新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

序章−ある王国の物語

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 シキュオンのアラトス-上
 執事アッティクスの話は終わりに近づいた。
「新しく生まれ変わったラケダイモンでは、古の如く、市民の平等を取り戻し、若者たちは昔の慣習に帰り、日々鍛練に励んでいるとのこと」
「そうか。なんという美しい物語の結末」
 少年プブリウスは、頬を紅潮させ、目を輝かせた。
 彼だけではない。家の者たちも、いつしか大勢集まり、話に聞き入っていた。クレオメネス演説のくだりでは、ラケダイモンの民衆の如く拍手を送っていた。
「今の改革が成った話は四年前。ということは…クレオメネス王は今も」
「左様。ご健在です」
「おう。ならば、ますます行きたくなったぞ。ラケダイモンに」
「いえ、それが駄目なのです」
「なぜだ。理由を申せ」
「今、ペロポネソス全土が兵乱に包まれているからでございます」
「どういうことだ」
「英雄並び立たず。ある人物がクレオメネスに立ちはだかったのでございます」
「それは誰だ」
「アカイア同盟の最高指導者…」
「アラトスか」
「左様にございます」
「むうう、アラトスとは、よこしまな人物なのか」
「いいえ、決して。むしろ、公正無私な人物というべきでございましょう」
「そのような人物が、なにゆえクレオメネス王のような英邁な君主を敵とするのか」
「それは、こういうことでございます」
 アッティクス、今度は、クレオメネスと対立する一方の雄、アラトスの話を始めた。



 アラトス。
 彼は、紀元前271年、コリントスの北西十五キロに位置するシキュオンで生まれた。名家の出で、父クレイニアスはシキュオンの統領(アルコン)を務めていた。
 が、七歳の時に政変が勃発し、シキュオンに独裁政権が樹立されると、政変の混乱の渦中、父を殺されてしまった。彼は、縁者の手によりアルゴスに亡命した。
 アラトスは、父を殺されたこともあり、独裁者を徹頭徹尾憎悪した。
 ために、少年の頃より鬱勃たる志を抱き、二十歳になるや、独裁政権打倒、祖国解放を実現すべく、亡命者を結集した。
「今こそ、祖国の人々を驕慢な支配者から解放するとき」
 アラトスは、僅か五十人の同志を率いてシキュオンに不意に攻め入ると、独裁者ニコクレスを襲い、これを国外に追い払った。そして、彼はシキュオンに民主政を復活させた。

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 革命成る(さらに続き)
 議場には異様な興奮が充満していた。多くの貧者が希望に目を輝かせ、それとは逆に、少数の富裕者たちはやがて訪れる災厄に不安な色を見せていた。
「市民諸君!」
 王が登壇すると、地唸りの如く拍手が沸き起こった。それは貧者たちのものだ。彼らはもう知っている。王の志がどこにあるかを。
 王の顔は光彩を放っていた。今こそ、全てを明らかにするとき。これまでの偽りの仮面を脱ぎ、大望を人々に示す時なのだ。
 が、王は、粛々と述べ始めた。
「私はレオニダスの息子。アギス四世王を死に至らしめた先王の息子である」
 王は、厳然たる事実を人々に思い起こさせた。
 議場はしんとなった。声一つない。
 そう。王にやましい点があるとすれば、この一事だけであったろう。
「私は先の改革の折、なす術を知らかった。若年であったし、なにより、私はレオニダスの息子であった。その事実が私の全てを縛りつけた。…が」
 王は、手招きして、ある人を傍らに呼び寄せた。妻のアギアティスである。
「この妻こそが、私をアギス王の志に導いてくれた。レオニダスの息子という引け目に委縮している私を、大望へ向かう勇気を与え、駆り立ててくれた」
 王は、彼女の手を取り感謝の意を表した。
 感極まった王妃は熱いものを目に湛えていた。
 王は再び人々に顔を向けた。
「地下にある父も、歴代の王を前に、さぞ過ちを悔いていることと思う。きっとアギス王に詫びていることと思う。どうか父を許してやってほしい」
 王の率直な言葉に、人々もいつしか涙していた。
 王は、かっと刮目した。
「人々よ、私は宣言する。私はアギス王の志を継ぎ、この国を昔の如き輝きに満ち満ちさせてみせる!諸君!私に協力してくれ!」
 人々から割れんばかりの歓声が起こった。
「今こそ、ラケダイモンに栄光を取り戻す時!古来の法を復活せしめ、土地を市民一人一人に分配し、規律を取り戻すのだ!」
 万雷の拍手が鳴り響いた。


