新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第1章アカイアの章

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 言葉の力(続き)
 プブリウスはアッティクスの待つ馬車に戻ってきた。
 執事は、なぜかにやにやしている。
「御曹司もなかなかやりますなあ」
「お前、見ていたのか」
「いえ、しっかり聞いておりましたもので」
 どうやら、アッティクス、こっそりついていき、聞き耳を立てていたらしい。
「油断ならぬやつだな」
「いえ、たいそう感心したのでございます。人を励ます、それも世を儚む女性を励ますことは立派な男子の行いにございますゆえ」
 アッティクス、しみじみといった。彼にも、そのような経験があったのであろう。


「おう、それで思い出したわ」
「なにを、でございます」
「先ほどのお前の問いに対する答えじゃ。今が、いかなるときか」
「あ」
「王に親しくお会いするとき。そして、励ましの言葉をかける機会だ」
 プブリウスは、名家の子弟として厳しく躾けられていたせいか、思考や言葉遣いが早くも老成しているところがあった。
「御曹司、励ますとは…。王は遥かに年長ですぞ」
 その躾けた当の執事であったが、苦笑を禁じえなかった。
「この際、老幼云々は関係ない。人は、力ある言葉を得れば、ときに何倍もの力を発揮する。父上がおっしゃっていた。私は、王に力を与えたいのだ」
 少年は大真面目であった。
 そう。人は、ある一言により、ときに無上の勇気を、無上の幸福を得ることがある。だからこそ、人は、貧しくとも、茨の道に耐え、歩んでいくことができるのだ。


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 言葉の力 
 スパルタの街が、決戦に備え、人も自然も騒がしくなっていた折、二人の主従を乗せた馬車が入ってきた。
プブリウスとアッティクスの二人だ。
「なにやら慌しいのう」
「左様ですな。先に、アルカディアから撤退し、来る決戦に備えているものでしょう。が、御曹司」
「なんだ」
「こんな折に訪れてよいものでしょうか」
「良いも悪いも、今を逃すと、そのときがなくなるやも知れぬ」
「そのとき、とは?」
 二人を乗せた馬車は、丁度、エウロータス川に架かる橋の上にかかっていた。
 プブリウス少年は、何かが目に入ったのか、アッティクスの問いには答えず
「ちょっと待て」といった。
「え?」
 突然、プブリウス少年は馬車から飛び降りた。
「御曹司、どこに行かれるのですか」
「アッティクス、少し待っておれ!」
 少年は駆け出していった。


 エウロータスの岸辺におりていくと、少女が一人、ぽつんと座っていた。
「はあ」
 ため息ばかりつき、空の流れる雲を眺めている。
 プブリウスは、にやとすると、足音を殺してそろりと近寄った。そして…
「わっ!」
「きゃっ」
 少女は驚き、振り返った。
「あっ、あなたは…確か、プブリウス様」
「お久しゅうございます。プロアウガ様」
 少女の名はプロアウガ。クレオメネスの娘である。
 息子は、母クラテシクレイアと共にアレクサンドリアにて人質となっていたが、彼女は娘ということもあって、王のそばで過ごすことが許されていた。
「どうしたのです。そのように暗い顔をなされて」
 プブリウスは傍に腰を下ろし、少女の顔を覗き込んだ。
「それは…父上様が、いえ、この故郷がかつてない大敵を迎えているからに決まっています。父やラケダイモンの人々の上にどのような災厄が降りかかるのかと思うと…」
 少女は、可憐な瞳に、清らかなしずくをいっぱいにした。
 プブリウスは、その彼女の手を取り、ぐっと握った。
 プロアウガは、どきとした。
「心配要りませぬ」
「どうしてそのように言えるのです」
「私は知っています」
「なにを?」
「御父上がいかに勇敢で、いかに知恵があるかということを。いえ、御父上だけでなく、弟君のエウクレイデス様も、御家来衆のエウリュクレイダス様もひとかどの勇者であることを。こたびのことも、確かな見通しあってのことに違いありませぬ」
 プブリウスは語気を強めた。
「でも…」
「その偉大な王の姫であるあなた様が父上を信じてやらねば、誰が信じてやるというのです。大丈夫。王は必ず勝ちます。王は必ず道を開いてくれることでしょう」
 プロアウガは、熱心に語りかけるプブリウスの目をまっすぐに見ていた。
 その思いは伝わったと見え、次第に、少女の頬に血の気がさしてきた。
「プブリウス様、ありがとう。なんだか、力をいただいたような気がする…」
 少女の笑みを目にすると、プブリウスは力強く頷いた。
「それでよいのです。あなたのような美しいお方は笑っていないと。でないと男どもは力が湧いてこないのです。よろしいですかな、ハハハ」
 プブリウス、あたかも壮年の男の如き言葉を吐いた。


