新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

序章−ある王国の物語

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 志を継ぐ(続き)
 紀元前235年、レオニダス二世が死去すると、クレオメネスが王位についた。
 クレオメネス三世である。
 王は、国政改革を胸に秘め、動き始めた。
(まず、アギス王のお考えが、今の者どもにどのように受け止められているか、それを知ることから始めよう)
 そう考えた王は、親友のクセナレスを呼んだ。


「王よ、急なお呼び出し、いかがなされましたか」
「アギス王の話を聞きたい」
「なにゆえ、御父上の仇の話などを所望されます」
 はじめ、警戒の眼差しを浮かべたクセナレスであったが、
「余は王位を全うしたい。そのための教訓とするためだ」と聞くと、
「こういうことなのでございます。あの若者は無謀にも…」
 クセナレスは、ことの顛末を、面白そうに話し始めた。彼も富裕者の一人。アギスの失敗が痛快なのであろう。
 が、それを聞くクレオメネス王の反応は違った。王妃からも聞いたことのない話が出ると、熱心に耳を傾け、
「もう一度、聞かせよ」と何度も聞きたがった。
 その様子には、明らかにアギス王に対する尊崇の念が感じられたので、クセナレスは怒り始めた。
「王よ。よからぬことに御関心を抱くと、王位を全うできませぬぞ」
 そう言い捨てて去ると、その後の交友を絶ってしまった。
(なるほど。クセナレス程の者でも、あの有様。ということは、有力者のほとんどが敵であると思わねばならぬな)
 そう考えたクレオメネス王は、それから数年、大人しくしていた。

志を継ぐ-序章9


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 志を継ぐ 
 執事アッティクスの長い話は終わった。
 少年プブリウスは、涙をふきこぼしていた。
「なんという悲しい話だ」
「レオニダス王とアンファレスは、スパルタの人々にたいそう憎まれたそうにございます」
「さもあろう。…して、その裏切り者アンファレスは、その後どうなったのじゃ」
「アンファレスは、王の母アゲシストラタをも手にかけ、その財産を奪ったとのこと。が、その後の消息は伝わってはおりませぬ」
「なんたること。かような悪人がのさばったままとは…」
「なんの。どうせ、ろくな末路は辿っておりますまい。親友とその母を手にかけて得た財産などで幸福になれよう筈がありませぬからな」
「そうか。そうだな」
 少年は、うんうん頷いた。


「しかし、アッティクスよ」
 プブリウスは、涙をぬぐうと、再び疑念のまなざしを向けてきた。
「なんですか御曹司」
「今の話は二十年も前のことではないか。それが、どうして私がスパルタに行ってはならぬ理由となるのか」
「いえ、不思議な話が続くのでございます」
「なんだ。まだ続きがあるのか」
「はい」
「聞かせよ。早く」
 プブリウスはせがんだ。
「ちと長い話になりますが…」
「構わぬ。そなたには、この聴衆を満足させる義務があるのだ」
 少年は、あたりを見やって、笑って見せた。
 食堂には、いつの間にか、執事アッティクスの話を聞くために、家人たちが集まって耳をそばだてていた。
「それでは…」
 アッティクスは、再び、アギス後のスパルタの歴史を語り始めた。



