新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第1章アカイアの章

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 報い(さらに続き)
 裏切り者ダモテレス、未だに己の運命を自覚していなかった。
 昨日の戦勝の最大の功労者と自負し、明日のマケドニア宮廷での栄華を思い浮かべていた彼。それが今日、急転直下、王国の罪人として処断されようとしている。
 彼の皮膚は、ようやく生命の危機を知覚し始めていた。
「そんな馬鹿な!」
 ダモテレスは叫んだ。
「貴殿の手紙が私の手元にある!そうだ!陛下、それが証拠です!そこには、陛下が、戦後ラケダイモン領を拙者にお任せあるとも記載があります!それをご覧いただければ…」
「そんなものはない」
「え」
そんなものはとうに処分したわ・・・・・・・・・・・・・・
「な、なんと」
「貴様の如き外道に、この大事なラケダイモンの地を任せられるはずがなかろう」
 アンティゴノスは、ダモテレスの部下を買収し、アラトスが先にダモテレスに渡していた密書を取り戻すと、すぐに火にかけ、この世から消し去っていた。


「だ、騙したな!」
 ようやく全てを理解したダモテレス、血を吐くが如く叫んだ。
「ほざくな」
 アンティゴノス、失笑した。
「主君を裏切り、国家を裏切り、故郷の人々を裏切ったのだ。そのような人間への報いは一つに決まっておる。のうアラトス殿」
「はい。死をもって償うべきかと存じます」
 アラトス、平然と言った。
「おのれアラトス!よくも図りおったな!」
 ダモテレス、思わずアラトスの方に体を動かしたが、衛兵が縄尻をがっしと掴んでいるので、もがくばかりであった。
 王は立ち上がって処分を言い渡した。
「それ!この者を磔に架けよ!道に外れた者の報いはこうぞと世の見せしめにいたせ!」
「ははっ」
 衛兵は縄尻をぐいと引き、ダモテレスの体を引っ立てた。
「ま、待て!待ってくれっ!」
「ええい!見苦しい!立て!」
 ダモテレスは、引きずられながらも、なおも命乞いの哀願を繰り返していたが、アンティゴノスは、無表情に見送るばかりであった。
 その日の夕刻、ダモテレスは、アゴラにおいて磔に架けられた。祖国を裏切った彼を憎悪する、民衆の呪いの言葉を浴びながら。


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 報い(続き)
 翌朝、マケドニアの大軍はエウロータス川を渡り、スパルタの街に堂々入ってきた。
 先頭に立つは、勿論、マケドニア国王アンティゴノス三世。その左右には、アラトスとフィロポイメンが従っていた。
「アラトス殿」
「は。何でございましょう」
「今日、この街を目にするのが何か不思議な心地がするの」
「左様でございますな。昨日のあの激戦を思えば」
 アラトスが頷くと、フィロポイメンも感に堪えたように
「まことにございますな」と応じた。
 セラシアの戦いは、最終盤までスパルタ優勢で推移し、土壇場でひっくり返ったに過ぎない。勝利の凱歌がクレオメネスの頭上に轟いても、ちっともおかしくなかった。
「それが戦なのやも知れんな。大軍に驕って勝利を確信し、その目論見がもろくも崩れ、敗北を、死を覚悟した直後に勝利を手にする。…不思議なものよ」
 アンティゴノス、しみじみいった。
 マケドニアの大軍は、死んだように静まり返ったスパルタ市街へ進んでいった。


 アンティゴノスはアクロポリスに入ると、スパルタの長老たちを呼びつけた。
 長老たちは急ぎやってきた。
どれも蒼白い顔を抱えていた。無理もない。スパルタは、マケドニアを向こうに回して最後の最後まで戦い、アンティゴノス最大の敵国であり続けたのだ。それが一夜にして敗戦国となったのだ。
(クレオメネスは過酷に報いることはないと申していたが、どうなることやら…)
 戦々恐々の彼らの前に現れたアンティゴノスは、果たして、すこぶる機嫌がよかった。
「よくぞ参られた」
 長老たちが、今後は、マケドニア国家を上に戴き臣従する旨言上すると、
「余は、ラケダイモンの帰服を心より歓迎する。人々は何も案ずることはない。王家に連なる人々も罪に問わぬ。ラケダイモン伝来の法も変えることはないぞ」といった。
 その言葉は、かつてのアンティゴノスとはおよそ違っていた。
 テゲアにおいても寛大な態度は見せていたが、あれはあくまでもスパルタ攻略のために背後に憂いを残さないためであった。が、彼は、ここで真実寛容を見せていた。現に、彼は、勝利軍として入城したときに兵に許している略奪を、今回は厳禁していた。
 勿論、宿敵クレオネスの追跡に兵を派していたが、およそ千騎の騎兵隊を送ったに過ぎず、もう彼を重大視していないことを示していた。


