新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第1章アカイアの章

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裏切り-アカイアの章48


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 裏切り 
 クレオメネス率いる軍勢は、それからも無類の強さを誇り、怒涛の如く進んでいく。立ちふさがる軍勢は、次々と粉砕されていった。
「強い!」「とてもかなわぬ!」
 マケドニア兵は悲鳴を上げて算を乱して敗走していく。
「それ、アンティゴノスを追うのだ!地の果てまでも追い詰めよ!」
 クレオメネスが叫んだ。
 このまま全面的な大勝利が、スパルタ国家の頭上に輝く、誰もがそう思ったときに異変は起きた。


 もう一人のスパルタ王エウクレイダスも、ようやく敵の抵抗の線を突破し、大きく進み始めようとしていた。
 彼は、陣頭にあって兵を鼓舞し続けた。その英気凛々な風は、さすがクレオメネスの弟よと、従う人々を感嘆せしめた。ために、彼の軍勢も勇猛果敢であった。
「王様!」
「いかがいたした」
「お喜びください。クレオメネス王率いる隊は敵の近衛部隊を蹴散らし、さらにはフィロポイメン率いる軍勢をも撃破したとのこと」
「おお!さすがは兄上じゃ!」
 エウクレイダスは顔を輝かせた。
「弟君。我らも負けてはおられませんぞ」
 フォイビスが言った。
「無論じゃ。さあ、勇敢なるラケダイモンの人々よ!群がるマケドニアの乱賊どもを討つのは今ぞ!」
「おおお!」
 エウクレイダスの部隊がかさにかかって進軍を始めようとしたそのとき、後方に異変が起きた。突如、どっと崩れ立ったのだ。


「いかがいたした。何ゆえ崩れ立つ?」
「様子を見てまいります」
 フォイビスが駆け出したが、すぐに帰ってきた。
「弟君!大変です!敵のイリュリア人傭兵部隊が背後より斬り込んで来ました!」
「なんだと!ど、どこから攻めてきたのだ」
 アペルラス率いるイリュリア部隊は、大きく迂回し、エウアン丘の南から登ったもの。
 エウクレイダス王が背伸びして見やると、獣の皮や骨で作った鎧兜を身に着けた兵が、口々に吼えながら、猛然と突入してくるのが見えた。
 さすがのエウクレイダスも狼狽した。が、すぐに気を取り直し、人々を励ました。
「蛮族の捨て鉢の攻撃に過ぎぬ!後方に転じよ!おっ取り囲んで討ち滅ぼせ!」
 彼の部隊は、後方に旋回すると、イリュリア人部隊に向かった。
 イリュリア人は勇猛な民族。ために、猛烈な激戦となった。
 が、さらに異変が起きた。再び、エウクレイダス部隊の後方がどっと乱れたのだ。

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  ダヴィッド作フィロポイメン像です。セラシアの戦いでの彼をモチーフにしたものです。


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 セラシアの激闘-下(続き)
「陛下。近衛兵がクレオメネスに押されています…」
「なんたることぞ」
 アンティゴノスは歯を食いしばった。
 クレオメネスらスパルタ騎兵の活躍、スパルタ重装歩兵の猛烈な楯の圧迫も加わり、さしもの近衛部隊も崩れ始めた。そして、近衛兵を左右に蹴散らすと、クレオメネスがまっしぐらに進んでくる。
 アンティゴノス王の周囲を守る兵は、もはや僅かな手勢だけであった。
「陛下、ここは危険にございます。後方にお退き下さい」
「おう」
 アンティゴノスは馬首を巡らせると、後方に駆けていった。
 その姿がクレオメネスの目に飛び込んできた。
「おお、あそこに逃げ行くはアンティゴノス!」
 宿敵の姿を視界に捕えたクレオメネス、震えんばかりの興奮を覚えた。
「待て!正々堂々勝負せよ!」
 クレオメネスは一散に駆けた。どこまでも追いかけた。


