新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

序章−ある王国の物語

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夢見(続き)-序章11


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夢見(続き)
「これは…確かに一刻の猶予もなりませんな」
「この地の軍は、そなたに指揮を委ねる。私は、直ちに帰国して改革を断行する」
 その夜、クレオメネスは、エウリュクレイダス、テリュキオン、フォイビスという将を連れ、三百の兵だけを従えてスパルタに向かった。

 が、事態は王の想像以上に悪化していた。
 国境を越え、セラシアまで戻ってきた時。
(今日は、久しぶりに屋根のある場所で安眠を得られそうな)
 故郷を目の前に安心した王は、そんなことを思っていた。そのときであった。
「王様!クレオメネス王よ!」
 急使が現れた。それは本国に遺していた同志の家の者だった。
「おお、余はここだ」
「大変にございます」
「いかがいたした?」
「そ、それが、アルキダモス王が暗殺されましてございます!」
「な、なんだと!」
 王は愕然とした。
「誰の仕業だっ!」
「下手人は逃げうせました。が、監督官どもの指図であることは明白かと存じます」
「しまった!」
 王は悔恨の唸りを発した。
 甘く見ていた。レオニダスの息子たる自分が王位につけたアルキダモスに対し、まさか反対者がここまでの非常手段に出るとは思わなかったのだ。


「おのれ…なんたる非道、なんたる思い上がり。許さぬ」
 怒りを通り越し血の気が引いたのか、王の顔は青白くゆらめいた。
「こうなれば、直ちにスパルタの街に戻り、国に巣食う害賊どもを討ち取るぞ!」
「お待ちくだされ」
 止めたのは、勇将の誉れ高いエウリュクレイダス。
「なぜ止める」
「今、王が血気に逸るまま兵を率いて都に突入すれば内乱となってしまいます。そうなれば、メギストヌス殿率いる軍は孤立して崩壊するに違いありませぬ。敵はラケダイモン本国に攻めよせてまいりましょう。内に乱、外に敵となれば、国家存亡の危機となります」
 その通りだった。
 王は窮した。
「では、どうすればよい。このまま手をこまねいていては、やがて余の志も白日のもとに晒されよう。既に、兵どもには余の志を明らかにしているのだからな」
「考えがございます」
 エウリュクレイダスはひそひそ王の耳元に囁いた。

夢見-序章11


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 夢見 
 クレオメネスの快進撃は続いた。
 西方に転じてメガロポリスに攻め込み、リュディアダス率いるアカイア同盟軍をここでも破った。そして、敵将リュディアダスを討ち取り、メガロポリスを占領した。
「これはいかん」
 アカイア同盟総帥アラトスは、態勢を立て直すため撤退を命令した。
 が、クレオメネスは、アカイア軍を追撃し、リュカイオン山の麓で激戦の末、これを徹底的に打ち破った。ために、一時、アラトスの生死が不明となるほどであった。
「強いぞ、スパルタ軍は」
 強い軍隊には人が集まる。スパルタの軍勢は急激に膨張した。
 それまでギリシア第一の人物と名高かったアラトスを徹底的に破ったのだ。クレオメネスの威望は、ギリシア世界全土に轟いた。


 スパルタ軍は、そのままアカイア同盟の本拠地に攻め込む勢いであったが、あえて進まず、メガロポリスに退却した。
「メギストヌスよ。余はいったん帰国するぞ」
「なにゆえです。大戦果を上げている折に…」
「我らがこの征旅に出ているのは何のためか」
「それは…」
「そう。勝利して外敵の脅威を退け、転じて国内の改革を断行するため。国内の改革が行われないうちは、遠くアカイア同盟の本拠に攻め込むことなどできぬ。もし、国内に政変が起きれば、これまでの戦果など泡と消え去ろう」
「されど、国にはアルキダモス殿がおられるではありませんか」
 そうだった。クレオメネスは、本国の監督官たちの暴走を抑えるため、アギス四世の弟アルキダモスを迎えてもう一人の王とし、国内を睨ませていたのだ。
「いや、本国からの知らせによると、どうもただならぬ空気。これを見よ」
 といって手紙を渡した。
「これは…」
 メギストヌス、その内容に驚いた。


 アルキダモスの帰国に、はじめ驚いた監督官たちも、それがクレオメネス王の同意によるものと知ると、表向き歓迎の態度を示した。そのため、アルキダモスは、さしたる妨害を受けることもなく、エウリュポン家の王位についた。
 が、それは表面上のこと。密かに、富裕者たちの間に大動揺が起こり、彼らは激しく監督官たちを突き上げた。
『お前たちは何をしている!』
『そうだ!アルキダモスは、アギスの政策に賛同し、我らから土地を奪おうとしていたやつだぞ。そんな奴の王位を認めるなど』
『追放しろ』
『いや、それでは生ぬるい。いっそアギスのように…』
 スパルタの街に不穏な空気が満ち満ちていることを、手紙は克明に伝えていた。

