新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第1章アカイアの章

[ リスト | 詳細 ]

記事検索
検索


https://www.blogmura.com/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)


 セラシアの激闘-中
 エウリュクレイダス隊とパンテウス隊は、中央を切り裂くように進み、重厚なマケドニア重装歩兵部隊と激突した。
 勢いに乗るスパルタ騎兵の前に、勇猛をもって鳴るマケドニア歩兵も押され、じわじわ後退し始めていた。
 オリュンポス丘麓のマケドニア本陣には動揺が広がっていた。
 兵力においては圧倒的に優位なはず。が、明らかなこの頽勢。
「アレクサンドロスめ…何をしておるのだ…」
 アンティゴノス王は、予想外の劣勢に苛立ち、手にした儀仗をぎりぎり曲げていた。ために、儀仗はミシミシ音を立てていた。
 そもそもは、左翼における勝利の余勢を駆って、最大の敵クレオメネスを包囲殲滅する、それが作戦の根幹であった。
 しかし、左翼のエウアン丘に登ったデメトリオス隊は、エウクレイダス隊の手痛い反撃に遭い、今や坂道を転げるように後退していた。そして、中央の騎兵隊の後退である。
「デメトリオス隊、エウクレイダス隊の猛反撃に遭い退却中!」
「アレクサンドロス隊、エウリュクレイダス隊とパンテウス隊の攻撃を受け敗走中!」
 ならばと、主力の重装歩兵部隊を前進させたのだが、それすらも後退するのが見えたのだからたまらない。
「陛下!このままでは中央が突破されてしまいますぞ!」
 メガレアスが叫んだ。
 中央が破れては潰乱。クレオメネスとぶつかる前に総敗北となってしまう。
 そう。クレオメネスの本隊は、まだ動いていないのだ。
「おのれ…」
 アンティゴノスは、手にしていた杖をバキと折った。
「アカイア兵とメガロポリス兵に前進を命じよ!」
「ははっ!」
 ラッパの音が鳴り響くと、アカイア同盟軍、メガロポリス軍が前進を開始した。
「おう、前進の合図だ」「者ども進めっ!」
 両部隊はまっすぐ進み、中央を驀進してくるスパルタ騎兵隊と激突した。


 ギリシアの独立を賭けた決戦に、ギリシア人同士が干戈を交えるのだ。これ以上の皮肉はあるまい。
 が、これは、かつてのペルシア戦争(紀元前500年〜)においても見られたこと。その後も、ギリシア諸国がペルシアと戦うときには、ペルシア方にはギリシア人傭兵が常にいた。ギリシア人というのは、つくづく民族意識の希薄な種族と見える。
 そう。彼らにとっては、ポリス(都市国家)のみが祖国と呼ぶに値するのであり、視野を広げ得るとしても、せいぜい自国の属する同盟までが守護すべき対象なのだ。
 ただ、クレオメネスは違った。彼は、全ギリシアの命運が自身の双肩にかかっていることを自覚していた。
(ラケダイモンの敗北、それは全ギリシアの独立と自由の喪失)
 そのことを認識していた。だからこそ、彼は度々アラトスに対して和解を試みたのであり、フィロポイメンの祖国メガロポリスに対しても一度は寛容な態度で臨んだのだ。
 が、その願いは容れられることはなかった。アラトスやフィロポイメンにも言い分は勿論あろう。しかし、後世から俯瞰するに、この戦いこそが、ギリシア独立を守る最後の決戦であったと評価することに異議を差し挟む人は少ないのではないか。


 そのクレオメネスの志に殉ずる覚悟の、精鋭たちが突進した。
 彼らの士気は凄まじく、
「民族の大義を弁えぬ賊めっ!」
「売国奴め!これでもくらえ!」
口々に叫びながら槍を猛然と繰り出した。
 ために、アカイア兵とメガロポリス兵は、逃げ腰となり、悲鳴を上げ、ひとたまりもなく崩れたった。
「引くな!下がるな!」
「逃げるな!戦えっ!」
 指揮官のアラトスとケルキダスがいかに叫んでも、どうにもならない。
 アカイア軍とメガロポリス軍はあっという間に潰乱した。


https://www.blogmura.com/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)


