新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

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 ミュオンネソス岬の海戦−包囲撃滅戦術
 ロードス艦隊は、凪の中、イオニアの海を直進していた。
 ようやく辺りが白々と明け出した。
「提督!」
 水兵が叫んだ。
「おお!」
 舳先に立ったロードス艦隊司令官エウダモス、思わず声を上げた。
 ミュオンネソス岬には、既にポリュクセニダス艦隊の軍船が集結していたからだ。
(およそ百隻…大艦隊であるな)
 対するロードス艦隊は三十隻。単独では勝負にならない。が、もとよりそのつもりもない。一部はハンニバル艦隊の睨みに後方に残しているのだから。




「提督!」
 さらに別の水兵の声も上がった。
 そちらを振り向くと、
「おお!」
 今度はローマ艦隊の登場である。提督は素早く目算した。
(およそ六十隻…これでようやく互角か…)
 だが、連合艦隊の一翼を担う筈のペルガモン艦隊の姿はどこにも見えなかった。
「どうやらエウメネス王の艦隊は間に合わなかったようだな…」
 無論、ポリュクセニダスが急行して来たのは、その思惑も含まれていよう。敵勢力が結集する前に各個撃破する。




「提督!合図です!」
 再びローマ艦隊から灯火信号が送られて来た。
 連合軍の間で、事前に灯火の点滅の数・具合で通信内容を細かく定めてあった。
 夜が明けたら、通信方法を、旗の振り方、本数に代えることも取り決めていた。
「なるほど…」
 合図を凝視していたエウダモス、意味を読み取ると大きく頷いた。
「全艦隊北上し、岬の陸沿いに展開し、敵艦隊に舳先を向けよ!」
 命令した。
 要は、ローマ、ロードス連合艦隊の左翼を担うということ。
 合図に符合するように、レギルス率いるローマ艦隊は沖合の右翼にせり出していく。
 そして、全艦隊、北上するポリュクセニダス艦隊に相対すべく、南へ舳先を向けた。


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 ミュオンネソス前夜(続き)
 ポリュクセニダス艦隊は、大陸沿いを北西に進んでいた。
「夜明けには到着するか」
 提督ポリュクセニダスは暗闇の海原を見詰めつつ訊いた。
「はっ。万事順調に進んでおります」
「うむ」
 前後して、敵艦隊も現れるに違いないであろうと踏んでいた。そこには、ローマ艦隊だけでなく、彼の祖国ロードスの艦隊もいることであろう。




(さぞ余のことを売国奴、国賊と罵っていることであろう)
 そう思うと苦笑が浮かび上がる。
(だが、その者どもらを、余の前にひれ伏せさせ、救国の英雄と崇めさせてやる)
 唇を噛み締めた。




 人間とは、大きな望みを抱いているようで、実は単純な存在でもある。金持ちになりたい、いい女いい男と結婚したい、出世したい、などなど。二千有余年を経た現代も、これとどれほど違うであろうか。
 そして、提督の積年の願望は、これまた現代人にもお馴染みのものである。
(冷たくあしらった故郷の者たちを見返してやる)
 結局こんな所である。気高く生きる、というのは存外難しい。そもそも志を抱くことも、古今東西、僅かな人士に限られよう。特に、現代のどこぞの国のように、金持ちというだけでセレブリティ(=名士)と呼ぶ如き品のない時代にあっては…。




 ローマ艦隊、ロードス艦隊、そして、ポリュクセニダス艦隊。
 全てが焦点の海域に集まり始めた。
 ローマ共和国とその同盟国、そして、アンティオコス大王の帝国、両勢力の命運を決する海上決戦の時が刻々迫っていた。


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 ミュオンネソス前夜 
 紀元前190年九月。とある夜。
 レギルス率いるローマ艦隊はテオスに留まり、日々調練を繰り返し、戦機を虎視眈々窺っていた。そして…。
「なに。ポリュクセニダス艦隊が出撃したと」
「はっ、全艦隊、こちらに向かっております」
 急を告げていたのはミルト。
「よし、直ちにロードス艦隊に合図を送れ」
 エウダモス率いる艦隊も、今か今かと待ち詫びている筈だ。
 だが、ロードス艦隊は南のサモス島にあり、ここテオスから四十km程離れた地点にある。合図とは一体…。




「『あの地点』で合流ですね」
「…もう隠す必要もあるまい」
 レギルスは苦笑いを浮かべた。
 スキピオの秘命、レギルスの粒々辛苦の工夫、ミルトの探索、エウダモスら同盟国将士の協力、それら全精力を一箇所に集中するのみだ。
「我らが向かうはミュオンネソス岬」
「はっ、かしこまりましてそうろう」
 ミルトは駆け出し、山上に向かい合図を送った。
 すると、山頂に火がぼうと灯り、点滅し出した。




 エウダモス率いるロードス艦隊は、サモス島の西へ迂回し、北岸に出ていた。
 島の東に回ると、エフェソスの眼前に出てしまうことになる。当然、その海域は大王軍の警戒が厳しいからだ。
「すぐさま駆けつけるようにしておかねばならぬ」
 戦場は、サモス島からまっすぐ北に進んだ海域。
 当時、船は陸地沿いに航行する。内燃機関など想像の片隅にもないこの時代、船の航行は専ら風力人力に頼るに過ぎず、遠洋航海など不可能。荒波を越えて、というのは命取りになりかねない。
(だが…今は違う)
 ミュオンネソス岬に最短距離で到達することこそ先手必勝。名将ポリュクセニダスの機先を制することとなる。
(ポリュクセニダス…祖国に仇なす男よ。今度こそ貴様を倒す!)




