新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

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 ミュオンネソス岬の海戦−火籠(続き)
「まずい…」
 提督が唸るように言ったのは、ロードス艦隊のそういう装備を想定し、敢えてローマ艦隊に向かって来たということもあった。ニカンドロスに迂闊に寄せぬよう注意を与えたのも、海戦の巧者ロードスのこういう想定外の工夫を慮ってのこと。
 それなのに、である。ローマの軍船がこれを完全装備しているではないか。




(ローマめ…もう『火籠』を修得しおったか…)
 『火籠』は、扱いを一つ誤ると自船を燃やしてしまいかねないし、風向き次第では味方の船に飛び火する恐れもある。だから、その取り扱いには細心の注意が必要だ。ローマ海軍は、ロードス兵の手ほどきを受けて、短期間で修得したのだ。
 ローマ軍は、陸戦のウェリテス兵に相当する役割をこの船団に与えた訳だ。




「防げ!あの船隊をこの旗艦に近づけるな!横腹にぶつけよ!」
 ポリュクセニダスの命令に、旗艦の周囲に群がる軍船が一斉に動き出し、ローマの軍船の側面から挑みかかった。
 だが、ローマ軍船は高速船であるから、するりと突撃をかわし、逆に敵船の舷側に接近すると、満を持したように『火籠』をどすんと落としていく。
 甲板に叩きつけられると、油分を充分に含んだ火玉から炎がさあっと広がっていく。




「わっ!」「ひーっ!」
 周囲全て海だから慌てる必要などないと思うかも知れぬが、甲板に消火水など常備されていない。当時の船は輸送力乏しく、乗船可能ぎりぎりの戦闘員、漕ぎ手を乗せて戦っているのだから。また、海水をくみ上げるポンプなどの利器も存在しない。
 従って、炎が甲板を舐めるように燃え広がると手の施しようがなかった。




 レギルスは、この有様を睨み付けるように遠望していた。
「よし!第二船団、進め!」
 進み出したのは主力の戦闘艦。この時代の主力戦闘艦とされた五段櫂船である。
 漕ぎ手が上下五段に分かれて櫂を漕ぐ軍船で、一昔前の三段階船などと比べ機動力が文字通り段違いであった。
「進め!ポリュクセニダス旗艦の横腹にぶつけよ!」
 ローマ軍の誇る戦闘艦が波を蹴立てて迫って来る。

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