新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

序章−ある王国の物語

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アギス王の改革-序章6

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 スパルタの伝説の立法者リュクルゴスが描かれています(中央)。衣装がギリシア風ではなく、なにゆえかローマ風となっています。


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 アギス王の改革 
 王太后の呼びかけもあって、王の志がどこにあるか、次第に明らかとなってきた。
 それは、ある人々に歓喜を与え、ある人々を恐慌に陥れた。前者は貧窮の底に沈む市民たちであり、後者は富裕者や女地主たちである。
 富裕者や女地主たちは、もう一人の王、レオニダス二世の許に駆け込んだ。
 そう。スパルタは、同時に二人の王を戴く特殊な王政をとっていた。
「このままでは、折角手に入れた我らの権利が蹂躙されてしまいます。王様の土地といえども、例外ではありますまい」
 人々の訴えに、レオニダスは焦った。
 というのも、彼は、幼少期をシリアのセレウコス王家で過ごし、宮廷生活の絢爛豪華な贅沢に慣れ、その生活をそのままスパルタに持ち込んでいた人物である。それを奪われるなど耐えられなかったのだ。
(これはまずい。とはいえ、公然と改革に反対すれば民衆の反発を招こう)
 そう考えたレオニダスは、監督官たちを呼び集めた。
「アギス王は口では改革を唱えているが、本当は、余を追放し、そなたら監督官をも追放し、独裁権力を握ろうとしているのだ。それゆえ、貧者どもに土地を分け与えるという好餌をばらまいているのだ」
 監督官の多くも富裕者である。彼らもレオニダスに同調し、アギスの改革を止めようと動き始めた。


 他方、アギスも、反改革の動きを座視してはいなかった。
 翌、紀元前243年。一人の監督官の任期が切れると、後任の監督官に、すかさず同志リュサンドロスを送り込んだ。
 そして、リュサンドロスは、かねて王と示し合わせたとおり、民衆の債務を帳消しにして土地の再分配を行う法案を長老会に提出し、審議に入った。
 が、長老会はすでに富裕者の集まりと化している。当然のことながら、議員の多くが土地所有者であり債権者である。彼らは強硬に反対し、賛成者はアギス四世と法案提出者のリュサンドロスのみという有様となった。
「こうなれば民会を開催しよう」
 リュサンドロスは、監督官の権限で民会を招集した。
 スパルタでは、国政の主要な方針は長老会で決せられ、市民全てが参加できる民会が開催されることは多くなかった。老幼秩序の厳格なスパルタで、長老会の意見に反する結果が出ることがなかったこともあろう。
 しかし、拝金主義の蔓延する当世、そんな秩序は塵芥の如くにうち捨てられている。むしろ、市民の多くは、長老たちの貪欲を憎んでいたから、民会の招集を喜んだ。


 民会では激論が交わされた。
 まず、アギスの同志マンドロクレイデスが立ち上がった。
「我がラケダイモンが、かつてギリシアの覇座にあったのはなぜか。それは、古来の法をよく遵守し、貪欲を戒め、清貧を保ち、愛国の精神を養ってきたがため。しかるに…」
 彼は、人々を睨め回した。
「今では、愛国に代わり、金銭を愛し、土地を愛し、財を愛することが取って代わっておる。これこそ、ラケダイモン衰退の最大の原因。今こそ、古来の法を取り戻し、市民に土地を分け与え、債務のくびきから解き放ち、愛国の心を取り戻すべきなのだ」
 市民から大きな拍手が巻き起こった。
 民衆の心を大きく動かしたと見たアギス王は、すかさず自身進み出た。
「もし、この法案が成れば、私がまず自らの土地を拠出しよう。財貨も惜しむまい。それで、ラケダイモンの栄光が購えるならば」
 王の申し出に人々は驚嘆した。
 次の瞬間、つんざくような歓声を上がり、人々は賛意と敬意を表した。
「アギス王万歳!」「あなた様こそ、我らが王!」
 このまま圧倒的多数で可決かと思われた。
 が、レオニダス派も黙ってはいない。彼らには、なんといっても財貨がある。また、有力者の多くが味方なのである。
「アギス王は、債務の帳消しなど古来の法と関わりのないことを行おうとしている」
 相手が王だろうと、この際関係ない。激しく攻撃し、長老たちはその権威をもって民衆を威嚇し、富裕者は金をばらまき、猛烈な巻き返しに出た。
 ために、リュサンドロスの法案は、僅か一票差で否決されてしまった。