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 セラシアの要害
「おおお!」
 アンティゴネイアの城壁の上で、スパルタ軍の様子を窺っていたメガレアスが叫んだ。
「どうなされた、メガレアス殿」
「フィロポイメン殿、敵の松明が俄かに増えてきましたぞ」
 あとからあとから松明の行列が続き、その無数の松明が城を取り巻き、その輪を縮めてくる。
「これは…夜襲をかけるつもりか」
 フィロポイメンも一驚した。彼は駆け出すや、叫びまわった。
「全員起きろ!敵襲だ!直ちに戦闘態勢をとれっ!」
 たちまち兵が飛び出し、ずらりと城壁に並んだ。
 アンティゴネイアの城は緊迫した。
 が、それから時が過ぎても、松明の大群は城壁に迫ってこなかった。


「いくらなんでも、これはおかしいぞ」
 重くなるまぶたと格闘していたフィロポイメン、さすがにいぶかしんだ。
「これ!誰か!」
「はっ」
「物見を城外に出して調べさせよ」
「ははっ」
 その物見はすぐに帰ってきた。
「敵陣には人っ子一人おりませぬ。既に退却した後のようにございます」
「な、なんだと」
「松明を、打ち込んだ杭の上に置いてあるのみでございました」
「しまった!図られた!」
 フィロポイメンは一声叫ぶと、駆け出した。


「…そうか。クレオメネスは退却したか」
 アンティゴノスは、ほっと安堵の息をついた。
 彼は、ここ数日、城の奥にあって泰然自若を諸将に見せてはいたが、城全体を包むスパルタ兵の雄叫びに、幾度も最期を覚悟していた。
「陛下。クレオメネスは、我らの味方が背後から近付くのを知り、退却したに違いありませぬ。追撃をかけるべきにございます」
 フィロポイメンは進言した。
「いや」
 アンティゴノスは首を振った。
「クレオメネスの軍は兵糧尽きたに違いない。ならば、本国まで退却するであろう。我らは焦る必要はない。ここにて諸軍を集め、大軍をもって堂々南下する」
 アンティゴノス三世は、この一連の戦いで、クレオメネスの恐ろしさを嫌というほどに味わった。
(恐ろしい男よ…。万全の戦備を整えてから攻め下らねば足をすくわれる)
 兜の緒をしっかりと締め、腹をくくってかからねば、と気合を入れなおした。
 やがて、アンティゴネイアの城には、アラトス率いるアカイア同盟軍が、アペルラス率いるマケドニア軍が到着し、城兵の歓呼に迎えられた。さらに、アンティゴノスの大動員の号令に応え、諸国からマケドニアに加勢するため続々兵が集まってきた。
 ために、アンティゴネイアの城は兵で溢れかえり、諸国の軍勢は城外に野営した。


