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息子と引き換えに(さらにさらに続き)
「ですが、既に我らリュシマケイアを掌握し、ヘレスポントスもほぼ全軍渡し終えている状況。まさに、馬銜ばかりか騎手までも受け容れてしまった後で、対等な講和など望むべくもないではありませんか」
馬の調教に例え、馬銜を噛まされ騎手を乗せてしまっては、もはや騎乗する人間に服従するしかないということ。つまり、騎手がローマ、馬がシリア、ということになる。
「弟ルキウスは至極穏やかな男ですが、もはや、生半可な要求に留めることなど不可能。そのようなことをすれば、国家に対する義務に背くことになるからです」
スキピオの穏やかながらも、寸分の隙もない理詰めに、ヘラクレイデスは一声も発せず体をこわばらせていた。
「息子の返還の申し出に対する謝礼として、同等の御忠告を大王に差し上げよう」
「は…」
「いかなる命令にも服し我がローマ軍に刃向かわぬこと。これしかありませぬ」
この小さな空間。主のスキピオと、相対するヘラクレイデス、マニアケス、控えるセルギウス、たった四人しかいない狭い狭い空間。
だが、そこは圧巻の舞台であった。一人の英雄が、この地中海世界の秩序を定めようとする瞬間であった。
セルギウスは打ち震えるほどに感動していた。
(さすが…。我が眼力に誤りなし。この御方こそ、新たな世界を招来する真の英雄。エパミノンダスとて一歩引かざるを得まい…)
ヘラクレイデスもマニアケスも、ひとかどの人物であったが、眼前の英雄の明快な言説に、一言も応ずることが出来ない。
「わ、分かりました。閣下の仰せ、全て陛下にお伝えいたします」
ヘラクレイデス、そう絞り出すように答えるのが精一杯であった。
二人が立ち上がると、スキピオは微笑みを浮かべこう声をかけた。
「マニアケスよ、ハンニバルに相談せよ。彼ならば趨勢を見誤らぬであろうて」
「は…」
返す言葉がなかった。
(スキピオ…ここまで巨大になっていたか…)
ザマ戦後の折もスキピオの寛容に驚嘆したものであったが、今や、世界の統治者の風格すら漂わせている。従う何者も許し、背く何者も許さない。その峻厳さをもって世界を一つの方向へ導こうとしている。
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