新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

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 マグネシアの戦い−瓦解
 十数台の戦車が、ペルガモン兵の射撃により走行不能となった。乗員は戦車を捨てて逃げるしかなかった。
 これが大王軍にとって蹉跌の始まりとなった。
 というのも、後方から押し寄せる戦車は、立ち往生する戦車が邪魔で停止せざるを得ない。そして、さらにその後ろの戦車も急停止した。当然、大渋滞となった。
「どうした!」「早く進め!」
 後方から飛ぶ罵声に、
「馬鹿野郎!進めないんだよ!」
 と前方も怒鳴り返す。
 しかも、具合の悪いことに日没後の暗闇。事態の把握を困難なものとし、新たな手立てに手間取った。




 対照的に、身軽な軽装歩兵は暗闇を機敏に動き回る。
 立ち往生した戦車の群は彼ら軽装歩兵の格好の標的。
「それっ!奴らの頭上にありったけの矢と石をお見舞いせよ!」
 戦車隊の頭上に矢と石が降り注いで来ると、まず戦車を引く馬が恐慌状態に陥った。
 かん高くいななき、脚を大きく上げた。
「こらっ!」「大人しくしろ!」
 御者が鞭を打ちつけ、必死に落ち着かせようとしたが、生命の恐怖に囚われた動物を制御することは不可能に等しい。
 ついに後続の戦車の一部が逆走を始め、味方の列へと突っ込んでいく。




 これに驚いたのがまず二十二頭の象。そして、アラビア騎兵を乗せたラクダである。
 闇の中に突っ込んで来る戦車の車列に彼らは仰天した。
 象が驚愕して前脚を上げると、象使いは振り落とされそうになった。
「うわっ!」
「落ち着け!」
 象使いが必死に言い聞かせるも、戦車の振り回す鎌に、体の彼方此方を切りつけられると、半狂乱となった。
 ラクダも兵を乗せたまま逃げ出した。
 戦車隊の凶器が味方を混乱させる羽目になったのである。




 象やラクダが暴れ出し、その隣に控えていた重厚なファランクスの隊列に突っ込むと、今度は人間たちが恐慌に陥った。
「うわっ!」「逃げろ!」
 だが、ファランクス=重装歩兵部隊は、重装備の歩兵が、狭い空間に立錐の余地無く密集しているから、機敏な動きが取れない。ために、哀れ象に押し潰され、その鼻に吹っ飛ばされる兵が続出した。
「ひいい」「助けてくれ!」
 千六百人を横に十列、縦に五十人の三十二列、極限まで隊列を厚くしたことが、ここであだになった。象とラクダの群の狂奔で、帝国の誇るファランクスは無残に押し潰されていく。
 戦車隊潰乱に端を発した混乱は、急速に大王軍全体に波及した。

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