 クレオメネス率いる軍勢は、既にスパルタ本国に退却していた。
 彼の素早い決断により、難しい退却にあって兵を一人も失うことはなかった。
「…そうか。アンティゴネイアに大軍勢が集結しておるか」
「はい。総勢六万とも。アルカディアはマケドニアにより平定されたといってよろしゅうございましょう」
 エウリュクレイダスはいった。
 が、そんなことは覚悟の上。
「次の戦場をどこにすべきか。エウリュクレイダス、考えはあるか」
「はい、ございます。が、王にも、退却を決断した折から、お考えがあろうかと推察いたしますが」
「ふふ。勿論ある。が、そなたの考えと一緒がどうか、だ」
「セラシア、しかありますまい」
「やはりそうか」
 王は笑った。
 セラシア。
 スパルタの北十キロほどにある要害の街。当初は独立国であったが、時代が下るにつれスパルタの属国となり、この時代には完全にスパルタ領の一都市に過ぎなかった。
「我らは寡勢。要害に拠って戦うのが一番にございます」
「うむ。アルカディアは天険とはいえ、四方に道開かれた土地。大軍を擁する側に有利であった。が、ここならば一本道。背後から襲われる恐れもない」
 クレオメネスは、地の利を考慮し、あえて首都の近くに戦場を選ぶ決断をしたようであった。これが吉と出るか凶と出るか、この時、誰も知るところではなかった。
「では、早速、峠に強固な砦を構築しましょう」
「うむ。頼む」
 紀元前222年夏。
 豊かな緑が次第にスパルタの街を覆う季節。スパルタ軍は再び動き出した。
 エウリュクレイダス率いる兵は、セラシア近くの丘に柵を構築し、マケドニアの大軍の来襲に備えたのであった。



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 猛攻アンティゴネイア城(続き)
「そこにあるはフィロポイメンではないか!」
 城壁の下にあって呼ばわる将があった。フォイビスだ。
 メッセネで開かれた、メガロポリス人の亡命者の会議に臨席した際に、二人は顔を見知っている。
「いかにもフィロポイメンだ。俺に何の用だ」
「国を売り、民族を売り、あまつさえ蛮族に身を投じ敵対するとは何事。過ちに気づいたのならば、直ちに降伏いたし、アンティゴノスの身柄を引き渡すがよい。ならば命だけは助けて取らそうぞ」
「わははは」
「なにがおかしい!」
「クレオメネスの目的とするところは、ギリシアの解放ではない。ギリシア人の支配だ。我ら、進んで隷属に歩む家畜ではない。汝ら家畜には分かるまいがのう。はは」
 当時、クレオメネスに反対する一派の中には、彼を独裁者と忌み嫌う人々がいた。このフィロポイメンもそうである。
 確かに、クレオメネスは、監督官体制を武力で打倒して政権を掌握し、半ば独裁的権力をふるって革命を成就しているから、あながち間違いではない。
 が、クレオメネスにも言い分はあったであろう。
「おのれ…」
 フォイビスは怒った。
 ただ、彼には、革命の理念を説く力量はなかった。ために、その憤激を攻撃にぶつけるしかなかった。
「者ども!あの乱賊を討ち取れ!」
 激戦は終日続いた。
 が、フィロポイメンの奮闘もあり、アンティゴネイアの城は何とか持ちこたえた。


「なにっ!糧食が底を尽きつつあると!」
 クレオメネスは目を剥いた。
「はい。先にアルカディア全土を転戦し、そして、こたびのアンティゴノスの主力との戦いと続き、あっという間に食い尽くしましてございます」
「むむむ」
 クレオメネスは唸った。
 ここにきて、アンティゴノスの消耗戦の策がじわりと効き始めていた。大国エジプトの援助があるとはいえ、エジプトは遠方であり、急な補給は効かない。長期戦となれば、近くに豊かな本国があり、アカイア諸国からも補給を得ることのできる、マケドニアが断然有利であった。


