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アンティオコスその後−金勘定(続き)
「東方の動きに影響されてか、ペルシスやメディアからの税収も大きく減じております」
シリア王国の歳入の多くは、タウロス以西を失ってからは、東方諸州に依存している。特に豊かな州はペルシス、メディア。両州は今日のイランの領域にほぼ相当する。
ここは王国直轄の領域ではあるが、末端の各地域は土着のペルシア人メディア人の豪族が支配する構造。歳入が上がって来ないというのは、その彼ら土豪たちが、セレウコス王家を侮り始めている明白な兆しであった。
「うむむ」
アンティオコス三世は額に太々と血管を浮かべた。
ローマに対しては、服従を決めた時から、恥辱を堪える日々を覚悟していたが、よもや王国内からこのようなあからさまな下克上を見ようとは思わなかった。
「陛下、このままではローマに約束した賠償金の支払が滞る恐れがございます」
アンティパトロス、王の凄まじい御気色に恐る恐る伝えた。
年賦1000タラントンの支払期限が迫っていたのだ。
「分かっている!そんなこと!」
王は癇癪を破裂させた。
和平後、専ら頭を悩ませ続けて来たのは、まさにその金勘定だからだ。
(何たるザマ…メガスと讃えられていた余が、支配のことではなく、支配され、貢ぎにも等しい賠償金の工面に追われようとは…)
だが、戦後、ローマの勢力は圧倒的。新たな超大国となっていた。今、ローマと事を構えるわけにはいかない。
「スサの神殿の奉納品を接収しよう」
王は思い切った。
スサとは、かつてのペルシア帝国の旧都。そこの神殿は三千年の歴史を誇る。
「えっ!」
アンティパトロスは絶句した。
確かに、有名な神殿には高価な奉納品が集積していた。賠償金の原資には充分。だが、それは、神殿の儀式、修理改築再建などの費用に支弁されるべき、信仰に基づく寄進だ。
アンティパトロスは、その当たり前のことを指摘したが、
「大丈夫だ。ギリシアの神々を祀る神殿ではない」
王はふふんと鼻で笑った。
だが、祀られている神がどうこうという問題ではない。
「そのようなことをすれば民心は王から離れましょう。王国の基盤が揺るぎ出すやも…」
そう。聖地を蹂躙する支配者に反感を抱かぬ者があろうか。
「黙れ!」
王は赫怒した。
「余はセレウコス王家の主!王国の支配者!その者が必要とするならば、王国内にある全てのものが、余の用に供されるのは当然であろう!」
暴論だ。
だが、アンティオコス三世王はそれほどに追い詰められていた。東方諸州の歳入を見込んで巨額の賠償金に応じた経緯があり、辺境の離反により算段がつかなくなった。
彼には、最後の手段である『収奪』しか残されていなかった訳だ。
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