新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

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 スキピオ弾劾(続き)
 そう。グラックスは、アジア遠征前、とある居酒屋でスキピオと語り合ったことがあった。あの時、グラックスは熱烈なスキピオ支持者であった。
 そのため、心を込めてこう忠告した。
「不適切な金品授受を疑われれば、閣下の名声たちどころに失墜いたしましょう」
 ヘレニズム君主の買収工作は知られていた。それに巻き込まれると、戦勝も霞んでしまうであろう、そのことを危惧したし、何よりもスキピオの立場が危うくならんと思ったからであった。
(それなのに…)
 グラックスは、今、明らかにスキピオの政敵の位置に押しやられていた。それは、民衆の如く、妬みやそねみからではなく、清廉の矜持のなせる業。




「分かった」
 スキピオは隣に座っていた弟のルキウスに何事かを囁いた。
「少し時を頂きたい。すぐに弟が帳簿を持って来る」
 会議は暫時休憩となった。
 議場は異様なざわめきに包まれた。
(スキピオ殿にまで矛先が及ぶのか)
(カトーめの増上慢、思い上がりぞ)




 とはいえ、誰も進んでスキピオに声をかけようとしない。ましてや、カトーを敵に回して弁護を試みようという気骨ある者もいない。相手は、今、ケンソルの絶大な権威を身にまとっているからだ。
 もう一人の雄フラミニヌスも黙して座ったまま。兄ルキウス・フラミニヌスが先頃追放されたばかり。失脚理由が何とも無様であったから、カトーに対してすこぶる旗色悪く、この場面で加勢する立場にはなかったろう。
 必然、英雄スキピオは孤立した。
 かつてローマの第一人者であり人気絶頂を誇った彼。昨今の世情の急激な変化に、いつの間にか、かかる不思議な孤立を見ようとは。
 それだけローマ経済の地盤低下が著しく、かつての政権与党の党首スキピオに対する風当たりが強くなっていたのだ。




 やがて、ルキウス・スキピオが走って来た。
「兄上…これにございます」
「うむ」
 帳簿を持って来させたものの、恐らくは見せられぬ支出の項目もあったろう。
「本当に…これを見せるのでございますか」
 ルキウスが小声で確かめたのも無理はない。
「いいから寄越せ」
 スキピオは、苛立った声を上げ、冊子をむんずと掴んだ。
 そして、議場の真ん中に進み出た。

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