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セラシアの激闘-中
エウリュクレイダス隊とパンテウス隊は、中央を切り裂くように進み、重厚なマケドニア重装歩兵部隊と激突した。
勢いに乗るスパルタ騎兵の前に、勇猛をもって鳴るマケドニア歩兵も押され、じわじわ後退し始めていた。
オリュンポス丘麓のマケドニア本陣には動揺が広がっていた。
兵力においては圧倒的に優位なはず。が、明らかなこの頽勢。
「アレクサンドロスめ…何をしておるのだ…」
アンティゴノス王は、予想外の劣勢に苛立ち、手にした儀仗をぎりぎり曲げていた。ために、儀仗はミシミシ音を立てていた。
そもそもは、左翼における勝利の余勢を駆って、最大の敵クレオメネスを包囲殲滅する、それが作戦の根幹であった。
しかし、左翼のエウアン丘に登ったデメトリオス隊は、エウクレイダス隊の手痛い反撃に遭い、今や坂道を転げるように後退していた。そして、中央の騎兵隊の後退である。
「デメトリオス隊、エウクレイダス隊の猛反撃に遭い退却中!」
「アレクサンドロス隊、エウリュクレイダス隊とパンテウス隊の攻撃を受け敗走中!」
ならばと、主力の重装歩兵部隊を前進させたのだが、それすらも後退するのが見えたのだからたまらない。
「陛下!このままでは中央が突破されてしまいますぞ!」
メガレアスが叫んだ。
中央が破れては潰乱。クレオメネスとぶつかる前に総敗北となってしまう。
そう。クレオメネスの本隊は、まだ動いていないのだ。
「おのれ…」
アンティゴノスは、手にしていた杖をバキと折った。
「アカイア兵とメガロポリス兵に前進を命じよ!」
「ははっ!」
ラッパの音が鳴り響くと、アカイア同盟軍、メガロポリス軍が前進を開始した。
「おう、前進の合図だ」「者ども進めっ!」
両部隊はまっすぐ進み、中央を驀進してくるスパルタ騎兵隊と激突した。
ギリシアの独立を賭けた決戦に、ギリシア人同士が干戈を交えるのだ。これ以上の皮肉はあるまい。
が、これは、かつてのペルシア戦争(紀元前500年〜)においても見られたこと。その後も、ギリシア諸国がペルシアと戦うときには、ペルシア方にはギリシア人傭兵が常にいた。ギリシア人というのは、つくづく民族意識の希薄な種族と見える。
そう。彼らにとっては、ポリス(都市国家)のみが祖国と呼ぶに値するのであり、視野を広げ得るとしても、せいぜい自国の属する同盟までが守護すべき対象なのだ。
ただ、クレオメネスは違った。彼は、全ギリシアの命運が自身の双肩にかかっていることを自覚していた。
(ラケダイモンの敗北、それは全ギリシアの独立と自由の喪失)
そのことを認識していた。だからこそ、彼は度々アラトスに対して和解を試みたのであり、フィロポイメンの祖国メガロポリスに対しても一度は寛容な態度で臨んだのだ。
が、その願いは容れられることはなかった。アラトスやフィロポイメンにも言い分は勿論あろう。しかし、後世から俯瞰するに、この戦いこそが、ギリシア独立を守る最後の決戦であったと評価することに異議を差し挟む人は少ないのではないか。
そのクレオメネスの志に殉ずる覚悟の、精鋭たちが突進した。
彼らの士気は凄まじく、
「民族の大義を弁えぬ賊めっ!」
「売国奴め!これでもくらえ!」
口々に叫びながら槍を猛然と繰り出した。
ために、アカイア兵とメガロポリス兵は、逃げ腰となり、悲鳴を上げ、ひとたまりもなく崩れたった。
「引くな!下がるな!」
「逃げるな!戦えっ!」
指揮官のアラトスとケルキダスがいかに叫んでも、どうにもならない。
アカイア軍とメガロポリス軍はあっという間に潰乱した。
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