|
[https://novel.blogmura.com/novel_historical/ranking.html にほんブログ村 歴史・時代小説]
↑
ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)
息子と引き換えに(さらに続き)
(破格の申し出であるが…スキピオ殿はなんと答えるかな…)
セルギウスは興味津々であった。
(かつて、ギリシアの英雄エパミノンダスは、ペルシア大王の使者に対し、祖国に仇なすならばいかなる贈り物も無用と啖呵を切ったというが…)
古の英雄と対比する己を自覚し、歴史上の証人になった興奮を覚えていた。
スキピオは温和な笑みを浮かべた。
「なるほど…ありがたき申し出」
その語気は、執政官ルキウスが講和条件を提示した折に見せた、斬り込むようなものではなく、至って穏やかなものであった。だから、ヘラクレイデスばかりかマニアケスも期待を募らせた。
(この様子では、案外受諾してくれるのでは…)
熱い眼差しでスキピオの口元を見詰めた。
そのスキピオが続ける。
「息子のことは、その通りにして頂けたら感謝申し上げる。これはそのまま大王にお伝えあれ」
「それでは…」
ヘラクレイデスは目を輝かせた。
大王に誼を通じ講和に尽力してくれる、後段についても同意と早合点したのだ。
「いや」
スキピオは首を振った。
「大王は考え違いをなされておるようだ」
「考え違い…?」
「そうだ」
スキピオは大きく頷くと立ち上がった。
「大王は、ミュオンネソス岬の海戦以降、およそ御自身の利益とはほど遠い行動ばかりをとられている」
「ほど遠い行動?」
「リュシマケイアを放棄したこと。我が軍のヘレスポントス渡航を阻止しようともしなかったこと」
戦後の経過を列挙した。それは敵を評するものではなく、歴史上、指揮官として指揮官を評する口調であった。
「大王がリュシマケイアを掌握する状況で、今の講和の申し出をしていたならば、恐らく希望は叶えられていたことでしょう。いや、リュシマケイア放棄後も、ヘレスポントスに軍勢率い立ち現れ、我らの渡航を阻止しようとしていたならば、やはり叶えられたことでしょう」
これらの言葉は、大王の近臣には、針が刺さるが如く身に堪えたろう。それらの選択を悉く逸する結果を招いたのであるから。
|