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 スパルタ王アギス四世(さらに続き)
「よし、次は我が王家を固めなければ」
 アギス四世王は、母である王太后アゲシストラタの許に向かった。
 というのも、王太后は、スパルタ最大の資産家であって、彼女の協力なしには土地の再分配という大改革を断行することは不可能だったからだ。そう。王の身内に、最大の富裕者がいたのだ。
 王から、はじめてその志を聞いた母アゲシストラタは驚愕した。
「そのようなこと無謀です。あなたは、必ずや反対者に取り囲まれ、その陰謀により悲惨な末路を迎えることとなりましょう。これは、決して財産を惜しんで申しているのではありません」
 母は、王の行く末を案じ、極力反対した。
「王様はまだお若い。だから、理想に燃え、血気に逸ったことをお考えになるのです。ここは十分自重なさるべきです」
 アギス王、この時十九歳。
 青年は、往々、自身の無限の可能性をそのまま実現できると思いがちである。が、理想の一端の実現すらいかに困難か、人は人生半ばで思い知る。
 母は、それを慮ったのだ。


「母上」
 青年の王は、私心のない澄んだ瞳で真っすぐ母を見た。
「我ら王族といえども、その有する財産や土地は、マケドニアやエジプト、シリアの王などに比べれば知れたものです。その重臣の財産にも及びますまい。されど…」
 王は語気を強めた。
「慎み深い節制と、正義に満ちた気概を有し、正々堂々振る舞えば、諸王の威信を遥かに凌ぐこともかないましょう。ラケダイモンの名を轟かせるその栄誉を考えれば、なんの、私一人の命を惜しみましょうや」
 母は息子の一途な眼差しをじっと見詰めていたが、やがて、うなずいた。
「分かりました。そこまでの覚悟ならば」
「おお、母上、ありがとうございます!」
 王は喜んだ。
「お待ちなさい」
「は。何か」
「財産を有するのは、私だけではありませぬ。ラケダイモンの女の少なからぬ者どもが、土地を所有しております。これらの者の協力を取り付けねばなりますまい。わたくしから呼びかけましょう」
 スパルタの女性は、他のギリシア諸国が女性の権利を認めなかったのと違い、市民としての権利を数々認められていた。従って、夫や息子より贈与を受けたり、はたまた自ら購入したりして、広大な土地を所有する者もいたのだ。
「母上、感謝いたします。このとおり…」
 誠実な王は、暖かな思いやりに溢れた母の決断に、目に熱いものをたたえた。
 アゲシストラタの呼びかけにより、多くの女性が王の志に賛成したのであった。
 が、少なからぬ女地主たちが反発した。
 そして、これに端を発し、スパルタ国中が大騒ぎとなっていった。


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 スパルタ王アギス四世(続き)
 ある年、スパルタの監督官に、エピタデウスという人物が就任した。監督官(エフォロス)は、平時においては、王をも凌ぐ内政の権力を握る実力者である。
 このエピタデウスは、自分の息子とたいそう不和であった。
(あんな息子に土地や財産を残したくない。どうすればよいか…)
 とはいえ、土地の売買はご法度。このままでは息子に譲るしかない。
 彼は考えた。
(そうだ!土地の売買や遺贈を禁止する法律を改めればよいのだ)
 こんな私的動機で法に手を加えようとは、とんだ不心得者であるが、彼は、早速に長老会(ゲルーシア)に法案を提出した。その内容は、土地売買を解禁し、生前に贈与することを認めるものであった。
 リュクルゴス以来の法を改変するのだ。国家の根本を変えるに等しい。かつてのスパルタ貴族ならば、口にするだけで、反逆の徒として断罪されたに違いなかった。
 しかし、長い衰退の時代を経て、スパルタ貴族たちは次第に贅沢に蝕まれていた。リュクルゴスが禁じた金銀の流通も緩められ、既に、貧富の格差が生じていた。金持ちにとっては、土地取得が自由になれば一層富を蓄積することが容易となる。そして、長老会を支配するのは、いつの間にか、そういう富裕者たちになっていた。
 エピタデウスは、それを十分に承知し、法案の通過を見込んでいたのだ。
 案の定、法案は、圧倒的多数の賛成により可決された。
 この新しい法律により、有力者は、国中の土地を買い漁り始めた。借金を抱えている貴族たちから、金に飽かせて買い集めたのだ。それほど困っていなくとも、目先の利益に目が眩み、先祖伝来の土地を売り払う者も大勢いた。
 こうして、スパルタは、少数の地主たちが支配する国に変じてしまった。そして、大多数の貧者の群れが国を暗く覆った。
 かつての鉄の規律は、スパルタから失われた。



 これに心を痛める者がいた。王子アギスであった。
 彼は、人々の幸せを顧みない富裕者たちの乱脈に憤慨した。
「古来の法を復活させ、よき国に戻さなければならない」
 王は、土地の再分配と、リュクルゴス以来の国制の復活を企図した。
 しかし、彼は、その志を公言しなかった。国政の実権を握っているのは、地主たち。彼らを敵に回せば、王位すら危ういからである。
 紀元前244年、彼は即位し、アギス四世となった。
 王は、まず志を同じくする貴族を仲間に引き入れた。
 一人はリュサンドロス。彼の先祖は、ペロポネソス戦争末期に行われた海戦に大勝利をおさめ、アテネを無条件降伏に追い込んだ、スパルタ艦隊司令官リュサンドロスである。
 その他に、知略に優れた若い貴族マンドロクレイデス、母方の叔父で雄弁家のアゲシラオス。アゲシラオスの子で武勇優れたヒッポメイドン。