 アギス四世の死後、スパルタは全く堕落してしまった。
 節制に代わり放埓が、質素に代わり贅沢が、スパルタ社会の玉座についた。かつての慎ましやかさは消え失せ、人々は、怠惰に堕ち快楽を貪ることが推奨された。
 これを憂う人物がいた。
「なんたること。このような有様で、どうして諸国と渡り合ってゆけよう」
 クレオメネス王子である。
 アギスを死に追いやったレオニダス二世の息子である。
 アギスの死後、彼は、アギス王の妃だったアギアティスを妻に迎えた。これは、父レオニダス王が、アギアティスが莫大な資産家の娘であったことから、その相続財産を手中にするため、嫌がるアギアティスを無理やり息子と結婚させたものであった。
 が、クレオメネス王子は、父とはまるで人格が違っていた。
 年長の彼女を、妻として大切に遇し、そして、前夫を慕う彼女の心情にも配慮した。細やかな愛情を受けたアギアティスは、やがて心開き、クレオメネスに亡きアギスの抱いていた志の何たるかを教えた。
 クレオメネスは感動した。
「…そうか。アギス王は、そのような大いなる志を抱いておられたのか」
「はい。志半ばでのあえない御最期。さぞご無念であったろうと思うと」
 妃はよよと泣いた。
 王子は、妃の肩に手を乗せた。
「私は、迂闊にも、先の改革の折には、若年のため何ら己の身を処すこともできず、右顧左眄しておった。まことに恥ずかしい限り。が、見ておれ。ここにも王家にふさわしい男がいることを、いずれ天下に明らかにして見せよう」
「旦那さま。そのようなことを口になされば危険でございます」
 妃は案じた。
 そう。スパルタの国政は、完全に地主たちなど富裕者たちが支配し、アギスの名前を出すだけで、反逆の徒とされ監獄にぶちこまれる恐れがあった。
「なに、心配いたすな。王位につくまでは愚か者の振りをしておるわ。金と女にしか興味のない、当世風のラケダイモン人の振りをしてな」
 クレオメネスは笑った。
 歴史は、皮肉にも、レオニダス王の息子の彼を、アギスの思想の継承者として、スパルタに遺したのだった。


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 改革の結末(さらにさらに続き)
 牢獄の中は沈鬱となった。王の一喝を浴び、長老たちは萎れてしまった。
 言葉を持たなかったのは、レオニダス達の方だった。
「だ、黙れ、黙れ!」
 レオニダスはわめいた。
 喚くしかなかった。言葉を失った者に残されているのは、無恥なる暴力だけだ。
「世迷言をほざきおって。アンファレス。ぐずぐずするな。この反逆者を直ちに処刑せよ!」
「は、ははっ」
 アンファレスも青ざめていたが、もう野蛮な力を振るうしかないと心定めると、
「アギス殿、こちらにまいられよ」と、かつての友の縄尻を引いた。
 アギス王は、素直に立ち上がると、死の座が待つ別室に向かった。


 別室には処刑人が控えていたが、王の顔を見ると大いに驚いた。
「これは…一体何事でございます」
「命令である。この者を処刑せよ」
 アンファレスが命ずると、処刑人は仰天した。
「め、滅相もない。このような慈悲深き王を」
「黙れ!レオニダス王の御意、長老会の命令だぞっ!」
 アンファレスが居丈高に脅しても、処刑人は、泣き出し、震えるばかりであった。
「ふ」
 アギス王は、このような悲惨の極みにあって、笑みを浮かべた。
「処刑人よ。泣くな。刑の執行を拒めば、後でそなたが咎めを受けよう」
 そういうと、王は、死の座に着いて、自ら縄に首をかけた。
「さあ。処刑人よ。せめて苦しまぬよう、一気にやってくれよ」
 処刑人は泣く泣く縄を掴んだ。
「余の死が、ラケダイモンに、なにかしら良い結果をもたらすことになればよいが…」
 それが王の最期の言葉であった。
 紀元前241年、アギス四世は死去した。
 在位僅か三年、23歳の若さであった。

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 改革の結末(さらに続き)
 アギス王逮捕。
 喜んだレオニダス王は、長老たちを引き連れ監獄にやってきた。
 アギスは、獄吏と変じたアンファレスに縄尻を掴まれ、椅子に座っていた。
「アギスよ」
 重々しく呼び掛けたが、アギス王は答えない。
「汝は、余を王位から追い、不法に国制を変革し、独裁権力を握った。まさしく国家への反逆。その罪、死に値しよう」
 アギスはなおも答えない。
 沼のような重い沈黙が牢獄を支配した。


「アギスよ。どうした。申すべき言葉を持たぬか。それとも恐れ入ったるか」
 レオニダスは、得意げに、虜囚の王を見下ろした。
「レオニダスよ」
 アギス王の声は常と同じ響きであった。
「なんじゃ。何か申し開きすることがあるか」
「余は、リュクルゴス以来のラケダイモンの国制に戻さんと、ただそれだけに努めてまいった」
「なに」
「そなたの遥かなる祖、テルモピレーの戦いで全ギリシアのために討ち死になされたレオニダス一世王、そして、全ギリシアに覇業輝かせたアゲシラオス二世王、いずれも、その法の下にあった。余の行為が罪となるというならば…」
 アギスは、かっと目を見開いた。
「汝らこそ、地下の先祖たちの前でなんと申し開きをするつもりだ!どのような顔でまみえるというのか!」
 あたかも、古のラケダイモンびとそのまま烈火の形相を見せた。
 レオニダスたちは蒼白となった。
長老の中には、先祖に激しく叱責されたかのように、うつむく者もいた。心ならずもレオニダスに従っていた者もいたものであろう。

