新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

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 ハンニバルその後−野原に散る(さらに続き)
 ハンニバル一行は、ミルトと別れると、北の山路をとった。
 一行とはいえ、従うのはマニアケスと荷物を乗せた騾馬を引く従者一人。




「何ゆえこちらの途を」
 マニアケスが訊いた。
「プロポンティス海からポントス海(黒海)に出る航路では時間がかかり過ぎ、ビュザンティオン(現イスタンブール)で追捕の手にかかるやも知れぬからだ」
 要は、難路は承知で最短距離でポントス海沿岸に出て、そこでボスポロス行きの船を探そうという肚だ。常に合理的かつ難しい途を選択する、それはハンニバルの生き方そのものだ。
 やがて山を越え、北の麓に出た時である。
 そこは、一面に花が咲き誇る、田園であった。




「まあ美しい…」
 マニアケスの顔が綻んだ。
「ここまで来れば大丈夫であろう」
 ハンニバルも安心した。
 だが、それはおよそ彼らしくなかった。勝利に勝利を重ねたあのイタリアの時も、彼は安心したことはなかった。薄氷の上にある境遇を常に意識し、厳しく己を律して来たし、将兵を統率して来た。




「あっ!」
 マニアケスが短く叫んだ。
 数百の兵が林の中からわらわらと現れたからだ。
 指揮官はプルシアス王子。
 ハンニバルは唇を僅かに歪めた。
「王子、よく我らがこの途を取るのがお分かりになりましたな」
「はは。貴公が地下道を幾筋掘ろうとも、世にある道は限られておるからな」
 まさに達観。王都ニコメディアから通ずる街道は三筋ほど。その道筋さえ押さえれば、追跡はできるのだ。
 これもプルシアス一世王の洞察であった。




「それっ!」
 王子の合図に一斉に矢が放たれた。
「危ない!」
 マニアケス、咄嗟にハンニバルの前に身を投げ出した。
 ために、彼女の体に三筋ほど矢が突き立った。
「マニアケス!大丈夫か!」
「なんの…これしき」
 彼女は主ハンニバルの警護の時、常に用心のために鎖帷子を仕込んでいる。
 だから、致命傷ではなく、腕肩に突き立っただけの軽傷の筈であったが…。
「う…」
 マニアケス、なにゆえか体勢をぐらりと崩した。

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