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スキピオの要求
ここリュシマケイア近郊、ローマ軍本営。
執政官ルキウスは、軍勢の大半をアジアに渡し終えた後、軍団長ドミティウスに先鋒の指揮を委ねると、ここに戻って来ていた。兄スキピオと戦略を練るためである。
「なに、アンティオコス大王の使者が来たと」
ルキウスは眉をひそめた。
「兄上、何を目的に来た者でしょうか」
「無論、和睦を提案するためであろう」
サリイの祭儀の衣装に身を包んだままのスキピオ、あっさり看破した。
「やはり…」
ルキウスの眉間に皺が寄った。
彼は戦いたかったのだ。執政官として戦いの指揮を未だ一度も振るっていない。このまま終戦となれば、戦勝の立役者は法務官レギルス一人。執政官でありながら彼の後塵を拝することになるからだ。
「心配いたすな」
スキピオは、弟の不安を見透かすように苦笑いを浮かべた。
「ここで終戦、とはならぬであろうよ」
「それはどうして?」
「我らの要求は、彼が予測する所と大きくかけ離れているからだ」
「え…兄上はどこまでを要求するつもりで」
ルキウスの腹積もりは、トラキア、イオニア、そしてプトレマイオス王家から奪った領土の放棄、そして、賠償金であった。
そのことを彼らしく素直に打ち明けると、
「そなた、そんな線で満足するつもりであったか」
兄は呆れた。
「賠償金はともかく、領土については、それでは駄目だ。それでは、またぞろ大王は我がローマに対する野心を剥き出しにしてくるであろう」
スキピオは知っていた。ヘレニズム君主の狡猾なこと、貪欲なこと、そして、油断ならぬこと。歴史書を紐解けば、それは全くの事実として実証される。
「では、どの線まで要求なさるおつもりで?」
「タウロス山脈以西全ての放棄」
「えっ!」
ルキウスは仰天した。
それは、かつてアカイオスが領有していた全てである。アンティオコスが数年に渡る苦闘の末に回復した地域であった。ここを放棄しては、ギリシア世界への野心はおろか、メガスの権威も失墜するであろう。
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