 セラシアの激闘-上(さらに続き)
 クレオメネス、オリュンポス丘の上にあって、静かに戦況を見詰めていた。
「パンテウス!」
「はっ!」
「そなた、千の騎兵を率い、勢いに任せ押し寄せる騎兵隊の側面を衝け。敵は前がかりになっておるゆえ、不意を打てば崩れよう」
 そう。敵のアレクサンドロス隊は、エウリュクレイダスを追撃するに急のあまり、隊列が崩れるのも目もくれず、獲物目指し馬に鞭打っていた。
「かしこまりました。お任せあれ」
 若武者パンテウス、この大事な戦機における下命に、勇躍した。
 パンテウス率いる千の騎兵は、火の如き勢いで丘を駆け下った。
「あっ!ラケダイモン軍だ!」
「ラケダイモン騎兵が丘を駆け下って来たぞ!」
 アレクサンドロス隊は、不意を衝かれ、どっと崩れたった。
「慌てるな!敵は小勢だ!」
 アレクサンドロスは怒鳴ったが、味方の動揺は収まらなかった。
 

 パンテウス隊が暴れまわっている間に、エウリュクレイダス隊が態勢を立て直し、隊列を整え、反転攻勢に打って出た。
「それ!味方と力を合わせ、敵を押しのけるのだ!」
 エウリュクレイダス隊は、パンテウス隊と合流すると、マケドニア騎兵隊を左右から激しく攻め立てた。
 両軍、しばらくの間、丘の麓の狭い空間で激戦を繰り広げたが、スパルタ軍は、ついにアレクサンドロス隊を撃破した。
「よし!このまま突き進み、敵の中央を打ち破るのだ!」
 エウリュクレイダスが叫ぶと、味方は大いに奮い立った。
「おおお!」
雄叫び上げ、群がる敵の中に突っ込んでいく。
 戦線は、中央で大きく動き始めたのであった。

イメージ 1


https://www.blogmura.com/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)

 セラシアの激闘-上(続き)
 マケドニア軍の陣営にあって、スパルタ側の意図に気付いた者がいた。
 メガロポリスの人フィロポイメンである。
 スパルタに破壊された祖国メガロポリス。その復興を賭け、メガロポリスの人々は、この戦いに総力を挙げて参加していた。が、その軍勢は、人々の支持を集めていた哲学者のケルキダスが指揮することとし、フィロポイメンは同郷の者数十人と共に、マケドニア本軍の騎兵隊にいた。
 その彼は、イリュリア部隊の背後に、スパルタ軍が迫る様子に愕然とした。
「ややっ!あれはただならぬ動きぞ!」
 彼は、部隊の指揮官アレクサンドロスの許に走った。


「アレクサンドロス殿!」
 大声だったためか、騎兵隊司令官アレクサンドロスはびっくりした。
 振り向くと、血相変えた長身の青年が立っている。
「なんだ、フィロポイメン殿か。どうなされた」
「あれをご覧あれ!」
 フィロポイメンは、エウアン丘を登る味方の背後に迫る、スパルタ兵を指差した。
「あれを放置しては、デメトリオス隊は背後を衝かれ壊滅!我らも動きましょう!」
 が、アレクサンドロスは首を振った。
「駄目だ。勝手な行動は許されぬ」
 事前のアンティゴノス王の厳命があったからだ。本陣から赤旗が振られるまで動いてはならぬと。
 フィロポイメンは憤慨した。
「そんなことに右顧左眄して、戦機を逸すればどうするのです!」
 が、アレクサンドロスは、何と言っても首肯しなかった。
 軍律の厳しいマケドニア軍、ここではそれが仇となった。
 フィロポイメン、地団駄踏んでいたが、やむなしと自陣に戻ると、同郷のメガロポリスの騎兵を集めた。


