新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

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 アンティオコスその後−信頼を裏切った結末(続き)
「余に何か意見があるということだな」
 王は努めて穏やかに言葉をかけた。
「はい。直ちに神殿の略奪をお止めくださいますようお願い申し上げます」
 ギリシア語の素養ある人物が選ばれたと見え、流暢に意見し出した。
 横にいる王妃が、驚いた瞳を王の顔に向けた。




「略奪…とな。それは余も初耳」
 王は白々しく驚いて見せた。それは王妃に対するポーズ。聖人君子の虚像を守りたい、その意識だ。
「それは恐らく一部の兵士が暴走したものであろう。きつく叱り、奉納品はいずれ返却いたすであろう」
 これは狡い。直ちに返還しないのだ。略奪の結果を追認しているに等しい。



 長老たちは間髪容れず反論した。
「いえ、直ちにお返し頂くよう取り計らい下さいませ」
 さらに、別の長老は静かに抗弁した。
「兵士は陛下の御命と申して略奪に及んでおります。規律ある行動で、暴発したものとも思えませぬ。王命を発し頂き、中止をお命じ下されば彼らの行動は直ちに止むことでしょう」
 それは相手の嘘を見透かした口吻であった。彼ら長老は、真犯人を眼前の人物と定めて、なおかつ自制を利かせ、説得していたのだ。
 



 王の不徳をあからさまに難詰され、座に居心地の悪い空気が充満した。
「分かった」
 王は言った。
「ならば、余が直々神殿に参り将兵に命じよう。…これ、馬車を用意せよ」
 王は立ち上がり、そのまま表に向かって歩き出した。
 実は、これも王の策。ここを何とか切り抜け、近衛兵の一団と合流する目論見。近衛兵の武力があれば、この危地は脱せられる。
「我らも共に参ります」
 長老たちは申し出た。王の振る舞いに疑念を抱いたものに違いなかった。
「ならば、車列の後に付いて参れ」
 王は素っ気なく申し渡した。
(とにかく、ここを抜けることこそ肝要。神殿の兵士らと合流し、城外に逃れるのだ)
 



 王が表に出ると、群衆で溢れていた。
 長老たちがひとまず諭していた。
「王直々に神殿に向かい、騒ぎを鎮めるとの仰せ」「ひとまず引き下がれ」
 その言い分に、なお疑念の表情を浮かべていた人々の顔であったが、相手は王家。
 王に手をかけた者は、無残な最期を遂げるのが古来の掟。逡巡していた。
「これ!道を開けよ!」
 近衛兵が怒鳴り、馬が嘶き出すと、人々は渋々道をあけた。

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