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 改革の結末(続き)
 三人は、その間、川べりで王を見守っていた。
(どうする。今、捕まえるか)
 ダモカレスが囁いた。
 彼も、恩賞に目がくらみ、レオニダス一派に心変わりしていた。
(いや…これが最後の水浴びとなろう。情けというもの。存分にさせてやろうではないか)
 アンファレスがしみじみつぶやくと、アルケシラオスが冷笑した。
(ふふ。財貨に魂を売った者が人並なことを言うではないか)
(なんだと)
(怒るな。俺も同類。そんな俺にも似た情が湧いた。させてやろうではないか。最後の水浴びを。死出の水浴びを)


「どうした。なにをこそこそ囁き合っておる」
 王は、不思議そうなまなざしを向けた。その瞳には、疑うことを知らぬ光があった。
「あ、いや。別段何も」
 そう答えたアンファレスであったが、いいようのない羞恥が彼を襲った。
 悪人にも、ふと善性が蘇る瞬間がある。それが、悪に染まった自己を激しく苛むのだ。
 それは他の二人も同じだったらしく、思わず目を伏せていた。
 やがて、アギスは岸に上がると、気持ちよさげに体を拭った。
「気持ちよかったぞ」
「それはようございました」
「そなたらのおかげ。国中が敵となる中、身命を賭して守護してくれるお前らの、な。飢え死にもせず、身を清めることもできる」
 王は笑った。
 そう。三人は、当初、友として、食べ物を密かに神殿に差し入れ、真実アギスを守護するため水浴びに向かう道を供したのだった。
 が、レオニダス一派の脅迫、そして、巨大な財貨の誘惑に、友情を売り渡してしまった彼らなのだ。
「は…」
 三人は、ますます身をすくめた。
「では、神殿に戻るか」
 王は、ざっざっと草を踏みしめ歩き始めた。


 王は、アクロポリスの丘を、力強い足取りで登っていく。そして、アゴラと神殿に向かう分かれ道に差し掛かった。
(おい…どうするんだ。このままだと神殿についちまうぞ)
 ダモカレスがアンファレスの耳元に囁いた。
 打ち合わせでは、途中捕え、アゴラの監獄に連行することになっていた。
(分かっている)
 苛々と応じたアンファレス、が、その顔は蒼白となっていた。
 先ほどまでは、あたかも功業を一夜に成し遂げるかの如くに錯覚し、高揚感さえ覚えていた。しかし、その相手の人は、微塵の疑いも自分たちに抱いていない。その人に無残な刃を振り下ろすのだ。その大きな罪悪感が、挙に出るのをためらわせていた。
(よし、俺が)
 アルケシラオスも青白い顔を持ちこたえていたが、王の背後に迫り、突然、手拭いを王の首に巻きつけ、王の動きを封じた。
 王は驚いた顔をしたものの、
「おい、アルケシラオス、悪ふざけはよせ」と、笑顔さえ向けてきた。
「いや、その…」
 アルケシラオスはしどろもどろとなり、手から力が抜けていった。


 アンファレス、今はやむなしと思い定めると、王の前に立った。
「我ら、公命により王を逮捕いたします。ご観念ありますよう」
「なに、どういうことだ」
「王には反逆罪の容疑がかけられております。王は裁判を受けることとなります」
 王は、友の顔を、いや、友だった男たちの顔を凝視した。
「そうか。お前たちまで…」
 三人は、もうその人の顔を見なかった。抵抗しないその人に縄をかけると、家畜を屠場に追いやるが如く、遮二無二引っ張っていった。
 地上を照らす月は思ったろう。一体どちらが罪人なのか。
 三人は、その顔を土気色にさせていた。自ら罪の業火に焼かれるため、引かれゆく囚われ人のように。

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