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※↑ペルシア帝国の旧都スーサの遺跡です。今は礎石すら残っていません。アンティオコスの時代(紀元前二世紀)は、まだそれなりに繁栄していたようです。
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アンティオコスその後−収奪
アンティオコス三世王は、行幸と称して都を出ると、旧都スサに赴いた。
「陛下、何もかも初めての風景」
王妃エウボイアは、馬車から身を乗り出し、周囲の風景に夢中になっていた。
エラム時代の城壁、ペルシア帝国時代の建造物に神殿。
ここはメソポタミア文明以来の世界最古の歴史を誇る地域。未知の地を訪れるのが旅行ということならば、ここはギリシア人にとって格好の旅先であったろう。
「そうか。良かったの」
王は椅子に肩肘着いたまま素っ気なく応えた。風景の方には視線一つ遣らない。彼は道中ずっと憮然としていた。
王妃は不思議そうに首を傾げた。
「陛下は…愉しくはないのですか?」
「う…いや」
王は慌てた。
「ここは以前、謀反人のモロン兄弟を討ち取った折に来たことがあるのだ。それゆえ面白くない顔になっているのやも知れぬ」
そんな風に取り繕った。
実の所、風景などどうでもよかった。むしろ、殺風景で何の価値もない、そんな場所であってくれた方が救われる心地であったのだ。
王妃も連れて来たくはなかったが、どうしてもとせがまれやむなく連れて来たのだ。
「陛下」
重臣ムサイオスがやって来た。
「地元の神官や領主たちがご挨拶にと訪れていますが」
支配者の行幸とあらば、地元の有力者がやって来るのは当然のことであったが、王は何ゆえか甚だ不機嫌になった。
「そなたが挨拶しておけ」
「え…いや、それでは…」
ムサイオスはうろたえた。
地元の有力者は、大王に面会することにより、自身の支配権を公認してもらうという意味がある。これはペルシア帝国以来の伝統だ。
かつて、ペルシア大王に面会した者は、それだけで絶大な栄誉を与えられた。それだからこそ、行幸の莫大な費用の負担にも応じるのだ。
「支配権はこれまで通り認める。そう伝えてやれ。今は誰とも会いたくないのだ」
王は頑に言い張った。
王妃は、不思議そうに、そんな彼の横顔を見詰めた。
そこには、かつて民族の隔てなく誰とも接した『大王』の鷹揚な姿はなかった。何かに怯え猜疑する君主の表情があった。
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