 その頃、後陣では、フィロポイメンが、アカイア兵やメガロポリス兵ら敗残の兵を集めていた。激戦のため、多くの兵が傷つき、また疲れ果てていた。
 彼自身も、右の太ももに矢が刺さり、今ようやく引き抜いてもらって、応急の手当を受けていたところであった。
「なんたることぞ。クレオメネス如きにここまでしてやられるとは…」
 そのときであった。
 前方から、悲鳴を上げて兵が逃げてくる。
「どうした!」
「あっ、フィロポイメン殿!大変にございます!クレオメネスが陛下を追いかけ、こちらに迫ってまいります」
「なんだと!」
 前方を見やると、アンティゴノスが懸命に駆けて来るそのすぐ背後に、これまた飛ぶように駆けてくるクレオメネスの姿があった。
「おおっ、一大事ぞ!皆の者、戦闘態勢を取れ!王を守護するのだ!」
 フィロポイメンはわめくように命ずると、自身も足を引きずりながら馬によじ上がり、疾駆した。


「陛下!」
「おお!フィロポイメン殿!」
「後方へ!あとは拙者にお任せを!」
「すまぬ!」
 アンティゴノスは、振り返らずに後方に逃げていった。
 フィロポイメンは槍を構え突進した。
「クレオメネス!フィロポイメンが相手する!」
「どけっ!貴様などに用はない!邪魔するな!」
「そうはいかん、いくぞ!」
 フィロポイメン。アルカディア随一の武勇を誇っていた。ために、クレオメネスとの一対一の勝負は、まさに望むところ。
「だあっ」
 鋭く穂先を繰り出す。が、そこはクレオメネス、槍の胴で受け、逆に、猛然と槍を繰り出してきた。
「おお!やるな」「貴様こそ」
 両者とも激しく打ち合った。
 が、ここでもその武勇を発揮したのはクレオメネスであった。彼は疲れを見せることなく、次々と穂先を鋭く繰り出した。
 フィロポイメンも懸命に防いだが、太腿に重傷を負っていたため、次第に踏ん張りが利かなくなっていた。この時代、鐙はまだないから、太腿で馬の背をしっかり挟まないと、馬上態勢を保てず、獲物を強く繰りだすことはできない。
 ために、フィロポイメン、態勢が左にぐらと崩れた。
「あっ」
 フィロポイメンが短く叫ぶと同時に、
「おりゃあ!」
 クレオメネスの雄叫びと渾身の一突きが繰り出された。
「うっ」
 これを辛うじて楯でしのいだフィロポイメンであったが、その衝撃に、たまらず馬から転落し、体を強打した。


 フィロポイメン、一瞬目の前が暗くなった。
「し、しまった」
 が、再び目を開けた時、クレオメネスがじっと見詰めていた。
 フィロポイメンは戸惑った。
「な、なにゆえ討たぬ?」
 クレオメネス、爽やかな笑みを浮かべた。
「さすがはフィロポイメン。天晴れな武者ぶり。傷癒えた後、また対戦いたそう」
 そう言い残すと駆け出していった。
「ま、待て!」
 フィロポイメンは、うろたえ、駆ける敵を呼びとめた。
 が、クレオメネスの姿はあっという間に消えていった。
「く…く」
 フィロポイメン、なにゆえか目頭が熱くなってきた。宿敵その人の真実を、はじめて見た心地がしたのだ。


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 セラシアの激闘−下 
 中央を突破されては、マケドニア全軍は大混乱に陥る。
 アンティゴノスの本隊は、隊列を東に移動させ、クレオメネスの行く手を塞いだ。
 この戦線こそ両国の命運を決する生死の境。
 当然、激闘となった。
「命を惜しむな!ラケダイモン戦士の名誉こそ思え!」
「踏ん張れ!我ら覇者マケドニアの誇りを守るのだ!」
 いずれ劣らぬ勇猛な戦士たち。しばらくは互角の戦いを繰り広げていたが、スパルタ戦士は、この戦いに命を捨ててかかっていた。背後は故郷。妻子が、父母が、そして先祖伝来の大地がある。この戦いにこそ全てがかかっていたのだ。
 その生死を忘れた猛勇に、マケドニア重装歩兵部隊も、ついに崩れ始めた。
「よし!敵は崩れ立ったぞ!突破せよ!」
 クレオメネスは勢いに乗り、助勢に駆けつけたアカイア騎兵やメッセニア兵を追い散らすと、怒涛の如くアンティゴノスの本陣めがけ押し寄せた。