 民会はクレオメネスの行動を正式に承認した。ここに新しい政府が樹立されたのだ。
 王は、念願の土地改革に着手した。
「王たるもの、範を示さねばならぬ」
 真っ先に、自身の領地を国家に提供した。
 続いて、メギストヌス、エウリュクレイダスらの同志たちがそれに倣った。
 こうなっては他の地主たちも従うほかはない。私有地は悉く国家に差し出された。
 新政府は、土地を区分し、全市民に再分配した。そう、全ての市民に、である。
「改悛し帰国した暁には、我らが同胞であることに変わりない」
 といって、追放した市民にも几帳面に割り当てていった。
 人々は王の公正に感服した。
 さらに、王は自身を戒めることも忘れなかった。
「王が一人となれば、余とて間違いを犯し、暴走するやもしれぬ」
 といって、弟エウクレイダスを他方の王位につけたのだ。
 市民は惜しみない喝采を送った。
 紀元前226年暮れ、こうしてクレオメネス王の改革は成功した。
 革命は成ったのである。


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 革命成る(続き)
「いかがいたした」
 アギュライオスが問いただした。
 いかに酔っているとはいえ、彼らも万物の霊長である。二人の発する空気に、何かを察したのであろう。
 その時。
 二人は、いきなり酒盃をばっと投げつけた。
「あっ」「何を」
 監督官たちは顔を背けた。
 その隙に、二人は懐から短刀を抜き払うや、飛びかかった。
「国賊覚悟!」
次の瞬間、血潮がぱっと散った。
「あっ!」
 アギュライオスは、面を押さえて倒れ込んだ。
 他の監督官たちは仰天した。
「謀反だ!」
「狼藉者だ!」
 口々に叫ぶ声に、二人は笑った。
「笑わせるな!貴様らこそ民の苦しみを顧みない謀反人!」
「覚悟しろ!」
 と、猛然と斬りかかった。
 監督官も剣を抜いて抵抗した。が、酒を飲んで油断しきっていたのだ。勇猛の二人に到底敵わない。
 ただ、政庁には監督官を守る衛兵もいる。
「おお!狼藉者だ!」「捕らえよ!」
 彼らが駆け付けてきて、二人に立ち向かってくると、勝負の行方は分からなくなった。
 ところが、その時である。大勢の市民が、こん棒や鋤鍬を振り上げて、喚声を上げて政庁に乱入してきた。そして、監督官や衛兵に向かって襲いかかった。
 そう。クレオメネスは、出征前に、様々に工作して、かかる日のあることを、それとなく同情者に伝えていたのだ。
 僅かな激闘の後、勝負はついた。
 監督官たちは討ち取られた。衛兵たちも、民衆に取り囲まれ、全て投降した。
 が、死んだと思われたアギュライオス一人が、騒ぎのどさくさに紛れ、這い出ると、神殿の中に隠れた。ために、彼だけは助かった。


 翌日。日が昇ると共に、クレオメネスは兵を率いてアクロポリスに登った。
 王は、政庁に入ると、内政の最高権力者の座たる、五人の監督官の席のうち四つをとり捨てさせ、残った一つに自ら座った。自身、内政の権力を全面的に掌握したことを示すためだ。
「ふむ。王たるもの、やはり内政をも司ってこそよ」
 満足げにいった。
 王は、直ちに乱後の処理に当たった。
 まず、監督官たち一派の処断を下した。神殿に隠れていたアギュライオスについては、
「神意であろう。討つに及ばず」と助命を認めた。
「とはいえ、監督官どもの暴政により、民は塗炭の苦しみを被った。これを不問にすることはできぬ」
 と、アギュライオスはじめ監督官の党派に連なる八十人の市民を国外に追放する旨、公告した。
 こうして敵対者を悉く一掃すると、王は、直ちに民会を招集した。

革命成る-序章12

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 革命成る 
「今宵、決起する」
 クレオメネス王は、集まった同志を前に決意を表した。
 同志といっても、僅か十人程であった。が、王は、これで十分だと思っていた。
「まず、テリュキオンにフォイビス」
「はっ!」「はい」
 二人はセラシアにとどまっていたが、王の命により、密かに都に戻って来ていた。それはこれからの役回りのためであった。
「その方らは、伝令に扮し監督官どもの許に参れ」
「伝令…でございますか?」
「そうじゃ。その方らは、戦陣の姿そのまま。監督官どもも信じよう」
「なるほど」
「油断しているところを襲い、皆討ち取れ。一人も取り逃がすな」
「ははっ」
「他の者は、その間、人を寄せ付けぬよう政庁の出入り口を固めよ」
 クレオメネスは、ついに動き出した。
 人々が発奮して出動する様を見ながら、彼は、亡き父に語りかけていた。
(父上、御心に背いた行動をとり申す。が、これは、父上のためでもあるのです。アギス王を殺したあなたの息子が、アギス王の志を実現することで、父上も地下で歴代の王の前で面目が保てましょう)


