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アンティオコスその後−金勘定
紀元前187年春。シリア王都アンティオケイア(現アンタキヤ)。
「うーむ」
アンティオコス大王は唸っていた。いや、今の彼はローマに服する一国の王。世界の覇者ではないから、元来のアンティオコス三世に戻すことにしよう。
「アンティパトロスよ。歳入が著しく落ち込んでいるな」
王国各地の総督からの報告書に、王は眉をひそめていた。
「は…」
王族で重臣のアンティパトロスが昨今の王国内の状況を説明し出した。
まず、バクトリアなど東方辺境からの税収が途絶えたこと。
「なぜか。約定に背く振る舞い」
王は不愉快な眉を浮かべた。
東方遠征の折、バクトリア王エウテュデモスは、王位を認めてもらう代わりに、セレウコス王家を盟主と立て貢ぎ物を差し出すことが、和議の条件とされていた。
「左様ではございますが…今やデメトリオスはインドの王。その権勢で、我が王国の指図をないがしろにし出したのでございましょう」
そう。エウテュデモスの死後王位を継承した息子のデメトリオス一世は、ヒンズークシ山脈を越えインドに進攻。ガンダーラを制圧し、さらに西北インドを攻略。バクトリアからインダス河流域に及ぶ広大な領域を支配下に収めることに成功した。
インド・ギリシア王朝の創始である。
その絶頂にあるデメトリオスが、アンティオコスに約束した貢税など閑却しても不思議ではなかった。
「西方の夷狄ローマに降伏したアンティオコス王は、もはやメガス(大王)にあらず。何で盟主と仰がねばならぬ。貢ぎ物など不要ぞ」
インド諸国に君臨する彼は、自身こそが大王の気概であったろう。
「何たるデメトリオスの増長」
アンティオコスは吐き捨てたが、ローマに降伏した影響は甚大だ。諸国を統治するたがが急激に緩み出していた。
東方遠征の折に属国となったパルティアも、自立を強め再び王号を称し始めていた。
諸国が服していたのは、諸王の王という『大王』の格式・威権に基づく。その『大王』の引力が失われてしまえば、バクトリアやパルティアの如き自立心旺盛な衛星諸国が離反していくのは至極当然。
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