 彼は、ここで、自軍の将卒に対する賞罰を行った。
 粉骨砕身戦い抜いたフィロポイメンを激賞し、今回の遠征で参謀格として従ったアラトスにも重く報いた。ファロスのデメトリオス、アペルラスやメガレアスにも恩賞が与えられ、王の身を守った兵卒たちにもそれぞれ賞が与えられた。
 が、ある人物には、厳罰が与えられた。
 一人の男が縄をかけられ王の前に連れて来られた。
「どういうことだ!この扱いは一体なんとしたことだ!」
 喚きながらやってくる。スパルタ憲兵隊司令官ダモテレスである。
 彼は、王の前に引き据えられた。
「陛下!これは一体いかなることでございます!」
 王は冷ややかな笑みを浮かべた。
「人の道にもとる行いをした者を処断するため呼びつけた。それ以外何の用があろうや」
「な、なんと!」
 ダモテレスは愕然とした。
「それではお約束が違いまする!拙者はそこにおられるアラトス殿の使者と語らい、陛下の御為、力を尽くしたのでございます!」
「ほう」
 アンティゴノス、あたかも初耳かの如き顔をアラトスに向けた。
「アラトス殿。あのようなことを申しておるが、まことか?」
「滅相もございませぬ。わたくしは、いやしくもアカイア同盟のストラテゴスにございます。このような外道と知己であるはずがありませぬ」
 アラトス、冷ややかに言い放った。
 その言葉に、ダモテレスは我が耳と目を疑った。


報い-アカイアの章49


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 報い 
 スパルタの都に逃げ戻ったクレオメネスは、まっすぐ政庁に向かった。
 政庁に入ると、すぐに長老たちを集めた。
「我が徳至らず、このような無様な結果とあいなった。まことに済まぬこと」
 王は率直に詫びた。
 が、詫びるだけではすまない。明日にもマケドニアの大軍がスパルタの街に攻め込んでくるのは明らかだったからだ。
「この上は、マケドニアに服するよりほかなし。人々は、アンティゴノスを迎え、今後はマケドニア王国を上に立てるがよい。ならば、アンティゴノスも過酷に報いることはあるまい」
「王様はいかがなされますので」
「余はアンティゴノスにとって憎い敵。国にとどまっては、ラケダイモンに災厄が降りかかろう。国外に逃れるつもりだ。そして、もし時が恵めば、帰国することもあろう」
 王は、その後も、こまごま今後のことを言い含め託した。


 王は自分の屋敷に戻った。そこには、王の身を案じる人々が待ち構えていた。
「父上様」
 娘のプロアウガが泣きそうな顔で父の体にとりすがった。
 そう。母と息子がアレクサンドリアで人質となっていたため、この娘が彼の手許にある唯一の肉親であったのだ。
「プロアウガよ。泣くな。これしきのことで父は挫けはせぬ」
 王は優しく慰めると、彼女の体を離し、侍女に預けた。
 と、そこにはプブリウスとアッティクスも控えていた。
「その方ら、まだいたのか。間もなく、ここにもマケドニアの大軍が攻め込んでこよう。急ぎ離れるがよい」
「我らも供いたします」
「なに?」
「王様は、国外にお逃れになると伺いました。おそらくエジプトへ逃れ、再起を図るものと推察いたしました。ならば、せめてタイナロンの岬までお見送りしたいと二人して話しておったのでございます」
「そうか…」
 王は、この異国の友の誠実に微笑した。
「分かった。ついてくるがよい。そして、そなたらは、そこからアテネなりローマなりへと帰るがよかろう」
「早速のお聞き届けありがとうございます」
 プブリウスは一礼した。


