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※↑小アジア西岸から南岸の一帯の地図です。「歴史2」ポリュビオス著(城江良和訳)京都大学学術出版会、からの引用となります。
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エウリュメドン川
紀元前190年、特に大きな戦いもないまま初秋を迎えていた。
戦局の焦点がペルガモン一点に絞られていたのだ。
そのような時。ハンニバル率いるフェニキア艦隊百隻は大挙西進し、パンピュリア地方に到達していた。ここらは元々プトレマイオス王家の所領であったが、先にアンティオコス大王が奪った地域である。
「油断無く進まねばならぬ」
ハンニバルは言った。
ここを過ぎればリュキア、その先にはロードス島が浮かんでいる。ロードス国家の本国である。当然、手ぐすね引いて待ち構えていると思わねばならない。
彼はマニアケスに小船隊を預け、ケリドニアイ群島(リュキア東端の岬沖の諸島)の先に偵察に向かわせていた。
そして、ハンニバル艦隊はパンピュリアの中心都市シデに投錨した。
「ハンニバル殿!」
本営となった迎賓館に、後からやって来たのはアポロニアス。
そう。先にセレウケイアに寄港した折に、アンティオコス王子に推挙され、そのまま艦隊の将官の一人に起用された男である。
「おう、どうでしたか」
ハンニバルは、彼を後から続かせ、艦隊指揮に馴らせることに務めていた。
(一通りの知識はあるようだが、どうやら実戦の経験に乏しいようだ…)
そう見て取ったからだ。
勇猛なアイトリア人とはいえ、その海戦経験というものは、所詮海賊の略奪に似たようなもので、こんな艦隊の指揮采配の経験は皆無であったろう。
「いやあ、さすが閣下の集めて来た船乗り。どれも優秀で我が意の通り動いてくれます」
磊落に笑った。
人は良い。心配したような確執は生じなかった。
(だが…どうであろう。一軍を率いる器があろうか…)
それが懸念された。時間があれば、少しずつ自身の知見を教え込むことも出来ようかという程度の人物であるのは確認できたが、なにせその時間がない。
だから、こう言って励ました。
「貴殿の気概次第で、船は勇猛にも惰弱にもなり申す。宜しく頼みますぞ」
ハンニバルは、シデからすぐに動き出さなかった。
「いましばらくここに逗留し、調練を施しておこう」
大王の合流の命令はあったが、統率をもう少し取れるようにしておきたかった。
ロードス艦隊司令官エウダモス、ローマ艦隊司令官レギルスの二人がペルガモン防衛に忙殺されている事情も考慮に容れていた。敵の主力艦隊が南下するには猶予がある、と。
ロードス本島の様子を見計らい、リュキア、カリア沿岸を何とか無事に通過しよう、そう算段したともいえる。
パンピュリア地方は緩やかな湾状の地形で、幾つかの都市が点在するのみ。大きな敵対勢力は皆無。だから、艦隊の演習、水兵の調練には打ってつけであった。
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