。
「ローマの人々の憤りは、全くその通り」
アイトリアこそが、一連の戦いの主犯と弾劾して見せた。
「でありますが、その怒りをアイトリアの民衆に向けるのは誤りです。なぜならば、彼らも、過激な主戦論者に惑わされ、否応無く参戦を強いられたのですから」
反ローマを叫び、アンティオコス大王との同盟に突き進んだ経緯から、この弁明は怪しかったが、一応の論理は成り立っている。
次第に議員たちも耳を傾け始めた。
「張本のトアスらは、既に貴国に引き渡されることになったとか。ならば、アイトリアの大地は、いわば嵐の過ぎ去った凪の如き状態に戻った訳です」
トアスの名が出ると、パイネアスらは肩をびくとさせた。
ついこの前まで、共に対ローマ戦を語り合っていた間柄。トアスが戦犯ならば、自らも戦犯とされてもやむを得ない我が身。アジアに渡っていないことが幸いし、身柄引渡を要求されていないだけ。僥倖に過ぎない。
構わず、今度はアテネの使者レオンが続けた。
「お国への戦いを主導した張本を処罰するのは当然としても、民衆には害を与えませぬよう。なぜなら、彼らを容赦すれば、深く貴国に感謝し、またとない同盟者となるのは疑いないのですから。また、世界に貴国の恩徳を知らしめることになりましょう」
アテネの使節が堂々たる演説を終えると、元老院の空気は一変していた。
そして…。
「我が元老院は、コンスルのマルクス・フルウィウス・ノビリオルの締結した条約を承認し、コミティアへ和平案を上程するものとする」
数日後、コミティアでも和平案は異議なく承認された。
おおむねノビリオルの締結した条項通りであったが、一つだけ、元老院により修正が加えられていた。それは、アイトリアに帰属する領土の範囲に関する条項。
『アイトリア同盟は、ドミティウスが執政官であった年(紀元前193年)以降、ローマ軍により占領され、またローマと同盟を締結した都市も解放若しくは返還しなければならない』
即ち、三年遡っていた。その分、ローマに帰属する範囲、独立を許さねばならない範囲が広がる訳だ。
だが、これまでのアイトリアの傲岸不遜を思えば、僥倖にほかならない。
とにもかくにも、こうしてローマとアイトリアの戦争は終わった。ギリシア世界の戦火がようやく終息したのであった。
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