 クレオメネスの屋敷は慌しくなった。
 大急ぎで家財を馬車に積み込むと、王は馬上の人となった。
 ここで召使全てに暇を出した。ありったけの金銀を与えて。
「今までよく仕えてくれた。感謝する。達者に暮らせよ」
 人々は王の馬の傍で涙に暮れた。
「あなた様のように慈悲深い王様がこのような…」
「口惜しゅうございます」
 召使たちの言葉に、クレオメネスは悲嘆の色一つ見せず、からからと笑った。
「何も死ぬわけではない。時が幸いするまで身を隠すだけだ。笑って見送ってくれ」


 王は、さらに記録官のソシュロスを呼び寄せた。
 王の影の如く従い、片時も王の傍を離れず、その言行を記録し続けた彼。この激戦の渦中にあっても、必死に馬の手綱を握り、王の姿を追い続けた。
「王よ、お呼びですか」
 どこまでも供するつもりで、既に、半武装のまま、旅支度を終えていた。
 その彼の誠実に、王は微笑を向けた。
「長らくの務め大儀であった。ここで任を解くゆえ、安全の地へ落ち延びるがよい」
 その言葉にソシュロスはたいそう悔しがった。
「それは情けないお言葉。この私が、命を惜しむ卑怯者とみられていたとは…」
「そうではない」
 クレオメネスは笑った。
「余はエジプトに亡命する身。彼の地では専ら英気を養うことになろう。何をしたかなど記録するに値せず」
「されど…」
「まあ聞け」
 王は軽く抑えた。
「余は必ずやギリシアに戻ってくる。その時にはまた呼び寄せる。余の行いを記録してもらうために、な。だから、そなたには無事でいてもらわねばならんのだ」
 クレオメネスは、目に力を込め、一途の家臣を諭した。
 真情は伝わったと見え、やがて、ソシュロスは頷いた。
「かしこまりました。足手まといになってはかえって不忠。アテネにでも逃れ、学者を装い、時を待つといたしましょう」
「うむ。これまでの記録を整理し、その時の到来を心待ちにするがよい」
 王は、およそ敗者らしくない笑みを見せると、すぐに出発した。
パンテウス、テリュキオンのほか、僅かな従者がその後に続き、その中にはプブリウスとアッティクスの主従も混じっていた。


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 裏切り(さらに続き)
 アンティゴノスは、僅かな兵に身を守られ、とある荷馬車の陰に身を潜めていた。
 が、その彼の周囲にも、スパルタ兵の雄叫びがみるみる迫ってくる。
「余の運命もここまでか…」
 覚悟を決めた彼は抜刀した。
「皆の者!縛めの屈辱を受けるほどならば、華々しく戦って、マケドニア人の誇りをもって最期を遂げようぞ!」
「おおっ!」
「いくぞ!」
 王とその一隊は飛び出すと、群がるスパルタ兵に飛び込んだ。
 死の覚悟を決めたアンティゴノスとその兵は、さすが猛勇を奮った。功に逸ったスパルタ兵を、次々と突き伏せていった。


「おおっ!あれはアンティゴノス!」
 クレオメネスは勇躍した。
「討ち取れ!末代までの大功をあげるは今ぞ!」
 スパルタ兵は、ここぞとアンティゴノスを取り囲みにかかった。
(勝った!余は勝ったぞ!)
 クレオメネスは勝利を確信した。
 が、まさにその時。
「王様!王様!一大事にございます!」
「どうした!」
「背後よりイリュリア人部隊が攻め寄せ、弟君の部隊に攻め入りました!」
「なにっ」
 背後を見やると、エウアン丘の上にある、弟の隊がどっと崩れるのが見えた。
 クレオメネスと弟エウクレイダスは一心同体。見捨てるなど思いもよらない。
 が、目の前に、宿敵アンティゴノスがいるのだ。
「今しばらくの辛抱と伝えよ!アンティゴノスを討ち取れば、すぐに取って返す!」
 王は叫んだ。
 しかし、そのすぐ後に、さらに伝令が駆け込んできた。
「王様!」
「なんだ!今、全ての決着がつこうとしているのだ!」
「それが…謀叛にございます」
「なんだと」
 クレオメネスの目は大きく見開いた。
「憲兵隊司令官ダモテレスが謀叛し、弟君の隊に向かって暴れまわっております」
「な、なにぃっ!」
 再び振り返ると、弟の部隊が、前後より攻撃を受けて潰滅していく様が見て取れた。
「あああ」
 クレオメネスは呻いた。
「弟がやられた…大切な我が弟が…。涼やかな男で、少年の模範ともなり、女たちにも謳われた、あのエウクレイダスが…」


