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フィリッポスその後−骨肉の争い
その後も、フィリッポスは来る対ローマ戦のため精力的に動き続けた。
フィリッポスは、ペルセウスとデメトリオスの二人の王子を伴い、大軍を率いて未だ服さぬトラキア北部(現ブルガリア)へ進攻した。
「ここならばローマも文句はいうまいて」
トラキア南部は、ギリシア人諸都市が多くパンガイオン金鉱もある要衝で、ローマや同盟国の目が常時光っている。が、内陸のトラキア北部ならば異心を疑われることはない。
確かに北トラキアはギリシア・ローマ世界からすれば辺境だが、未開の土地では決してない。豊かな森林、肥沃な平原。古来トラキア人の王国が栄えて来た大地である。
しかも、ここを制圧すれば、精強なるトラキア人が支配下に入るのだ。
「大軍が手に入るのと同じだ」
フィリッポスは抜け目なく勘定していたに違いない。
また、この地域は、かつてアレクサンドロス大王の父フィリッポス二世が遠征したこともあり、その際に建設した植民都市がトラキア人支配の許で残っていることも、興味関心を誘った。二世王は、ここを制圧し、大王の東方遠征の基礎を固め得たのだ。
「フィリッポス(五世)がフィリッポス(二世)の偉業に倣うのだ」
遠征は順調に進んだが、途中である事件が起こった。
フィリッポスは、敵対するトラキアの諸部族を撃破し、北へ北へ突き進んだ。
「ハイモン山に登ろうではないか」
王は思い立った。ハイモン山とは今日のブルガリア西南部にある鋭峰。
この山頂からポントス海(黒海)とアドリア海の両方を見渡すことが出来ると聞いたからだ。実際、アドリア海を望むことは出来ないのだが、そういわれていたらしい。
「陛下」
王子ペルセウスが進み出た。
「登山には、デメトリオスを連れて行かぬ方が宜しゅうございましょう」
「なぜそんなことをいう?」
「あやつはローマびいき。何かを漏らすやもしれませんぞ」
確かに、デメトリオス王子は、ローマ人質時代に厚遇され、解放後も訪問するたびに歓待を受けていることから、マケドニア宮廷内のローマ派筆頭ともいえる存在となっていた。父が反ローマの言動をするたびに諌めて来たほどだ。
だが、その言葉に王は怒った。
「汝は…。余が兄弟常々仲良くせよと申しているのを忘れたか」
兄弟の険悪を懸念し、日々言い聞かせていた彼なのであった。
「いいえ。申し上げたいのは、弟に異心なくとも危険ありということです」
「なに…」
「弟の許にはローマから訪れる者が多うございます。何気ない会話の中で、陛下の遠征の有様を聞けばどう思うでしょう。ましてや、ポントスからアドリアを見渡すハイモンに登ったと聞けば、きっとローマの警戒を招くに違いありません」
「む…」
王は言葉に詰まった。
彼は、本心を息子たちにも明かしていない。軍備増強・領土拡大も、テッサリアやトラキア南部の失地を埋め合わせるためであると誤摩化していた。
だが、ペルセウス王子は勘付いていたらしかった。この王子の方が、父の気質を強く受け継いでいるらしい。
「…そなたの危惧する所は分かった。デメトリオスには余が話そう」
「ははっ」
ペルセウスは、己の目的が達せられたことを確信し、笑みを浮かべて踵を返した。
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