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決戦の勧め(続き)
「決戦しかない」
熟慮の下、ハンニバルは吐き出すように言った。
「決戦…」
マニアケスは唾を呑み込んだ。
アジアの地で敗北すれば、タウロス山脈以西の諸国や諸都市は、雪崩を打ってローマ側に靡くであろうことは明白。アンティオコスのメガスとしての権威は必然崩壊する。
「大丈夫でしょうか…」
マニアケスがこのように訊くのは珍しい。
逆境をものともせず、奮闘に奮闘する、そして、道を切り拓く、それが彼女の本領であるからだ。その彼女が気圧されている。それだけスキピオの人格に圧倒されていたのだ。
ハンニバルは苦笑した。
「敗北したとしても、それ以上の要求はあるまい」
「え?」
マニアケスは目を点にした。
彼女の心配する所は、決戦に敗れれば、帝国の存亡自体危うくなるのではないか、ということであった。タウロス以西を要求するスキピオが、勝利を収めれば、もはや要求の規矩が失われるのではないか。その恐怖だ。帝国の崩壊は、ハンニバル、マニアケス主従にとって、全ての希望が地上から失われることを意味していた。
「それがスキピオだ。ならば、まずは戦わねばならぬ」
不思議な物言いをした。
「では、息子の身柄はどうすればよいでしょう?」
「返してやるが良い」
「え」
再び意外な感に打たれた。
交渉は決裂したのに、ハンニバルは身柄を返してやれという。
「教えてくれたのだ。我らが勝っても負けても、スキピオは同じ要求をする、と。ならば返してやらねばならぬ」
要は、教授料ということだ。
「戦場はどこを選べばよいのでしょう」
マニアケスはおずおずと訊いた。
彼女には勝算がまるでなかった。
「ペルガモンに進まねばならぬであろう」
ハンニバルは言った。
要は、ローマの同盟国ペルガモン王国領内で、できることならば王都ペルガモン付近まで進むこと。それが間に合わぬとしても、せめて敵領内で戦えということだ。
「サルディスに迫られては、スキピオの思う様に采配をとられよう」
この言葉ほど、ハンニバルの感情を表しているものはなかった。
12年前、スキピオに首都カルタゴに迫られ決戦に突入した。ハンニバルは、持てる才能の全てをもって戦場戦法の工夫を凝らしたが、まるで運命の濁流に漂流するかの如き展開に終わった。
(自ら戦場を選び、自ら戦機を導かねば、決戦に勝つなど土台無理なのだ)
「陛下にお伝えせよ。今は和平の未練を断ち切り決戦しかない、と」
「ははっ!かしこまりました!」
マニアケスは身を翻すと、飛ぶように駆け出した。
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