 エウクレイダス隊の潰滅により、戦況は一変した。もう一翼を率いていたエウリュクレイダス・パンテウスの部隊も、マケドニア軍の反撃に押し戻され始めていた。そこに、エウクレイダスを討ち取ったイリュリア人の猛兵たちが攻め込むと、ずたずたに隊列を切り裂かれてしまった。
 この乱戦の渦中、勇将エウリュクレイダスは戦死した。
 主力の二つの部隊が潰滅すれば、深く攻め入ったクレオメネスの本隊は、自然と敵中に孤立する形となってしまう。
「王様!このままでは包囲されてしまいますぞ!」
「く…くそっ」
 あまりの事態の急転に、クレオメネスは歯軋りした。
 そこに、一旦追い散らされたアカイア兵やメガロポリス兵が、味方の優勢に元気を取り戻し、クレオメネスの軍勢に四方より襲いかかってきた。
 もはや勝敗は歴然。既に、アンティゴノスは手の届かない場所に姿を隠していた。


「退却だ!血路を開いてスパルタに退却せよ!」
 しかし、退却する彼の軍勢に、次々と敵が立ちふさがった。
「おお!あれはクレオメネスぞ!」「討ち取れ!」
 が、クレオメネスは、槍を木の枝の如く振り回し、立ち向かう兵を全て突き伏せた。そのあまりの凄まじさに、
「つ、強い!」「駄目だ、とても敵わぬ!」
 マケドニア兵は肝を潰し、思わず道を開けた。
 そのため、クレオメネスは敵中を突破して退却することができた。しかし、途中、多くの味方が敵に討ち取られ、また捕えられ、スパルタの都に逃げ戻れたのは僅かに百騎ほどであった。
 セラシアの戦いは、こうして終わった。
マケドニア軍の大勝利に終わったのであった。セラシアの野には、いつまでもマケドニア兵の凱歌が轟いていた。


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 裏切り(続き)
「今度はどうした!」
 が、事態が掴めないのか、人々はむやみに騒ぎ立てるばかりであった。
「くそっ」
 エウクレイダスは後方に駆けた。すると、信じがたい光景が繰り広げられていた。スパルタ兵の装備を身に付けた者が、味方の兵に向かって槍を繰り出し、暴れてまわっていたのだ。
「あ、あれは憲兵どもではないか。乱心したか」
 そこにフォイビスが彼の許に駆けつけてきた。
「弟君!謀叛にございます!」
「だ、誰が謀反した」
「憲兵隊司令官ダモテレスが謀叛いたしました!」
「な、なんと…」
 イリュリア人の奇襲どころの衝撃ではなかった。父レオニダスの代以来仕える重臣が、この土壇場において謀叛を起こしたのだ。
「謀叛…あのダモテレスが…」
 エウクレイダス王は、目を見開いたまま、漂う木の葉の如く、逃げ惑う味方の兵に押し流されていった。
 前後より不意の攻撃を受けたエウクレイダスの部隊は、みるみる潰滅していった。


 クレオメネス三世とその一隊は、マケドニアの後陣にまで攻め入っていた。
 ここにあるのは、輜重部隊と後方を守護する僅かな手勢だけだ。
 この線が破れると、もうアンティゴノスを守る何者もいなくなる。ために、輜重部隊の兵たちは、今はと覚悟を決め、荷物を捨てて武器を取り、必死に防戦した。
 が、彼らは元来戦力として期待されていない者たち。クレオメネス麾下の精兵の敵ではなく、次々と討ち取られていった。
「防げ!防げ!」
 近臣メガレアスは、我が身の危険を忘れ、剣を奮って督戦していた。
 こうなっては見栄も外聞もない。マケドニア兵は、荷車を楯に、矢を射、石を投げ、果ては荷物を放り、クレオメネスの軍勢をなりふり構わず食い止めようとした。
 しかし、それも一時しのぎに過ぎず、スパルタ兵は荷車を飛び越え、マケドニア兵を一刀両断していく。


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