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スキピオ弾劾(さらに続き)
「諸君、これが帳簿である」
だが、次の瞬間、元老院議員の全てが、あっと叫んだ。
スキピオ、なんと、帳簿をびりびり引き裂き始めたからだ。
「あああ」
護民官グラックスもうめいた。
紙片はこなごなになって床に舞い落ちた。
「疑念あらば、ここから探し出すがよかろう!」
スキピオは轟然と言い放った。
恐らくカトーの狡さを表現したかったのであろう。
これまで、内金として得た賠償金については執政官の裁量が大きく効いたに違いなく、それが凱旋将軍としての特権として容認されて来たであろうこと。ただ、それは法律上明確に根拠ある権限ではなく、暗黙に容認されて来たに過ぎず、突き詰めれば違法になるしかない行為であるということ。
カトーは敢えてそこを衝いたと思われる。使途不明金が500タラントンという巨額であることをあげつらい、彼はスキピオ兄弟の弱点を衝いた訳だ。
「諸君に問いたい」
スキピオは滔々と弁じ始めた。
「諸君は、500タラントンの使途について説明を求めながら、その一方でアンティオコスが支払っている15000タラントンについては、誰が何をした御蔭で国庫に運び込まれていることについて、なぜ何も言わないのか」
そこには、長老をもやり込めた、あのスキピオの堂々たる姿があった。
「諸君が、どのようにしてイベリア、アフリカ、さらにはアジアの支配者となったのか、なぜ振り返ってみようとしないのか」
その言葉に、議員たちは顔を見合わせた。
人々は改めてこの20余年の間に起きた歴史事実を振り返ったに違いない。
そこにはスキピオの数々の活躍があった。
新カルタゴの奇跡的攻略がなければ、それに続くヒスパニア全土平定がなければ、ハンニバル怒濤の侵略はまだまだ続いたであろう。
ザマで勝利を収めなければ、カルタゴはアフリカ大陸の一角で今なお有力な国家の一つとしてローマと対峙していた筈であった。
マグネシアで勝利しなければ、アンティオコス大王の威権なおアジアを覆い、東方からの深刻な脅威に晒されたままであったろう。
「諸君が、安閑とここに座って議論出来るのも、私やフラミニヌス殿が、命を賭け奮闘したからではないか」
スキピオは突きつけた。
事実こそいかなる雄弁にも優るもの。詭弁曲解、緻密精巧、いかなる論理立ても、事実の前には木っ端微塵となるのだ。
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