「見過ごしては我が軍の敗北。突撃して、敵を驚かせるのだ」
 仲間達は驚いたが、フィロポイメンの戦勘には誰もが一目置いていたから同意した。
 直ちに、彼らは僅か数十騎で駆けだし、エウリュクレイダス隊に遮二無二突撃した。
 エウリュクレイダス隊は、これに驚いたが、向き直って激しく交戦した。
 が、決死のフィロポイメン、その武勇凄まじく、エウリュクレイダス率いる傭兵隊の真ん中に飛び込むと、スパルタ軍をあっという間に駆け散らした。
 エウリュクレイダス、やむを得ず、オイヌス河畔の自陣に退却せざるを得なかった。


 いったん退いたエウリュクレイダスだったが、底知れぬ胆力を持つ彼、この程度のことで意気を阻喪するほどやわではない。
「フィロポイメンの抜け駆けにより中央の騎兵隊の隊列は乱れているに相違ない」
 そう見ると、傭兵隊を陣の守りに残し、騎兵隊を率いて敵中央めがけて突進した。
 それと同時に、アレクサンドロス率いるマケドニア騎兵隊も動き出した。ようやく、本陣から赤旗が振られたのだ。
 両軍、中央で激突した。
 さすが、いずれ劣らぬ精鋭、しばらくは互いに一歩も引かず、激しく槍を繰り出し打ち合った。
 個々の戦闘力では両者は拮抗していた。ために、しばらくは膠着した。
が、エウリュクレイダス率いる騎兵は、マケドニア騎兵の半分にも満たない。次第に押され始め、ずるずる後退し、二つの丘の間の自陣まで戻されていた。


https://www.blogmura.com/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)

※セラシア近郊の地形は前回-緒戦(さらに続き)-の画像をご参照ください


 セラシアの激闘−上 
 翌日。ようやく白々と東の空が明るくなってきた頃。
 イリュリアの将デメトリオスは、早くも動き出した。
「いいか。敵は我らがここにいることを知らぬ。身をかがめ丘の上に前進し、エウクレイダスの陣を不意に襲うのだ」
 イリュリア兵は頷きを見せた。
無類の勇猛を誇る彼ら、斬り込みは大の得意で、微塵も恐れの色はなかった。
 楯を抱え、大きな体を縮めると、丘の上を目指し、そろりそろり進み始めた。
 マケドニア軍の作戦は、戦力で劣る、エウアンの丘を守るエウクレイデス隊を奇襲で打ち破り、その余勢を駆って、クレオメネスの本陣を包み込んで攻め滅ぼすというもの。
 が、そのイリュリア人部隊の動きを、草むらの中からじっと見ている者がいた。
 スパルタの将テリュキオンである。


 クレオメネス、本陣をオリュンポス丘に定めたとはいえ、そこに座ったままにいるほど甘くはない。ありうべき敵の行動に備え、戦線のあちこちを走り回っていた。
 今は、谷あいのエウリュクレイダスの陣にいた。
 テリュキオンが彼の許に駆け戻って来た。樵の姿をしている。
「そうか…敵の一隊が密かにエウアン丘を登り始めたか」
「はい。恐らくは弟君の陣に奇襲をかけようとの肚ではないかと思われます」
「ふふ。そんなことではないかと思うていたぞ」
 クレオメネスは笑った。そして振り返った。
「エウリュクレイダス」
「はっ」
「そなた。傭兵部隊を率い、イリュリア部隊の背後を襲え。ならば、敵は慌てて自陣に向かい敗走し、その混乱に乗じ敵陣の隊列を崩すことができよう」
「かしこまりました。直ちに」
 こちらも動き出した。
 エウリュクレイダスは、傭兵部隊を率いて、エウアンの丘の麓に急行した。
 決戦の火蓋は、エウアン丘の麓で切られようとしていた。

イメージ 1


https://www.blogmura.com/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)


