|
https://www.blogmura.com/ にほんブログ村
↑
ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)
改革の結末
アギス四世がアテナ神殿に籠ってから半月が経過した。
レオニダス王は思案した。
「どうしたらよいものかのう。神殿には兵は踏み込めぬ。このまま放置すれば、民衆の心変わりにより、どのような動乱が起きるか」
そう。民衆はアゲシラオスの暴政への怒りから、レオニダス一派と行動を共にしていたが、本来は水と油。レオニダスは貧者の敵なのだ。一時の興奮が冷めれば、どんな逆乱が勃発しないとも限らなかった。
「私に考えがあります」
意見したのはアンファレス。アギス王の古くからの親友である。
彼は、アギスの母、王太后アゲシストラタより貴重な品々を借りており、それを返すのが惜しくなり、密かにレオニダスに通じていた。
「私は王の友。偽って神殿から誘い出し、途中で捕縛するのです」
「アギスは警戒しておろう。そう簡単に神殿から出てくるものか」
「実は、アギス王は、人目を忍び、深夜、水浴びのためエウロータス川に出ております」
「それはまことか」
「はい。それゆえ、我らにお任せいただければ、王を捕らえるなどたやすきこと」
「むう。何が望みだ」
レオニダスは当然の如くに訊いた。
彼に仕える者は、皆、何か見返りを期待している者ばかり。そういう人間の面構えばかりを見ていると、物欲しげな臭いはすぐ嗅ぎとれる。
彼の数少ない才の一つだ。
そして、アンファレスも、もちろんその期待をもって近づいている。
「は。もしお許しいただけるならば、王太后の財産をいただきたく」
人の心は、まがまがしい光を放つ富を前に、ここまで荒ぶものであろうか。ここまで無恥になれるものであろうか。彼は、親友を裏切る代償に、親友の母の財産を奪おうとしていた。まごうことなき『人でなし』であった。
が、その言い草は、レオニダスには頼もしく感じられたらしく、
「よかろう。その代わり、きっとし遂げよ」と力強く命じた。
アンファレスは、同じくアギスの友人であるダモカレス、アルケシラオスを連れて、アテナ神殿に向かった。
「王様、王様」
アンファレスは、神殿の暗闇に向かって声をかけた。
「その声はアンファレスか」
奥から響く声は、女神アテナを守護する天上人の如く涼やかであった。
「はい。本日も水浴びの供をするため参りました」
「レオニダス一派の者どもは見掛けなんだろうな」
「あたりには人っ子一人おりませぬ。奴らも、王がまさか夜に神殿を抜け、エウロータスで水浴びしているとは、よも思いますまい」
「うむ」
王は、月明りの下に、その姿を現した。
半月に及ぶ籠城に、さすがに痩せこけ、髭を生やすに任せていたものの、かえって、表情をますます透明なものにしていた。
「では、参るか。食を断つは苦にならぬが、身を清らかにできぬは苦痛だからの」
王は笑った。
そして、アクロポリスを下りて行き、エウロータスの畔に出ると、王は上着を脱いで、川にざぶさぶ入っていった。
|