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 スパルタ王アギス四世 
 この時代、スパルタ(ラケダイモン)は、なお独立を維持していたが、かつて地中海に覇を唱え、勢い盛んだった頃の面影は、とうに失われていた。
 歴代の王は、国威を取り戻すべく奮闘した。
 マンティネイアの戦後、国王となったアルキダモス三世は武勇優れた人物であった。彼は、よく国をまとめ、国力を回復させた。
 その頃、タレントゥム(ターラント)から救援の要請があった。
 タレントゥムは、その昔、スパルタ人が入植して建設した都市である。そのタレントゥムが、近隣の山岳部族との戦いで窮地に追い詰められていた。
「よろしい。直ちに援軍に向かおう」
 紀元前338年、アルキダモス王は、軍を率いイタリア半島に遠征した。
 彼の指揮するスパルタ軍は強く連戦連勝であった。
 が、南部の都市マンドゥリアでの戦いで不覚を取り、彼は戦死してしまった。
 このときにアルキダモスを失ったのは、スパルタにとって不幸であった。
 というのも、その直後、フィリッポス二世率いるマケドニア軍がテバイ・アテネ連合軍を粉砕し、ペロポネソス半島に進撃してきたからだ。
 アルキダモスを失ったスパルタに、フィリッポス率いる精強なマケドニア軍に抗する力はなかった。ために、フィリッポスがコリントスを占領し、諸国の代表の前でギリシアの覇者を宣言するのを黙って見ているほかなかった。
 ただ、スパルタのみは代表を送らず、服従しなかった。このことが、辛うじてラケダイモンびとの意地を示したものといえようか。



 その後、スパルタは衰微の一途をたどった。
 スパルタの街には、その昔世界最強を誇った戦士の面影なく、自信を失った人々の群れが残った。いや、その身なりもみすぼらしくなっていた。かつては、決して華美ではなかったが、清らかな姿であったものを。
 そう。スパルタの人々に貧困が襲いかかったのだ。それも、貴族として敬われる家々が没落していったのだ。
 元来、スパルタの貴族には、国家より土地が分け与えられていた。それは贅沢に足るものではなかったが、清貧にスパルティアタイ(スパルタ貴族)として生き抜いていくには充分であった。そして、土地の売買は厳しく禁じられた。
 これは、伝説の立法者リュクルゴスが定めた法である。この法のお陰で、貴族間に貧富の格差は生じず、よく平等が保たれ、鉄の団結が維持されてきた。そして、愛国心が強く醸成され、敵に勇敢に立ち向かうことができたのである。
 ところが、この土地所有の制度が大きく改変されてしまった。ために土地を失った家が没落していったのだ。
 それは、こういう事情による。

朝食(続き)-序章4


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 朝食(続き)
「あと記録が残っているとすれば、ラケダイモンぐらいしか…」
 執事が何かを辿るような顔つきでいった。
「ラケダイモン…スパルタのことか?」
「はい。ルキウス公は、ラケダイモンにて開催された剣闘技大会で、名だたる剣豪と戦い優勝なされたと伝わっております。ラケダイモンもアテネに劣らぬ由緒正しき国家。また、ここも破壊を経験しておりませぬ。記録が残っておりましょう」
 その言葉を聞くと、少年の瞳は再び輝き始めた。
「そうか!では…」
「ラケダイモンに行く、と仰せになるつもりではありますまいな」
 アッティクスは眉間に皺を寄せた。
「そうだ。さすがアッティクス。お見通しだな。すぐに支度いたせ」
 少年はもう立ちあがっていた。
「なりませぬ」
「なぜだ」
「御曹司は、これから、このアテネで、アカデメイアで学ぶのでございます」
「そのようなもの延期だ。なに、ラケダイモンとて地の果てにあるわけではあるまい。急ぎ駆けて参り、見て聞いて知れば、それでよいのだ。それから、アカデメイアで懸命に学問に励む。父上には言い訳がたとう」
「なりませぬ」
「なんだ、アッティクス。堅苦しいことを申すな」
「いえ、学問が遅れるという理由だけで反対しているのではありませぬ。今、ラケダイモンに赴くのは危険なのでございます」
「どういうわけだ」
「こういうことでございます」
 アッティクスは、ラケダイモンのある王の物語を、滔々とつむぎ始めた。
 読者の方々も、しばらく、この国の話に付き合ってもらいたい。

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