新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

序章−ある王国の物語

[ リスト | 詳細 ]

記事検索
検索

全8ページ

[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8]

[ 前のページ | 次のページ ]

改革の結末-序章8

イメージ 1


https://www.blogmura.com/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)


 改革の結末
 アギス四世がアテナ神殿に籠ってから半月が経過した。
 レオニダス王は思案した。
「どうしたらよいものかのう。神殿には兵は踏み込めぬ。このまま放置すれば、民衆の心変わりにより、どのような動乱が起きるか」
 そう。民衆はアゲシラオスの暴政への怒りから、レオニダス一派と行動を共にしていたが、本来は水と油。レオニダスは貧者の敵なのだ。一時の興奮が冷めれば、どんな逆乱が勃発しないとも限らなかった。


「私に考えがあります」
 意見したのはアンファレス。アギス王の古くからの親友である。
 彼は、アギスの母、王太后アゲシストラタより貴重な品々を借りており、それを返すのが惜しくなり、密かにレオニダスに通じていた。
「私は王の友。偽って神殿から誘い出し、途中で捕縛するのです」
「アギスは警戒しておろう。そう簡単に神殿から出てくるものか」
「実は、アギス王は、人目を忍び、深夜、水浴びのためエウロータス川に出ております」
「それはまことか」
「はい。それゆえ、我らにお任せいただければ、王を捕らえるなどたやすきこと」
「むう。何が望みだ」
 レオニダスは当然の如くに訊いた。
 彼に仕える者は、皆、何か見返りを期待している者ばかり。そういう人間の面構えばかりを見ていると、物欲しげな臭いはすぐ嗅ぎとれる。
 彼の数少ない才の一つだ。
 そして、アンファレスも、もちろんその期待をもって近づいている。
「は。もしお許しいただけるならば、王太后の財産をいただきたく」
 人の心は、まがまがしい光を放つ富を前に、ここまで荒ぶものであろうか。ここまで無恥になれるものであろうか。彼は、親友を裏切る代償に、親友の母の財産を奪おうとしていた。まごうことなき『人でなし』であった。
 が、その言い草は、レオニダスには頼もしく感じられたらしく、
「よかろう。その代わり、きっとし遂げよ」と力強く命じた。


 アンファレスは、同じくアギスの友人であるダモカレス、アルケシラオスを連れて、アテナ神殿に向かった。
「王様、王様」
 アンファレスは、神殿の暗闇に向かって声をかけた。
「その声はアンファレスか」
 奥から響く声は、女神アテナを守護する天上人の如く涼やかであった。
「はい。本日も水浴びの供をするため参りました」
「レオニダス一派の者どもは見掛けなんだろうな」
「あたりには人っ子一人おりませぬ。奴らも、王がまさか夜に神殿を抜け、エウロータスで水浴びしているとは、よも思いますまい」
「うむ」
 王は、月明りの下に、その姿を現した。
 半月に及ぶ籠城に、さすがに痩せこけ、髭を生やすに任せていたものの、かえって、表情をますます透明なものにしていた。
「では、参るか。食を断つは苦にならぬが、身を清らかにできぬは苦痛だからの」
 王は笑った。
 そして、アクロポリスを下りて行き、エウロータスの畔に出ると、王は上着を脱いで、川にざぶさぶ入っていった。


https://www.blogmura.com/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)


 裏切り(さらに続き)
 監督官アゲシラオスは、アギス王の留守中、その正体を明らかにしていた。そして、アギスの改革を、無残にも台無しにしていた。
 彼は、アギスが側近全てを引き連れ遠征していったのを幸いに、その私心欲心を満たすべく、次々に法令を発した。
 まず、土地の再分配の実施を事実上反古にした。
「王が約束したことをないがしろにするつもりか!」
 市民は憤激した。
 が、それだけではない。さらに市民の怒りを買ったのは、彼が、閏(うるう)月を無理やり挿入したことであった。
 当時、スパルタでは太陰暦が採られており、月の運行を基に暦(カレンダー)が作られていたが、どうしても季節とのずれが大きくなる。従って、スパルタでは、九年おきに十三番目の月を挿入して調整していた。
 アゲシラオスは、これを度外視して、税を搾り取るため、ただそれだけの理由で十三番目の月を無理やり入れた。そして、苛烈に税を取り立てた。
 スパルタの街には、反アゲシラオスの気流が急速に充満し、そして彼が王の叔父ということもあり、王への不満となって爆発した。
「アギス王は約束を破った!」
「我らへの土地の分配の約束は、権力獲得の口実だったのだ!」
 反アギス一派、すなわち、地主たちは、この機を逃さず、テゲアに亡命していたレオニダス二世を、密かにスパルタの都に呼び戻した。
 レオニダスは、王座に復すると、地主たちや民衆と共に決起した。こうなれば、驕慢なアゲシラオスの権力などひとたまりもない。彼はたちまち失脚し、息子ヒッポメイドンの懸命な命乞いにより、辛うじて 助命が認められた。