「陛下!クレオメネス軍が中央を突破しましたぞ!」
 側臣メガレアスは顔面蒼白になっていた。
「なんたることぞ!」
 アンティゴノスは吐き捨てた。
「かくなる上は、近衛部隊を進ませよ。クレオメネスの軍団を押しとどめよ」
「ははっ!」
 ラッパの音を合図に、王を守護していた、精鋭中の精鋭、マケドニア近衛部隊が前進を始めた。彼らは、選ばれた貴族の精鋭たちで構成された騎馬隊で、農民たちで構成する歩兵部隊とは質が格段に違っていた。
 彼らは、重武装した姿で槍を構えると、迫るスパルタ軍に駆け向かった。


「王!マケドニアの騎馬隊にございますぞ!」
 テリュキオンが叫んだ。
「む。近衛兵よな」
 一対一で相対すれば、騎兵に対し歩兵に勝ち目はない。馬蹄に蹴散らされるか、頭上から一突きされておしまいである。が、そこは重装歩兵。
「全員密集の隊形をとれ!」
 クレオメネスが命じると、将たちも叫んだ。
「塊となれ!」
「皆集まれ!」
 そう。密集して楯を前に構えれば、重装歩兵は鉄の塊となった。
 こうなると、精強な騎馬隊をもってしても、俄かに突破することはできない。
 近衛部隊も、長い槍を繰り出し、がんがんスパルタ兵の楯を突きまくり、馬を煽って踏み潰そうとした。そのため、あちこちでスパルタ兵の悲鳴が上がった。
 が、それは一部で、スパルタ兵は一致団結して楯を頭上にかざし頑強にこらえ、じわじわ進み、やがて騎馬隊の動きを止めた。
 そして、そのときであった。
 クレオメネス以下、数十騎の兵が近衛部隊の右に回りこんで攻めかかってきた。
 楯で身を守ることのできない右は、重装備の兵の弱点である。
「余がクレオメネスだ!勝負!」
 マケドニア兵は驚きながらも、むしろ勇躍した。
「おお!クレオメネスぞ!討ち取れ!」
「彼奴こそ、我がマケドニアに刃向かう最大の乱賊!」
 近衛兵は、たちまちクレオメネスの周囲に群がったが、ここでもクレオメネスは、ずば抜けた武勇を見せ、みるみる近衛兵を弾き飛ばしていった。

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 セラシアの激闘-中(さらに続き)
「なるほど、そういうことか」
 クレオメネスは、父が信任していたこの男を信じていた。
 確かに、彼が政権を握ってからは、若いエウリュクレイダスらを重用するようになっていた。が、それは革命の志を共にしたからであり、いわば時の勢いというもので、父レオニダスが任じた者たちを軽んずるつもりは毛頭なかった。
「ならば、正面のマケドニアの兵力を打ち破れば、我らの勝利は間違いないな」
 オリュンポス丘の麓には、敵の総大将アンティゴノス率いる重厚な部隊が充満していた。
「御意にございます」
「よし。もうよい。そなたは弟の許に帰れ」
「ははっ」
 ダモテレスは、エウクレイダス王の許へ、そして、自分の隊に戻っていった。丘から降りていく彼の顔には、不気味な笑みが浮かんでいた。


