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ダヴィッド作フィロポイメン像です。セラシアの戦いでの彼をモチーフにしたものです。
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セラシアの激闘-下(続き)
「陛下。近衛兵がクレオメネスに押されています…」
「なんたることぞ」
アンティゴノスは歯を食いしばった。
クレオメネスらスパルタ騎兵の活躍、スパルタ重装歩兵の猛烈な楯の圧迫も加わり、さしもの近衛部隊も崩れ始めた。そして、近衛兵を左右に蹴散らすと、クレオメネスがまっしぐらに進んでくる。
アンティゴノス王の周囲を守る兵は、もはや僅かな手勢だけであった。
「陛下、ここは危険にございます。後方にお退き下さい」
「おう」
アンティゴノスは馬首を巡らせると、後方に駆けていった。
その姿がクレオメネスの目に飛び込んできた。
「おお、あそこに逃げ行くはアンティゴノス!」
宿敵の姿を視界に捕えたクレオメネス、震えんばかりの興奮を覚えた。
「待て!正々堂々勝負せよ!」
クレオメネスは一散に駆けた。どこまでも追いかけた。
その頃、後陣では、フィロポイメンが、アカイア兵やメガロポリス兵ら敗残の兵を集めていた。激戦のため、多くの兵が傷つき、また疲れ果てていた。
彼自身も、右の太ももに矢が刺さり、今ようやく引き抜いてもらって、応急の手当を受けていたところであった。
「なんたることぞ。クレオメネス如きにここまでしてやられるとは…」
そのときであった。
前方から、悲鳴を上げて兵が逃げてくる。
「どうした!」
「あっ、フィロポイメン殿!大変にございます!クレオメネスが陛下を追いかけ、こちらに迫ってまいります」
「なんだと!」
前方を見やると、アンティゴノスが懸命に駆けて来るそのすぐ背後に、これまた飛ぶように駆けてくるクレオメネスの姿があった。
「おおっ、一大事ぞ!皆の者、戦闘態勢を取れ!王を守護するのだ!」
フィロポイメンはわめくように命ずると、自身も足を引きずりながら馬によじ上がり、疾駆した。
「陛下!」
「おお!フィロポイメン殿!」
「後方へ!あとは拙者にお任せを!」
「すまぬ!」
アンティゴノスは、振り返らずに後方に逃げていった。
フィロポイメンは槍を構え突進した。
「クレオメネス!フィロポイメンが相手する!」
「どけっ!貴様などに用はない!邪魔するな!」
「そうはいかん、いくぞ!」
フィロポイメン。アルカディア随一の武勇を誇っていた。ために、クレオメネスとの一対一の勝負は、まさに望むところ。
「だあっ」
鋭く穂先を繰り出す。が、そこはクレオメネス、槍の胴で受け、逆に、猛然と槍を繰り出してきた。
「おお!やるな」「貴様こそ」
両者とも激しく打ち合った。
が、ここでもその武勇を発揮したのはクレオメネスであった。彼は疲れを見せることなく、次々と穂先を鋭く繰り出した。
フィロポイメンも懸命に防いだが、太腿に重傷を負っていたため、次第に踏ん張りが利かなくなっていた。この時代、鐙はまだないから、太腿で馬の背をしっかり挟まないと、馬上態勢を保てず、獲物を強く繰りだすことはできない。
ために、フィロポイメン、態勢が左にぐらと崩れた。
「あっ」
フィロポイメンが短く叫ぶと同時に、
「おりゃあ!」
クレオメネスの雄叫びと渾身の一突きが繰り出された。
「うっ」
これを辛うじて楯でしのいだフィロポイメンであったが、その衝撃に、たまらず馬から転落し、体を強打した。
フィロポイメン、一瞬目の前が暗くなった。
「し、しまった」
が、再び目を開けた時、クレオメネスがじっと見詰めていた。
フィロポイメンは戸惑った。
「な、なにゆえ討たぬ?」
クレオメネス、爽やかな笑みを浮かべた。
「さすがはフィロポイメン。天晴れな武者ぶり。傷癒えた後、また対戦いたそう」
そう言い残すと駆け出していった。
「ま、待て!」
フィロポイメンは、うろたえ、駆ける敵を呼びとめた。
が、クレオメネスの姿はあっという間に消えていった。
「く…く」
フィロポイメン、なにゆえか目頭が熱くなってきた。宿敵その人の真実を、はじめて見た心地がしたのだ。
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