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フィリッポスその後−錯乱の末に
ペルセウス王子は、クサントス犠牲式の事件後、さらにデメトリオス追い落としの策を凝らした。噂をまことしやかに流布し、宮廷内に疑念が渦巻き出したのを見計らい、
「陛下、どうやら弟はローマへの亡命を企んでいる模様」
フィリッポス王の前に沈痛な面持ちで訴え出た。
「な、なにっ!ローマに!」
王は驚愕した。
「弟は、陛下を悪し様に申し、このままでは王国の行く末安心ならずとか」
「うーむ」
王は唸った。
普段なら長子のそういう言動を叱り飛ばす彼であったが、実は、彼の耳にも同じことが別から入っていた。
(デメトリオスよ…余を見限りローマへ出奔するつもりなのか…)
愛する息子の背信に、王は呆然とした。
だが、これもペルセウスの策略。彼は、デメトリオス王子の側臣の一人を買収し、フィリッポス王に同じことを密告させていた。嘘というものは、一方向のものは見破るのは容易いが、複数から聞こえて来ると、途端に真実性が増すところがある。
そういう人間の弱さをペルセウスは巧みに衝いたのだ。
「陛下、このまま時を過ごせば、デメトリオスがローマの軍勢を連れ、王国に攻め入って来ることでございましょう」
それからというもの。王は苦悩した。一睡も出来なくなった。
戦備は整いつつある。トラキアの広大な領土を支配下に収め、かつてのテッサリア以上の富強を手に入れた。
(間もなく時は訪れるというのに…)
デメトリオスがローマに亡命すれば、恐らく内情は筒抜けとなるであろう。
王子にも真意は秘密にしていたが、軍の急激な強大化に勘付いていたに違いない。巨大な戦力を向ける先がローマ以外にあろう筈はなく、ローマ元老院がデメトリオスを通じて事実を知れば、直ちに大軍をもって攻め込んでくるであろう。
(王家か…我が息子か…)
僅かに揺らぐろうそくの炎に、王は脂汗を浮かべ自問を繰り返した。
苦悶する王の有様は、マロネイア事件の遺族や、強制移住で故郷を奪われた人々の呪いが、まさに現実になった観がある。暴君への当然の報いであり、同情の余地はない。
国政が乱麻の如く乱れているのに、王室の家政が平穏無事などあり得ぬではないか。
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