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フィリッポスその後−暴政の嵐
デメトリオス王子の活躍は、マケドニア王国に新たな災いの種を蒔くこととなった。
というのも、王の長子はペルセウス王子。順序から言えば、彼が王位継承資格筆頭。
だが、デメトリオス王子支持の声が急激に高まった。デメトリオスは聡明で元々その期待が高かったことに加え、彼が超大国ローマの事実上の後援を受けていたからだ。
「デメトリオス王子ならば、ローマの攻勢を回避することができる」
その期待である。
現に、ローマ滞在中、実力者ティトゥス・フラミニヌスがデメトリオスにこう囁いた。
「貴君がマケドニア王位を継承してくれれば…。東方は盤石となるものを」
その言葉に、デメトリオスは有頂天になった。
(ローマは私の王位継承を望んでいる…)
宮廷内のそんな空気をペルセウス王子も敏感に察し、危機感を抱いていた。
(このままでは余の王位継承が危うい)
近頃どこからか、彼が正妻ではなく妾腹であることを指摘する声が聞こえて来るのも、彼の王位継承を邪魔立てする静かな動きと思われる。
(何とかして、デメトリオスを蹴落とさねばならぬ)
王国内に、災いの素(もと)が静かに培養され出していた。
時は進み紀元前180年。
この頃、マケドニア王国は、いよいよ騒がしくなっていた。
「海岸沿いの都市の住民を入れ替えよう」
フィリッポス五世王の発案に、重臣たちは仰天した。
「都市住民を北方のエマティア地方に移住させ、代わりに余に忠誠を誓うトラキア人を都市に住まわせる。ならば、諸都市の叛乱を気にかける必要はあるまい」
こんなことを思いついたのは、対ローマ戦の際の裏切りや離反を恐れ、傭兵として重宝していたトラキア人たちを都市住民として厚遇しておけば、戦いを有利に運べるということであろう。だが、都市住民は将棋やチェスの駒ではない。先祖代々そこに住まい、神殿に供儀を捧げ、生活の基盤としているのだ。
だが、この凶暴な王を諌める者は宮廷の中に一人もいなかった。賢臣を粛清し続けたため、王の暴政を阻止する手立てがなく、王国の土台は腐敗し切っていた。
「さあ、各都市の総督に命じ、直ちに実行せよ!」
王の命令により住民の追い立てが始まると、想像を絶する狂乱となった。
それはそうだろう。その日まで生活していた空間から、無理矢理引きはがされるのだ。それも戦争や天災で避難するのではない。国民の幸福に配慮すべき、施政者たる王が、その生活基盤を破壊するのだ。
「なぜ我々がこのような目に遭わねばならんのだ!」
抗議する声が猛然と上がった。だが、それをマケドニア兵の乱暴が押し潰しにかかると、やがて人々の間から王に対する呪詛の声が上がり出した。
「民に無数の害をなす王に災いを与えよ!」
「神よ!フィリッポスに苦しみを与えよ!」
国民に呪われる、何ということだろう。もはや、王座も王環もただただ空しい。
とにかく、この強制移住政策は凄まじい騒乱をマケドニア国内にもたらした。
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