「提督!合図です!」
 水兵が叫んだ。
「光ったか!」
 エウダモスも舳先に走った。すると、大陸の一点で光が明滅している。
 そう。伝令が来るのではない。灯火信号である。遠くにあっても、水兵の彼方、何も遮るもののない海が隔てているだけであることからできる通信手段。
「全艦隊出撃だ!」


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 イオニアの海を見渡す(続き)
 ポリュクセニダスが、大王のいる迎賓館に向かい、練りに練った作戦を奏上した。
 アンティオコス大王は熱心に耳を傾けていたが、
「…なるほど。それならば勝てるな」
 果たして安堵の色を見せた。
「はい。船の数では我らが優位。手練揃いでもあります。それゆえ戦場を間違えず、敵を左右より包む展開にさえ持ち込めば勝利間違いありませぬ」




「うむ」
 大王は満足気に頷いた。
 ギリシア本土遠征に向かう前の自信が甦って来た。
「頼むぞ、提督。この一戦で勝利しさえすれば、形勢を一挙に押し返すことも出来る。再びギリシア本土に手をかけることも出来よう」
「ははっ!」
 提督は胸を叩いた。
 



 それから間もなく。ポリュクセニダス艦隊はエフェソスの港を出航した。
 テオス方面を目指し、沿岸をゆっくりと北上していく。
「余もこの戦いを見届ける」
 アンティオコス大王は、命じてエフェソスの北、山上に仮屋を急遽建てさせた。そこから海上の戦いを見物しようというのだ。確かに、そこからはイオニアの海を見渡すことが出来る。戦いの様子も一望出来よう。
 歴史上稀に見る一大スペクタクル。否が応でも興奮せざるを得ない。




「王妃よ、共に勝利の時を見届けよう」
 大王は少女の手を取った。
「はい」
 大王と王妃、そして、ゼウクシス、アンティパトロスなど重臣たち全てが付き従った。
(率いるはポリュクセニダス。しかも船の数では大きく優位にある。負ける筈がない)
 どの顔も自信満々であった。

イメージ 1

※↑エフェソス遺跡です。前方は古代は海でしたが、堆積作用により陸地になってしまいました。This file is licensed under the Creative Commons Attribution-Share Alike 3.0 Unported license.

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 イオニアの海を見渡す
 その頃、ポリュクセニダス艦隊はエフェソスに停泊していた。
「そうか…海賊たちは四散してしまったか」
 提督ポリュクセニダスは顔も上げなかった。
 イオニア地方沿岸の海図を凝視したままだ。
「はい。レギルスの猛烈な追撃にテオスの船が大破されるのを見て肝を潰した模様」
 報告していたのはニカンドロス。
 確かに、陸上の戦いそのまま船から船へ飛び、駆け回るローマ兵の勇猛ぶりを目のあたりにすれば、海千山千の海賊どもも仰天するに違いない。
 海賊に牽制させ、ローマ艦隊を忙殺させ消耗させる、これがポリュクセニダスの意図であったが、それは見事に空を打ったといえよう。
「ふん、そうか」
 それほど期待を掛けていた訳でもないのか、ポリュクセニダスは鼻先であしらった。




「戦局の焦点は絞られたな」
 提督はぽつりと言った。
 確かに、それははっきりして来た。
 ローマ艦隊はテオスに、ロードス艦隊はサモス島に、さらにペルガモン艦隊がキオス島西岸沿いを南下しているという。つまり、引き寄せられるように、全ての海上勢力がこのイオニアの海域に集結しつつあった。
「先に動かねばなりません、提督」
 そう勧めたのはマニアケスであった。
 三方より迫る勢力を待っていては、このエフェソスを前に戦うしかなくなる。母港に追い詰められる格好になり、窮屈な戦いを強いられるのは必然。何よりも味方の士気も奮わぬことになろう。
「うむ…」
 提督の視点は地図上のある地点を見詰めていた。




「ここにおびき寄せるには、どうすれば良いと思う?」
 巨漢の提督は、そんな風に訊いた。
「テオスに攻めかかる、そのように装うが宜しかろうと存じます」
 マニアケスは答えた。
「ふむ…そなたもそう思うか。ならば海賊どものしくじりも…」
「物怪の幸いかと存じます」
 女密偵は妖しい笑みを浮かべた。元々、逆境に鍛え抜かれた女。失敗をばねに次の勝機を窺うことは彼女の本能。




「うん」
 ようやくポリュクセニダスは顔を上げた。
 そこには自身の笑みが戻っていた。
「では、陛下にそのようにご説明申し上げるとしよう」
 そう。アンティオコス大王は、サルディスから再びここエフェソスに行幸していた。
 ただ、それは『行幸』という体の良いものではなく、居ても立ってもいられなくなり、サルディスから駆けつけて来たというのが実相。来る海上決戦が、この大戦の帰趨を決する、否、帝国の命運を左右する事態となるのは、大王軍の首脳たちの誰にも分かっていたからだ。

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