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スパルタの伝説の立法者リュクルゴスが描かれています(中央)。衣装がギリシア風ではなく、なにゆえかローマ風となっています。
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アギス王の改革
王太后の呼びかけもあって、王の志がどこにあるか、次第に明らかとなってきた。
それは、ある人々に歓喜を与え、ある人々を恐慌に陥れた。前者は貧窮の底に沈む市民たちであり、後者は富裕者や女地主たちである。
富裕者や女地主たちは、もう一人の王、レオニダス二世の許に駆け込んだ。
そう。スパルタは、同時に二人の王を戴く特殊な王政をとっていた。
「このままでは、折角手に入れた我らの権利が蹂躙されてしまいます。王様の土地といえども、例外ではありますまい」
人々の訴えに、レオニダスは焦った。
というのも、彼は、幼少期をシリアのセレウコス王家で過ごし、宮廷生活の絢爛豪華な贅沢に慣れ、その生活をそのままスパルタに持ち込んでいた人物である。それを奪われるなど耐えられなかったのだ。
(これはまずい。とはいえ、公然と改革に反対すれば民衆の反発を招こう)
そう考えたレオニダスは、監督官たちを呼び集めた。
「アギス王は口では改革を唱えているが、本当は、余を追放し、そなたら監督官をも追放し、独裁権力を握ろうとしているのだ。それゆえ、貧者どもに土地を分け与えるという好餌をばらまいているのだ」
監督官の多くも富裕者である。彼らもレオニダスに同調し、アギスの改革を止めようと動き始めた。
他方、アギスも、反改革の動きを座視してはいなかった。
翌、紀元前243年。一人の監督官の任期が切れると、後任の監督官に、すかさず同志リュサンドロスを送り込んだ。
そして、リュサンドロスは、かねて王と示し合わせたとおり、民衆の債務を帳消しにして土地の再分配を行う法案を長老会に提出し、審議に入った。
が、長老会はすでに富裕者の集まりと化している。当然のことながら、議員の多くが土地所有者であり債権者である。彼らは強硬に反対し、賛成者はアギス四世と法案提出者のリュサンドロスのみという有様となった。
「こうなれば民会を開催しよう」
リュサンドロスは、監督官の権限で民会を招集した。
スパルタでは、国政の主要な方針は長老会で決せられ、市民全てが参加できる民会が開催されることは多くなかった。老幼秩序の厳格なスパルタで、長老会の意見に反する結果が出ることがなかったこともあろう。
しかし、拝金主義の蔓延する当世、そんな秩序は塵芥の如くにうち捨てられている。むしろ、市民の多くは、長老たちの貪欲を憎んでいたから、民会の招集を喜んだ。
民会では激論が交わされた。
まず、アギスの同志マンドロクレイデスが立ち上がった。
「我がラケダイモンが、かつてギリシアの覇座にあったのはなぜか。それは、古来の法をよく遵守し、貪欲を戒め、清貧を保ち、愛国の精神を養ってきたがため。しかるに…」
彼は、人々を睨め回した。
「今では、愛国に代わり、金銭を愛し、土地を愛し、財を愛することが取って代わっておる。これこそ、ラケダイモン衰退の最大の原因。今こそ、古来の法を取り戻し、市民に土地を分け与え、債務のくびきから解き放ち、愛国の心を取り戻すべきなのだ」
市民から大きな拍手が巻き起こった。
民衆の心を大きく動かしたと見たアギス王は、すかさず自身進み出た。
「もし、この法案が成れば、私がまず自らの土地を拠出しよう。財貨も惜しむまい。それで、ラケダイモンの栄光が購えるならば」
王の申し出に人々は驚嘆した。
次の瞬間、つんざくような歓声を上がり、人々は賛意と敬意を表した。
「アギス王万歳!」「あなた様こそ、我らが王!」
このまま圧倒的多数で可決かと思われた。
が、レオニダス派も黙ってはいない。彼らには、なんといっても財貨がある。また、有力者の多くが味方なのである。
「アギス王は、債務の帳消しなど古来の法と関わりのないことを行おうとしている」
相手が王だろうと、この際関係ない。激しく攻撃し、長老たちはその権威をもって民衆を威嚇し、富裕者は金をばらまき、猛烈な巻き返しに出た。
ために、リュサンドロスの法案は、僅か一票差で否決されてしまった。
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