|
https://www.blogmura.com/ にほんブログ村
↑
ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)
クレオメネスの果断(さらに続き)
クレオメネス率いるスパルタ軍五千は、国境を越えると急進した。
そして、敵がパランティオン付近にいることを知ると、
「よし、一気に蹴散らすぞ」といった。
「お待ちくだされ」
メギストヌスが慌てて止めた。
「敵は二万余の大軍と聞きます。このまま突き進むなど無謀にございます」
「ははは。心配いたすな」
王はからからと笑った。
「敵は、我らの初動の鈍さに侮っていよう。その油断を衝く」
「とは申せ…我が兵の士気は、それほど高くはありませぬ…」
そう。スパルタ軍を構成するのは市民たち。が、その市民たちは貧困にあえいでいるのだ。貧困の上に戦争に駆り出されては、ますます貧しくなる。そんな兵の士気が高いわけがなかった。
「心配いたすな。余に考えがある」
クレオメネスは、命じて兵を勢揃いさせた。
クレオメネスは、兵の前に馬上進んだ。
メギストヌスの心配したとおり、集まった兵の顔は暗いものばかり。
「この戦、いつまで続くのかのう」
「早く帰らねば、家族が飢えてしまう。わししか働き手がおらんのだ」
働き手を奪われた家族が困窮するのは古今変わらない。
「諦めろ。お偉方は金持ちばかりじゃ。我らの苦しみなど分かりはせぬ」
そんな囁き声があちこちで交わされた。
そんな兵の群れをじっと見詰めていたクレオメネス、
「諸君!」と呼びかけた。
その声は、贅沢に慣れた腑抜けた声ではなかった。
「諸君らは、さぞ不平であろう。国の内にあっては貧しさに耐え、国の外にあっては恐怖に耐える。なにゆえ、かかる仕打ちを受けねばならぬのか、口には出せねど余にも不満があろう。まことにすまないこと」
王は詫びた。
意外な言葉に、兵らは顔を見合わせた。
「が…」
王は大きく息を吸った。今こそ、その真面目を表すのだ。
「余は、ここで諸君に約束する!諸君らが、本国に帰還した暁には、必ずや諸君に土地を分け与え、諸君を苦しめる債務から解き放つことを!」
はじめ、兵はきょとんとした。そして、やがて驚いた顔となり、静かな興奮がさざ波の如く軍勢を包んでいった。
「そ、それは、我らに土地をくださるということですか」
年長の兵士が王にたずねた。
「そうだ!」
王は大きく頷いた。
「諸君は、余がレオニダスの息子ゆえ不審とする点もあろう。が、かねてより余はアギス王の志に感動を覚えていた者。その証拠に、既に使者を派して、アギス王の弟君アルキダモス殿を招き、エウリュポン家の王位についてもらう手筈となっている」
スパルタには二つの王家がある。一つはクレオメネス王のアギス王家、もう一つがアギス四世出身のエウリュポン家。いずれも、祖の名をとってつけられた家名である。
アルキダモス即位の件に入ると、兵の間に異様な興奮が生じた。そう。アルキダモスこそ、彼ら貧者に希望を与えたアギスの弟なのだ。
「そして、二人力合せ、堕落した指導者どもを追放し、国政改革を断行する!古来のラケダイモンを復活させ、諸君に大いなる光を見せようぞ!」
それはまさしく魂の叫びであった。
「うおおおお」「おおおお」
兵の間から、けたたましい歓声が上がった。
「そのラケダイモンの栄光のためにも、目前の敵を討たねばならぬ!奮えや人々!」
「おおう!」
真を明らかにした王の言葉に、兵の士気は天を衝かんばかりとなった。
クレオメネス率いるスパルタ軍は、パランティオンにいるアカイア同盟軍に殺到した。
アカイア同盟の兵は笑った。
「ふん、来たぞ」
「よれよれの軍勢だな」
「貧者の集まりよ」
彼らは、エジプト王プトレマイオス三世の資金援助を受けている。ために華麗な装備を身につけていた。が、スパルタ軍兵士のそれはみすぼらしいものであった。所々綻びた鎧に、ひび割れた脛当て。いや、その鎧すらつけていない者も多かった。
が、ぶつかったとたん、アカイア同盟の兵は圧倒された。
断然強い。
スパルタ兵は凄まじい気迫をぶつけてきた。
「我らラケダイモン戦士の強さを忘れたか!」
そう。かつては、スパルタ兵の持つラムダの文字をあしらった楯を見ただけで、諸国の軍勢は震え上がったものだ。
王から、土地分配を約束された人々は、かつての誇りを取り戻したのだ。
アカイア軍の指揮官リュディアダスは、
「ええい、何をしている!敵は我らの半分以下なのだ!おっ取り囲んで殲滅せよ!」と叫んだが、既に中央を突破され、包囲どころではない。
逆に本陣に突入してきたスパルタ軍のため、大混乱に陥った。
クレオメネス率いる軍勢は、ついにアカイア同盟の大軍を撃破した。アカイア軍は西方に退却していった。
戦場では、いつまでもスパルタ兵の凱歌が轟いていた。
|