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進まぬ総帥と進めぬ総帥(さらに続き)
こちらアンティオコス大王の本陣。
深更までひそと話し合われていた。
「本当にスキピオは来ていないのだな」
念を押していたのは大王自身。
「はい。手の者の報告は全て一致。スキピオ・アフリカヌスは未だエライアに留まったままにございます」
マニアケスは語気を強めていた。
大王軍首脳の焦点は、一点に絞られていた。
「果たしてスキピオは来るのか」
来ると思えばこそ悠々采配を振るっていたのだが、まるでその虚を衝くかのように、ローマ軍はスキピオ不在の間に渡河して背水の陣を敷いて来た。
「ひょっとして、既に来ているのではないのか」
アンティオコス大王はそう勘繰った訳だ。
「ならば、この決戦態勢は、スキピオ抜きで、ということか」
大王はこれも幾度となく繰り返した質問をぶつけた。
「左様にございます」
「うーむ」
スキピオがやって来るまで決戦はないであろう、その余裕で行動して来た。なのに、敵は一気に押し出して来た。
スキピオが病中でエライアにあることは、ずっとアンティオコスの心の安定剤となっていた。病み上がりで陣頭で指揮も取れないのでは、仮にマグネシアにやって来ても恐るべき相手ではないであろう、と。
だが、今では、スキピオの存在は疑心暗鬼の対象になっていた。
背水の陣にドミティウスの挑戦状。そして、味方の激高と苛立。
ローマ軍にとって、まさしくおあつらえむきな状況ではないか。
(これは、スキピオの策略ではないのか…。どこかで糸を引いているのではないか…)
「陛下」
重臣ゼウクシスが進み出た。
「ここは意を決して前進なさるべきにございます。逡巡してあれば、ローマ軍の意気ますます上がり、反対に味方の士気はますます下がりましょう」
ドミティウスの挑戦状以来、軍中には不穏な空気が漂っていた。
何ゆえ戦わぬのかという突き上げが激しくなっていたのだ。
「左様にございます」
セレウコス王子も同調した。
「敵の思惑をあれこれ詮索する時は過ぎました。そもそも味方の布陣は、いかなる敵の来襲にもくじけぬ不敗の陣。堂々戦うだけにございます」
主立った将は全て決戦を望んでいた。
これも大王を不安に駆り立てていた。
(このまま戦いに臨んで良いものか…)
彼も知っている。成り行き任せ、これが一番良くないことを。
だが、軍中は、戦わずにはおられぬ空気で充満しつつあった。
「今少し待て」
大王はそう言うと、あたかも巌の如くとなり、もはや何も応えなくなった。
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