 そこに、さらにクレオメネスにとって悪い知らせが飛び込んできた。
「メガロポリス方面に攻め込んだパンテウス殿の軍勢がアラトス率いるアカイア軍に打ち破られ、敗走しております」
 パンテウス率いる軍は、パランティオン付近でフィロポイメンの軍を打ち破ると、そのまま西進し、諸国に威をふるっていた。
 が、先にオルコメノス付近でエウリュクレイダスに敗れたアラトスが兵を集め、勢いを盛り返してメガロポリス付近に押し寄せてくると、一転激戦となり、パンテウス軍はついに打ち破られたものであった。
「して、アラトスは」
「はい。そのまま敗走する我が軍を追撃し、パランティオンに迫っています」
「むむっ」
 が、それだけではなかった。
「王よ!大変です!」
「どうした」
「アペルラス率いる二万余の軍勢がこちらに迫っております」
「なんだと!」
 アペルラスは、山中でアンティゴノスとはぐれると、なんとかアルゴスまで戻り、そこに集結していた敗軍をまとめ、再び押し寄せてきたものであった。


 乏しくなる兵糧。周囲から迫る無数の強敵。
 幕舎の中は咳一つなかった。青白い顔のみが、灯火の中に並んでいた。
 いや、記録官ソシュロスの、王の言行と臣下のやり取りを書き留める、そのさらさらという音だけがあった。
「王よ、いかがなされます」
 エウリュクレイダスが訊いた。
「ふーむ」
 クレオメネスは考え込んだ。
 急迫する事態に、彼は、決して冷静さを失っていない。
(まさしく重大な戦機の分かれめ。他日を期し本国に退却するか、捨て身になってアンティゴネイアを攻め一挙に事を成し遂げるか…)
 灯火が、隙間風に煽られ、じじと音を立てた。
 クレオメネスは笑みを浮かべた。
「余は決断した。皆の者、聞くがよい」
 間もなく、スパルタの陣は慌しく動きだした。


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 猛攻アンティゴネイア城 
「遮二無二攻めよ!」
「アンティゴノスさえ討ち取れば全て決する!」
 クレオメネスは、アンティゴノスが逃げ込んだ、新造なったばかりの城アンティゴネイアを猛烈に攻め立てた。かつてのマンティネイアの城とは違い、あくまでも植民目的に築造されたこともあり、それほど堅固な造りではなかった。
 ために、スパルタ軍の猛攻に、アンティゴネイアはたちまち陥落寸前となった。
「城壁を登らせるな!」「石を落とせ!」
 メガレアスはじめマケドニア兵は、必死に防戦した。
 が、スパルタ兵の雄叫びが城全体を包み込み、城壁を揺るがすほどだ。


 元来文官のメガレアスも、今はと必死に矢を放っていた。
 が、奮闘の甲斐なく、味方の将兵は次々倒れ、城壁登るスパルタ兵の喚声がみるみる迫り来る。
 既に、放つべき矢も底を尽いた。
(こ、ここまでか)
「こうなったら、斬って斬って斬りまくり、マケドニア貴族として恥ずかしくない最期を遂げて見せようぞ」
 覚悟を決め、真新しい剣を抜いた。
 その彼の肩をぐっと掴む者がいた。
「待たれよ」
「誰だっ!」
 振り返ると、長身の男が立っていた。
「メガロポリスの将フィロポイメン」
「おおっ」
「メガレアス殿、短慮はなりませぬ」
「とは申せ…この有様では、もはや」
 フィロポイメンは首を振った。
「各地に散った味方はすぐそこにあるに違いないのです。この猛攻さえしのぎきれば、一気に形勢が逆転するのです」
 そういうや、彼が城兵の指揮をとり始めた。
「皆の者!味方はすぐそこまで来ておる!あともう少し踏ん張れ!ならば神のご加護も間違いなかろうぞ!」
 朗々とした大音声が響くと、戦意萎えかけていたマケドニア兵に生気が甦ってきた。


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