 クレオメネス王が自陣に戻ると、そこには戦意みなぎる兵たちの熱気で充満していた。
 革命当初より王に従ってきた市民兵。
 彼らこそ、クレオメネスの革命を熱狂的に支持し、マケドニアとの戦いを支え続けた勇者たちであり、スパルタ国家の屋台骨だ。
 クレオメネスは馬上の人となると、人々の勇を一層励ました。
「諸君!目の前に群がる敵こそ、我がラケダイモン、我がギリシア民族百年の宿敵ぞ!我らが栄光を輝かせうるか否かは、まさにこの一戦にかかっておる!」
 兵らは紅潮させた顔をこくと頷いた。
「うしろは我らが都!我らが故郷!引くことはできぬ!」
 クレオメネスは抜刀した。
「絶対勝つのだ!進めや勇敢なるラケダイモン人よ!」
「おおおっ」「わあああっ」
 兵らは、槍を高々と掲げ、雄叫びを上げた。
 スパルタ軍本隊は、奔流の如くになって丘から駆け下りた。
 待ち構えるはマケドニア最精鋭の重装歩兵部隊。
 当然、丘の麓では熾烈な戦闘が繰り広げられたが、クレオメネス軍の士気凄まじく、ついにマケドニア歩兵部隊を撃破した。
「よし!川に沿って進み、敵の中央を打ち破るのだ!ならば全軍の勝利ぞ!」
 クレオメネスが叫ぶように令すると、兵も、
「おおお」と大喚声をもって応じた。



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 セラシアの激闘-中(続き)
 アンティゴノスは切歯扼腕した。
「不甲斐なきアラトスにケルキダスよ」
 いつもの沈着は消え失せ、吐き捨てるようにいった。
 王は次第に焦燥を深めていた。
 もし、マケドニアの総力を挙げた、この戦いに敗れれば、彼のギリシアにおける威光は地に落ちるであろう。いや、一挙にクレオメネスが飛躍することは間違いなかった。
となればどうなるか。その力関係は、一挙に逆転するであろう。覇座がスパルタの頭上に輝き、マケドニアは北の飢寒の地に押し込められるのだ。
(それだけは断じてならぬ)


「アペルラス!」
「ははっ」
「そなた、後方に残るイリュリア人の一隊を率いて敵を攻めよ」
「いずこを攻めよ仰せになられますか?」
「それは…」
 王は、語尾を潜めた。
「はっ、かしこまりました」
 今回、デメトリオス率いるイリュリア人部隊は二つに分けられていた。一つは、デメトリオス自らが率い、エウアン丘のエウクレイダス王の陣を攻め立てていた。
 もう一隊は、とある秘密の作戦のため、後方に置かれたままだったのだ。
 アペルラス率いるイリュリア部隊は、そろそろと動き出し、間道に分け入っていった。


 その頃、クレオメネス三世は、未だオリュンポス丘にあって戦況を見詰めていた。
 陣地を守るためではない。最後の突貫力を温存するためだった。いかに序盤優勢でも、最終的な勝利を掴まねば意味がないからだ。
「これ、ダモテレス」
「ははっ」
 ダモテレス配下の兵はエウクレイダス王につき従っていたが、憲兵隊長の彼は、敵情を総司令官たるクレオメネス王に伝えるため、ここに詰めていた。
「確か、イリュリア人部隊は数千の兵と聞き及ぶ。が、エウアン丘に攻めよせた兵数を見れば、そう多くはない。これはどうしたことぞ」
 さすがはクレオメネス。よく観察していた。
 民族により装備が異なるため、おおよその兵数を把握することが出来るのだ。
「イリュリア人の主力は後方を守備しているとのこと。姿が見えなくとも不思議はありませぬ」
 その答えにクレオメネスは納得しなかった。
「なぜだ。イリュリア人は精強。何ゆえ後陣など守らせる?」
「かつて、イリュリアはマケドニアの敵だったことから、その用心ではないかと」
 ダモテレス、すらすら答えた。
 イリュリア人は元来マケドニアの宿敵。デメトリオスの実権掌握により友好国に変じてはいたが、今なおマケドニアに反抗するイリュリア人部族は少なくなかった。

 


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