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 クレオメネスの果断(さらに続き)
 クレオメネス率いるスパルタ軍五千は、国境を越えると急進した。
 そして、敵がパランティオン付近にいることを知ると、
「よし、一気に蹴散らすぞ」といった。
「お待ちくだされ」
 メギストヌスが慌てて止めた。
「敵は二万余の大軍と聞きます。このまま突き進むなど無謀にございます」
「ははは。心配いたすな」
 王はからからと笑った。
「敵は、我らの初動の鈍さに侮っていよう。その油断を衝く」
「とは申せ…我が兵の士気は、それほど高くはありませぬ…」
 そう。スパルタ軍を構成するのは市民たち。が、その市民たちは貧困にあえいでいるのだ。貧困の上に戦争に駆り出されては、ますます貧しくなる。そんな兵の士気が高いわけがなかった。
「心配いたすな。余に考えがある」
 クレオメネスは、命じて兵を勢揃いさせた。


 クレオメネスは、兵の前に馬上進んだ。
 メギストヌスの心配したとおり、集まった兵の顔は暗いものばかり。
「この戦、いつまで続くのかのう」
「早く帰らねば、家族が飢えてしまう。わししか働き手がおらんのだ」
 働き手を奪われた家族が困窮するのは古今変わらない。
「諦めろ。お偉方は金持ちばかりじゃ。我らの苦しみなど分かりはせぬ」
 そんな囁き声があちこちで交わされた。


 そんな兵の群れをじっと見詰めていたクレオメネス、
「諸君!」と呼びかけた。
 その声は、贅沢に慣れた腑抜けた声ではなかった。
「諸君らは、さぞ不平であろう。国の内にあっては貧しさに耐え、国の外にあっては恐怖に耐える。なにゆえ、かかる仕打ちを受けねばならぬのか、口には出せねど余にも不満があろう。まことにすまないこと」
 王は詫びた。
 意外な言葉に、兵らは顔を見合わせた。


「が…」
 王は大きく息を吸った。今こそ、その真面目を表すのだ。
「余は、ここで諸君に約束する!諸君らが、本国に帰還した暁には、必ずや諸君に土地を分け与え、諸君を苦しめる債務から解き放つことを!」
 はじめ、兵はきょとんとした。そして、やがて驚いた顔となり、静かな興奮がさざ波の如く軍勢を包んでいった。
「そ、それは、我らに土地をくださるということですか」
 年長の兵士が王にたずねた。
「そうだ!」
 王は大きく頷いた。
「諸君は、余がレオニダスの息子ゆえ不審とする点もあろう。が、かねてより余はアギス王の志に感動を覚えていた者。その証拠に、既に使者を派して、アギス王の弟君アルキダモス殿を招き、エウリュポン家の王位についてもらう手筈となっている」
 スパルタには二つの王家がある。一つはクレオメネス王のアギス王家、もう一つがアギス四世出身のエウリュポン家。いずれも、祖の名をとってつけられた家名である。
 アルキダモス即位の件に入ると、兵の間に異様な興奮が生じた。そう。アルキダモスこそ、彼ら貧者に希望を与えたアギスの弟なのだ。
「そして、二人力合せ、堕落した指導者どもを追放し、国政改革を断行する!古来のラケダイモンを復活させ、諸君に大いなる光を見せようぞ!」
 それはまさしく魂の叫びであった。
「うおおおお」「おおおお」
 兵の間から、けたたましい歓声が上がった。
「そのラケダイモンの栄光のためにも、目前の敵を討たねばならぬ!奮えや人々!」
「おおう!」
 真を明らかにした王の言葉に、兵の士気は天を衝かんばかりとなった。


 クレオメネス率いるスパルタ軍は、パランティオンにいるアカイア同盟軍に殺到した。
 アカイア同盟の兵は笑った。
「ふん、来たぞ」
「よれよれの軍勢だな」
「貧者の集まりよ」
 彼らは、エジプト王プトレマイオス三世の資金援助を受けている。ために華麗な装備を身につけていた。が、スパルタ軍兵士のそれはみすぼらしいものであった。所々綻びた鎧に、ひび割れた脛当て。いや、その鎧すらつけていない者も多かった。
 が、ぶつかったとたん、アカイア同盟の兵は圧倒された。
 断然強い。
 スパルタ兵は凄まじい気迫をぶつけてきた。
「我らラケダイモン戦士の強さを忘れたか!」
 そう。かつては、スパルタ兵の持つラムダの文字をあしらった楯を見ただけで、諸国の軍勢は震え上がったものだ。
 王から、土地分配を約束された人々は、かつての誇りを取り戻したのだ。
 アカイア軍の指揮官リュディアダスは、
「ええい、何をしている!敵は我らの半分以下なのだ!おっ取り囲んで殲滅せよ!」と叫んだが、既に中央を突破され、包囲どころではない。
 逆に本陣に突入してきたスパルタ軍のため、大混乱に陥った。
 クレオメネス率いる軍勢は、ついにアカイア同盟の大軍を撃破した。アカイア軍は西方に退却していった。
 戦場では、いつまでもスパルタ兵の凱歌が轟いていた。


