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初物(続き)
「なに、戦車とな」
諸将は顔を見合わせた。
戦車戦は、ギリシア・ローマ世界では長らくお目にかかっていなかった。ギリシアではミケーネ時代(紀元前1200年前後)に王たちによって戦車戦が繰り広げられていたらしい。同時代のエジプト王国やヒッタイト帝国を真似たものであろう。
が、起伏の多いギリシアの地形に戦車戦は不向き。横転や脱輪が頻発したに違いない。次第に廃れ、歩兵戦さらには集団激突戦が主流となっていった。
ローマに至っては、戦車戦の記録すら残っていない。建国の草創期にラテンの平原で戦車戦があったのやも知れぬが、ローマ人の記憶からは完全に消え失せていた。
「いずれも二頭立ての鎌付戦車にございます。歩兵の陣所の前面に置かれてますから、歩兵隊の前面に配置されるのでしょう」
「戦車か…」
執政官ルキウスは困惑の色を見せた。
この頃、ローマ軍は象の扱いにようやく慣れたばかり。今回の遠征にも象軍を連れて来ていた。が、戦車に遭遇したことは一度もなかった。
(どうやってあしらえばよい…)
ピュロス王との戦い、第一次対カルタゴ戦争で、緒戦に象軍に痛い目に遭った記憶が甦る。ローマ軍は初物には弱いのだ。
(だが、今回の戦いで敗北すれば…)
かつての敗戦では、その後の勝利で巻き返すことが出来た。が、今回、敗北すれば、アジアから追われるばかりか、ペルガモンなどアジア諸国が大王の軍門に降る虞があった。そればかりか、ギリシア本土で抵抗するアイトリア同盟が息を吹き返す可能性もあった。つまり、これまでの連戦連勝が台無しになる恐れもなきにしもあらずであったのだ。
(ここで大敗するわけにはいかぬぞ)
執政官の額に脂汗が浮かんで来た。
実直な性格ゆえ、悩み出すと、見通しを得るまで落ち着きが得られないのだ。
「コンスル閣下」
声をかけたのは軍団長ドミティウス。
「戦車については、工夫を考えましょう。良策を見つけるまで、川を盾に守備を固めておこうではありませぬか」
至極穏当な意見に、ルキウスはほっとしたように頷いた。
「そういたそう。しばらく陣を固め、対応を練ることとしよう」
数日後には、ローマ軍の強固な陣営がヘルモス川北岸に姿を現した。
だが、一歩も動くことではなかった。
やがて季節は真冬となった。びゅうびゅう北風が吹き出した。
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