 緒戦(さらに続き)
 エウリュクレイダス、先鋒部隊を駆け散らすと、敵将の姿を血眼になって求めた。
「アンティゴノスを捜せっ!」
 すると、アラトスとアペルラスを従え、一目散に逃げていくアンティゴノスの姿が、目に飛び込んできた。
「いた!」
 エウリュクレイダス、群がるマケドニア兵を突き伏せ、馬蹄で蹴散らしながら、一散に追いかけた。
「待て!アンティゴノス!尋常に勝負しろ!」
 その武勇クレオメネスにも匹敵する彼、たちまち、アンティゴノスに迫った。


「ちっ、しつこく追ってくるの」
 アンティゴノスは舌打ちした。
「陛下、ここは私が防ぎますゆえ、後方へお急ぎください」
 そういうや、アペルラスは馬首を巡らし、エウリュクレイダスに向かっていった。
「エウリュクレイダス、このアペルラスが相手する!」
「どけ!貴様に用はない!」
「そうはいかん!」
 二人は激しく打ち合った。
 この間に、アンティゴノスは、なんとか後陣に退くことができた。


 終日スパルタ軍が押し気味に戦ったが、重厚なマケドニアの主力部隊が後方から現れると、スパルタ軍は潮が引くように退却していった。
 その日の戦いは、ひとまずそのまま終わった。
 マケドニア軍は態勢を立て直すため、後方に下がり、ゴルギュロス川を南の防御線として、敵の奇襲に備えた。
 アンティゴノス、落ち着きを得ると、周囲に戦況を問いただした。
「我が軍の被害はどうじゃ」
「はい。敵の思わぬ奇襲により少なからざる犠牲が出たようで…」
「ちっ」
 アンティゴノスは舌打ちした。本格的な戦闘を前に、兵力を失うことは痛かった。
 そこにアペルラスが現れた。
「陛下」
 エウリュクレイダスとの一騎打ちで負傷し、左腕には包帯を巻いていた。
「おお、アペルラス、傷は大丈夫か」
「なんのこれしき。それよりも敵の布陣がはっきりしましたぞ」
「どうなっておる」
「はい。西のオリュンポス丘にクレオメネスが陣取り、東のエウアン丘には弟のエウクレイダスが、そして、中央の街道沿いをクレオメネスの側近エウリュクレイダスが騎兵隊と傭兵隊を率いて固めております」
「むむう」
 アンティゴノスは唸った。
「まるで、優れた戦士が武器を構えているようなものだな」
 その言葉に、幕舎の中は、しんと静まり返った。
 それは、これから相まみえる敵が、尋常ならざる強敵であることを改めて思い知ったからに他ならない。


 軍議は深更まで重ねられた。
 結果、エウアン丘の麓に、マケドニア重装歩兵の一部とイリュリア人部隊の一部を配してデメトリオスに指揮をとらせ、その後方にアラトス率いるアカイア兵、ケルキダス率いるメガロポリス兵の部隊を、中央にアレクサンドロスを指揮官とする騎兵隊を、その隣にアカイア諸国から選抜された騎兵隊を配することに決した。
 そして、総大将アンティゴノスは、精鋭中の精鋭、マケドニア重装歩兵隊を率い、オリュンポス丘の麓に布陣し、クレオメネスとの対決に臨むこととした。
「よいか。我が軍は大軍。よって、整然と戦線を維持し、粘り強く戦い抜けばラケダイモン軍を圧倒することができる。くれぐれも合図をよく見、戦機を逸することのないよう、あたってもらいたい」
「ははーっ」
 その夜。マケドニア軍は動き出した。
 デメトリオス率いるイリュリア兵は、密かにゴルギュロス川に進んだ。
「よし!川床や岩陰に身を伏せよ!」
今は夏季。だから、川床まで干上がっていたのだ。
 イリュリア兵は、思い思いに散開し、岩陰や川辺の物陰に身を潜めた。


.
アバター
Dragon
男性 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

過去の記事一覧

スマートフォンで見る

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

スマートフォン版Yahoo!ブログにアクセス!

Yahoo!からのお知らせ

友だち(3)
  • ダイエット
  • 時間の流れ
  • JAPAN
友だち一覧

よしもとブログランキング

もっと見る

プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事