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少女コルネリア
数日後。スキピオは、とある人物を自宅に招いた。
「よろしいのかな。我が家にお越しいただいて」
スキピオは微笑した。
「構いませぬ。閣下の事はもう済んだことです」
そう返事して笑ったのは、ティベリウス・センプローニウス・グラックス。
そう。護民官グラックスである。
カトー一派は、容疑をルキウス・コルネリウスに切り替え攻め続けることにしたが、グラックスは反対し、以降彼らと袂を分かった。
グラックスは、時の権力者カトーから離れる決断をした訳だ。立身出世を宿命付けられたローマ政治家にとって、非常に勇気のいることだ。
「貴君に是非とも会わせたい者がいるのだ」
スキピオは言った。
「は…どなた様で」
「これ」
主の声に、彼の妻アエミリアが一人の少女を連れて来た。いや、この時六歳。幼女というのが正しい。
「これは…」
「我が娘コルネリアだ」
次女コルネリアである。
長女は既に伯父グナエウスの子スキピオ・ナシカに嫁いでいた。
「娘を娶ってもらいたい」
「えっ!」
グラックスは仰天した。
それはそのはず。グラックス、この時三十三歳。既に男盛りだ。それに六歳の娘を妻合わせるとは、不釣り合いも甚だしい。
(これは…一体)
グラックスは、相手の真意を疑い眼差しを向けると、真剣な光が反射して来た。
「閣下、酔狂が過ぎます」
「ははは。何が酔狂かよ」
本来のスキピオの語調が戻って来た。
「そなたには恩義を蒙った。是非そなたと縁続きになりたい、そう思ったのだ」
どうやら本気のようだ。ますますグラックスは驚いた。
「でも、娘御はまだ…六歳」
「無論今すぐは無理。成人した暁に輿入れさせてやってくれ給え」
「とは申せ、その時にはそれがしも随分歳を重ねておりますれば」
グラックスは苦笑した。
十五歳で結婚するとしても、新郎グラックスは四十を幾つか越えている。
「よい」
スキピオは言った。
「年齢の差などさして問題ではない。コルネリアも成人した暁にはきっと得心しよう。我が父はなんと良い夫を約束してくれたのか、と。良き夫か否か、それが大事なのだ」
そういって、スキピオは愛娘の顔を見詰めた。
それは、娘の華燭の典に自身立ち会えないことを示唆していた。
恐らく、健康がそれを許さないことを悟っていたものであろう。
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