新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

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 マグネシアの戦い−戦車隊
 時は夕刻。夕陽は、あたり一面の平原を黄金色に染め上げ始めた。
 大王軍の右翼。アンティオコス大王自ら騎兵隊三千を率いていた。
 精鋭アゲーマの先頭にあって突撃の時を窺っていた。




「陛下。このままでは日が暮れてしまいます」
 たまりかねたように、マニアケスが馬を寄せて来た。
 日没となれば足許が覚束なくなり、騎馬や戦車による突撃は危険。同士討ちの恐れも高まる。だが…
「これは我らには幸いぞ」
 大王は兜の下で小さく笑った。
「え」
 マニアケスの目は戸惑った。
「暗くなれば、ものを言うのは機動力ではない。歩兵の突貫力だ」
 大王はそんなことを言った。
 大王軍の中央は、帝国自慢の精鋭一万六千。千六百人の隊が横に十並び、それぞれの隊が前から五十人三十二列の分厚い小隊の列を組む。




(エパミノンダスとて、これを突破することは出来まい)
 レウクトラの戦い(紀元前371年)ではエパミノンダスは歩兵の隊列の厚さで、無敵のスパルタ軍戦士の隊列を押し潰した。彼の勝利は、その後のアレクサンドロス大王、ヘレニズム諸国の伝統的戦術に強い影響を与えた。
「戦車、騎兵で敵の隊列に動揺を与え、あとは歩兵の重圧で突き崩すのだ」
 大王は、あくまでも帝国の主力である歩兵戦力で勝負を決するつもりでいた。
「なるほど…」
 マニアケスも大きく頷いていた。




 ついに日没。影の脚が急速に伸びていく。
 その時。大王の右手がさっと上がった。
「戦車隊を進ませよ」
「はっ」
「但し一撃を与えたらすぐさま退かせよ」
 大王は念を押すように言った。




 彼は、ローマ軍側が思っているほど戦車隊に期待を寄せてはいなかった。
(あくまでも最初の一撃。速やかに引かせねばならぬ)
 戦車は図体が大きい。戦場の真ん中で立ち往生することにでもなれば、味方の進撃の邪魔になりかねない。大王の考える密集軍団の進撃に致命的となる。
「承知!」
 マニアケスは馬を飛ばした。

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