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ハンニバルその後−ビュテニアの日々
紀元前184年夏。
ここビュテニア王国の都ニコメディア(現イズミット)。
「いがかかな、この都市の住み心地は」
そう問うたのは国王プルシアス一世。
この時、在位五十年を超え、齢七十を越えていた。
「はい。全てが快適。老君の配慮かたじけなく」
そう応えたのはハンニバルであった。この時、六十四歳。
アパメイア和約の発効(紀元前188年)に伴い、アンティオコスの王国の地を追われてから、四年間各地を転々と流浪したが、ようやくここに落ち着きを得ていた。
「ここはまさに天恵の地。海に通じ、四方を山に囲まれた要害。貿易に適し防衛の容易な、まこと王都に相応しき大地にございます」
ハンニバルは追従にも似た言葉を並べた。
ここでは、彼も宮廷人の一人に過ぎない。
日々出仕してする彼の主な仕事は、老王の話し相手となることだ。
プルシアスは、ハンニバルのこれまでの辿った運命を物語として愉しんだ。確かに、彼の話は、恐らくこの時代のいかなる読み物よりも面白かったのではないか。他にあるとすれば、スキピオの話であろうか。アンティオコスの話もなかなか興味深いが。
「やれやれ、帰ったぞ」
ハンニバルは都の内に与えられた邸宅に戻ると、貴婦人が現れた。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
それはマニアケスであった。
彼女もこの時五十を越えていた筈だが、いかなる不思議、滴る美貌を未だ湛えていた。
「宮廷に仕えるとは何と肩の凝ることよ」
そう言って、右肩をぽんぽん叩いた。
「ほほ」
彼女は上品に笑った。まるで何代も続いた名家の女のようだ。
「贅沢を申されますな。その御蔭で、こうして安心して暮らせるのでございますから」
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