 アギスは、不幸にも、こんな折に帰国してしまった。栄光の夢冷めやらぬ間に、一転、手の施しようのない窮地に追い詰められていた。
 民衆の心は、完全に王から離れていた。
「人々よ、余の弁明を聞きたまえ」
 が、人々は、王の言葉をもう耳に入れようともしなかった。王の屋敷は、レオニダス一派や、それにけしかけられた民衆で取り囲まれてしまった。
 アギスは、人々の怒りから逃れるため、アテナ・カルキオイコスの神殿に逃げ込んだ。皮肉にも、彼が事実上のクーデターにより権力を奪い、レオニダスを追い詰めた、その聖なる神殿に逃れるよりほかなかったのだ。

裏切り(続き)-序章7


https://www.blogmura.com/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)


 裏切り(続き)
 そうこうしているときに、ペロポネソス全土を揺るがす兵乱が勃発した。
 紀元前241年、北方のマケドニアの王アンティゴノス二世率いる大軍が押し寄せてきたのだ。
「ギリシア世界を制覇し、地中海に覇を唱えん」
 当時のギリシア本土は、決して、単なる一地方にとどまるものではなく、ヘレニズム王朝の三大国、すなわち、アンティゴノス朝マケドニア、プトレマイオス朝エジプト、セレウコス朝シリアが、覇権を争う舞台となっていた。いずれもギリシア系の王朝だからであろう。
 このアンティゴノスに対抗すべく立ち上がったのが、当時、ギリシア世界を主導していたアカイア同盟の指導者アラトスであった。
 彼は、コリントスに同盟国の軍勢を集結させると共に、スパルタで名を上げつつあったアギス四世の許にも援軍の派遣を求めた。
 アギスは大いに喜んだ。
「我がラケダイモンの栄光を取り戻す絶好の機がやってきた」
 彼は、スパルタの若者を組織して軍を編成した。
 若者たちの目も輝いていた。
「もう、俺たちをがんじがらめに縛っていた借金もないのだ」
「国に戻れば土地が与えられるのだ」
 そんな希望に満ちていた。従って、その士気は高く、よく王の命に従い、かつての無敵を誇ったラケダイモン軍の再来の如き、威風堂々たる進軍だった。


 かかる軍勢を率いてやってきたアギス四世は、アラトスより厚く迎えられた。
 軍議の席で、アラトスは、王に問うた。
「ラケダイモンの王よ。敵は、ゲラネイア山脈を越え、このコリントスに攻めよせてくるという。貴殿はどうすべきと思う」
「はい」
 王は、凛とした眉を見せた。
「ここは、ペロポネソスの入り口を扼する要衝。ここに強固な陣を築き、敵が疲れるのを待ち、一挙に撃滅を図るべきかと存じます」
 英明な風をたたえ、堂々とアラトスに意見述べる姿に、人々は大いに感じ入った。
 ために、最終的にアギスの作戦が容れられなかったときも、アラトスはこもごも言葉をかけ、王の尊厳が損なわれないよう配慮したので、アギスの名声はいよいよ高まった。
 そして、マケドニアの大軍も、この諸国の団結を前に侵攻を諦め、退却していった。
 アギス四世は、軍を率いて本国に凱旋した。途中、大勢の人々が歓呼した。
 が、アギスの栄光もここまでであった。

裏切り-序章7

イメージ 1


https://www.blogmura.com/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)


 裏切り 
 政権を全面的に掌握したアギス四世王は、直ちに国政改革に着手した。
 まず、市民を苦しめていた負債から解放すべく、債務帳消しを命じた。
 アゴラ(広場)に借用証書が山と積まれ、これに火が放たれた。
 民衆は狂喜し、逆に、債権者たる富裕者たちは大いに悲しんだ。