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 クレオメネスの果断(続き)
 敵のアカイア同盟の大軍は、アルカディア南部のパランティオンに布陣していた。
 アカイア同盟。
 諸国の多くが加盟し、当時、ギリシア世界の中にあって最大の勢力を誇っていた。
 この同盟を率いるは、アラトス。マケドニア歴代の王の侵略を撃退し、その威信は絶頂を迎えていた時期である。
 彼の指導のもと、アカイア同盟は、ペロポネソス半島の大部分を勢力下に置き、アテネやテバイをマケドニア支配から解放し、ギリシア全土をまとめつつあった。
「なに、スパルタ軍が押し寄せてくると」
「は。総勢五千ほどかと」
「えらく出陣に手間取っていたようだが、敵将は誰だ」
「スパルタ王クレオメネスにございます」
「クレオメネスか」
 彼は、かつてアギス四世を手厚く迎えたことがある。が、クレオメネスに対する態度は全く違っていた。
「ふん。独裁権力を我がものにしたレオニダス王の息子よな。そのような者、一蹴してくれるわ」
 そう。彼は、独裁者を極度に嫌悪し、ギリシア諸国の独裁者たちを打倒し、それゆえ勇名を馳せてきたのだ。
 彼も、まさかレオニダスの息子が、アギス四世の志を密かに継承しているとは夢にも思わなかったのであろう。


「リュディアダスよ」
 彼は、傍らの将を見た。
「はい」
「密偵の報告によると、敵将クレオメネスは血気盛んな若者だそうな。猪突猛進に突き進むところを取り囲み、一気に殲滅せよ」
「かしこまりました」
 リュディアダス率いるアカイア同盟軍、総勢二万一千が動き出した。
 このリュディアダスは、変わった経歴を有していた。
 彼は、かつてメガロポリスの独裁者であったが、アラトスの説得に応じて権力を放棄するや、アカイア同盟の傘下に入り、それまでの悪名が嘘の如く名声を得て、今や同盟の最高官職のストラテゴス(最高司令官)にまで登り詰めていた。


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 クレオメネスの果断 
 クレオメネス王は、唯々諾々と監督官や長老の指示に従い、あたかも贅沢な生活だけに関心があるかの風を装っていた。
「さすがレオニダス二世王の御子息じゃ」
「左様。我ら地主への理解があることよ」
 富裕者たちは、我が世の春を存分に喜んだ。
 が、王の心中は違った。
(なんとしても改革の端緒を掴まねばならぬ)
 焦燥にも似た思いを抱いていたのだ。
 が、やがて、その機会がやってきた。紀元前227年、アラトス率いるアカイア同盟の大軍が、スパルタ制圧のため南下を始めたのだ。
(これは好都合。改革は平時より戦時の方がやりやすい)
 軍指揮権は、王が今もなお有していた。従って、戦時には王の許に多くの兵が従うことになる。王は、それを利用しようと考えた。
 案の定、監督官アギュライオスは、クレオメネスに対して、
「軍を率いて、敵軍を打ち破るよう」と出陣を命じてきた。
「かしこまりました」
 王は素直に承諾した。が、何を思ったか、
「三日、お待ちいただきたい」と言い出した。
「なぜじゃ。事は急を要するのだぞ」
 アギュライオスは訝しげな顔をした。
「いえ」
 クレオメネス王は笑った。
「あまりに神速に動けば、敵将アラトスは名将。かえって警戒心を強め、勝利することはかないますまい。ここはあえて出撃を遅らせ油断させ、その後、急に進んで打ち破るのでございます」


 言葉巧みに監督官たちを丸めこむと、王は、その夜、母クラテシクレイアの屋敷に同志たちを集めた。母の夫にしてメギストヌス、勇猛な将エウリュクレイダス、友のテリュキオン、フォイビスなどである。
 そう。王は、無為に数年を過ごしてきたのではなかった。ときに言葉をもって若者の血潮を燃え上がらせ、ときに栄誉を約束して懐柔し、少しずつ同志を集めていたのだ。
 特に、メギストヌスはひと際注目を浴びた。
 彼は、スパルタにおいて一・二を誇る富裕者であり隠然たる勢力を誇っていた。彼を取り込むため、クレオメネスは母クラテシクレイアに懇願して彼の許に嫁がせ、彼女の説得に応じてクレオメネスの同志となったものであった。
 この会合にあっても、彼は重きをなしていた。


「諸公よ。時が来た」
 クレオメネス王が、顔を紅潮させていうと、
「ということは、いよいよ」
 メギストヌスが応じると、王は力強く頷いた。
「うむ。余は軍を率いてアルカディアに攻め込む。諸君らにも一軍を率いてもらうつもりだ。この機を外さず、国政改革を断行する」
「おお!」
 若者たちは高揚した。
「されど、王よ。我ら全員出払ってしまっては不都合ありませぬか」
 メギストヌス、年長者だけあって、浮ついたところがない。
「心配いらぬ」
 王はにっと笑った。
「余は、監督官どもから出陣に三日の猶予をもらった。その間に、さまざま下ごしらえをしておくつもりだ」
 王は、それから数日、あちこちに使者を派遣するなど、微妙な工作を十分に施してから、軍勢を率いて出陣した。
 紀元前226年春のことであった。

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