 監督官たちは、閣議を開催した後に慣例として開かれる会食を楽しんでいた。
 昔は、豚の血と塩で作られた黒スープ、硬いパン、そんな粗食ばかりが並べられていたものだ。が、贅沢が習慣となった今、分厚く切られた肉やその他の御馳走が食卓を埋め、海外から取り寄せた葡萄酒が彼らのグラスを満たしていた。
「いや、それにしても安堵したわ」
「左様。クレオメネスに野望あるのではと戦々恐々でしたからな」
「そこはレオニダスの息子よ。一度覚えた贅沢の味は簡単に捨てられるものではない」
「アルキダモスも、殺すことはなかったかも知れんな」
「なんの。やつはアギスの弟。いずれ何を企むことやら。芽は早く摘んでおくものだて」
 血塗られた話を、肉を切り分けながら楽しそうに話していた。
「我らに従順なる王。我らに恵み与える大地。まさしく、この世は春ですな」
 監督官たちは高笑いした。


 その時、衛兵が現れて告げた。
「メギストヌス将軍より伝令が参っております」
 メギストヌスも富裕者の一人。監督官たちからすれば、仲間のようなもの。
 従って、何の疑いもなく、監督官たちは、
「おう。すぐにこれへ通せ」といった。
 そう。この時のため、こういう時のため、クレオメネスは母を嫁がせてまでメギストヌスを味方につけたのだ。
 現れたはテリュキオンとフォイビスの二人。
 二人は、戦場そのままの埃っぽい姿だった。
「メギストヌス将軍の伝令として参りました」
「おう、何事が起った」
「我が軍は、またもアカイア軍に対して勝利を収めました。その喜びを、一刻も早く国の長老たちに報告せよと」
 偽りである。が、勝利の報告に、監督官たちはやんやとざわめいた。
「ご苦労だったな。酒でも飲むがよい」
 監督官アギュライオスが鷹揚に勧め、給仕に彼らに酒盃を与えるよう命じた。
「では…」
 二人は、酒盃を押し頂くと、ちらりと視線を合わせ、前ににじり寄った。
 何気ない所作であるが、心中、必死だった。
 僅かな距離、僅かな空間の広狭こそが死命を分かつのだ。


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 夢見(さらに続き)
 クレオメネス王は、兵の大半をセラシアにとどめ、僅か三十騎ほどを率いてスパルタの都に入った。都の富裕者たちは、当初疑念の目で迎えた。
「クレオメネス王は、もしやアギス四世王と同じ志を抱いているのではないか」
「遠征先で激語を吐かれたとも聞く」
「クレオメネスに兵権を委ねるは危ない」
「我らも急ぎ兵を集めたほうが良い」
 すわ内乱か、そんな緊張が高まっていた時である。が、王が僅かな兵を伴っただけで帰国した様子を見ると、ほっと安堵が広がった。
 ために、クレオメネスがアクロポリスの政庁に現れると、監督官たちは、まずは征旅を慰労する言葉を捧げた。
 が、本題は、その次にある。
「遠征先で、土地の分配などに言及したとの噂があるが、その真偽はいかに」
「アルキダモスを王位につけたのは、いかなる目的からか」
 監督官たちから、矢継ぎ早に質問が繰り出された。あたかも査問会議の如くとなった。
 が、クレオメネスは慌てなかった。
「土地の話は言葉の綾みたいなもので、強敵を前に兵の士気を高めるため。それ以外の目的はございません」
「アルキダモス王を招いたのは、王が不在となることで国内の動揺が起きぬようその配慮からにございます。アルキダモス王に野望あることは存じませんでした」
 涼やかに答えたので、監督官たちの疑念は解消された。
 そして、王の次の言葉により、疑念は安心に変わった。
「皆様、お忘れですか。私は、レオニダスの子であって、アギスの子ではないのです。そこのところをお含みいただければ、貴卿らの御懸念が全くの杞憂であることがお分かりいただけると思います」
 その言葉に、長老たちは思い出しように安堵した。
「そうであった」
「王は、あのレオニダス王の息子であったよ」
「我らの仲間であった」
 嬉々とするその様子に、クレオメネスの目の奥が光った。
 

 ところが、その夜、ある不思議があった。
 監督官の一人、アギュライオスが願掛けのため神殿で眠っていたときのこと。
 彼はある夢を見た。
 いつものように政庁に出仕すると、本来あるべき場所から、五人の監督官の席のうち四つが取り除かれて、一つしか置かれていなかったのだ。
「これは一体いかなることだ。我らの席がないではないか」
うろたえたアギュライオス、政庁をさまよった。
 すると天上から声が響いた。
「それでよいのだ」
「誰だ!」
「女神アテナの使い。それでよいのだ」
「それはどういうことでございますか」
 アギュライオスが聞き返すと、
「その方がラケダイモンにとって良い結果になるということだ」との答えが返ってきた。
 彼は、その夢のことを、翌日開かれた会議の折、クレオメネス王に話した。
 王の表情は凍った。
(こやつ…余を試そうと作り話をしているのではあるまいな)
 が、質していくうちに、真実、夢の話をしているだけとわかったので、王は安心した。そして、大いに勇気づけられた。
(神も私の行いを嘉しておられる。…よし、決起するぞ)
 王は、その夜、屋敷に同志を集めた。

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