「わははは。こんなに明るく、清らかな光は見たことがない」
 そう喜んだのは、アギス王の母方の叔父で、王の同志の一人アゲシラオスである。
 というのも、彼も債務者の一人であり、その借用証書が灰となって消えたからだ。
 彼が王の同志となったのは、実に、このためであった。決して王の志に共感してのものではなかった。
(我が土地を失うのは惜しい。ただ、この負債から免れることができるのならば…)
 こんな心根の者を同志に引き入れたのは、アギス王の痛恨事であった。王の側近は若年の者が多く、その肚を、ついに見抜くことはできなかった。
 ために、アギス王は、アゲシラオスを監督官に就任させ、内政の枢用に当たらせた。


 アギスは、次に、土地改革を断行すべく、新監督官アゲシラオスを呼びつけた。
「いよいよ土地の再分配にとりかかる。ラケダイモンの土地を九千口に分割し、それぞれを市民に分け与える。早速、とりかかれ」
「おそれながら、王様」
 監督官アゲシラオス、忠臣さながらの面構えであった。
「なんじゃ」
「土地の再分配に当たっては、公平を旨とせねばなりますまい」
「勿論じゃ」
「同じ広さであっても、ある者には肥えた農地、ある者には痩せた土地を割り当てては、かえって王の約束の信実が疑われましょう」
「うむ…確かに。では、どうすればよい」
「まずは土地の調査に取り掛かります。その後に、不公平のないよう取り計りたいと存じます」
「よし。直ちに調査に取り掛かれ」
 王は、理想の実現を急いでいた。
 青年は、将来を望み得る時を十分にもつのに、なにゆえか先を急ぐことがある。
 アギスもそうであった。恐らく、初期の大成功が、さらなる大きな栄誉に駆り立てるものであろう。
 ために、王の眼は、叔父の私心欲心を見抜くことができなかった。
 その後、アゲシラオスは、アギス王の矢の如き催促にも、調査が十分に行われていないなど、あれやこれや口実を設け、土地再分配の実施をずるずる遅らせた。

イメージ 1

             ↑
 レオニダス二世の娘婿クレオンブロトスが、義父レオニダスに退位を迫っている様子が描かれています。王のそばには、クレオンブロトスの妻でもある王の娘が悲しげな様子で控えています


https://www.blogmura.com/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)


 アギス王の改革(続き)
 ここで改革が頓挫しては、アギス一派存亡の危機。
 監督官リュサンドロスは、非常手段に打って出た。
「今もなお有効な古来の法によれば、ヘラクレスの子孫は、外国の女に子を産ませることを厳禁し、また、スパルタを捨て外国に移住した者は死刑に処するとある。この法に触れる者がいる」
 ヘラクレスの子孫とは、二つの王家のこと。スパルタの両王家は、神話の英雄ヘラクレスの子孫と称し、支配を正当化していた。
 そして、外国の女に子を産ませ、外国に移住した、いずれにも当てはまるのは、かつてシリアの王家にいて、その太守の娘に子を産ませたことのあるレオニダスを指していることは誰にも明らかだった。
 そう。リュサンドロスは、レオニダスの王位を覆す非常の一手に出たのだ。


 さらに、アギス王は次の一手を打った。
 彼は、レオニダスの娘婿で、王家の血筋を引くクレオンブロトスを説得した。
「君の義父レオニダスは、古来の国制の復活の大義を理解しないばかりか、古来の法に触れる大罪を犯した。君が王位を継ぎ、王家を安泰たらしめるべきである」
 クレオンブロトスも多感な青年で、密かにアギスに共感していた。ために、若き血潮を燃やし、ついに義父を裏切る形になるのも構わず、自らの王位を主張した。
 民衆の支持を背に、アギス一派は、日々その勢力を強めた。
 レオニダス王は、迫る脅威に怯え、アテナ・カルキオイコス(青銅館に住む女神アテナ)の神殿に逃げ込み、命乞いをした。
 これで大勢は決した。レオニダス王は、王位を捨て、隣国のテゲアに亡命した。
 こうしてアギス一派は政権を掌握することに成功した。

全8ページ

[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8]

[ 前のページ | 次のページ ]


.
アバター
Dragon
男性 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

過去の記事一覧

スマートフォンで見る

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

スマートフォン版Yahoo!ブログにアクセス!

Yahoo!からのお知らせ

友だち(3)
  • 時間の流れ
  • ダイエット
  • JAPAN
友だち一覧

よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

CMで話題のふるさと納税サイトさとふる
毎日お礼品ランキング更新中!
2019年のふるさと納税は≪12/31まで≫

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事