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緒戦(続き)
マケドニア軍先鋒部隊を率いるは、若き猛将アペルラス。
彼がセラシアの北、オリュンポス丘とエウアンの丘に近づく頃、ようよう東の空が白み始めていた。
「将軍、ラケダイモン軍の陣が見えてきましたぞ」
先導の兵が前方を指差した。
「おっ」
見ると、二つの丘の間に見える峠の上に堂々たる砦が姿を現し、そこにスパルタの旗が林立し、それが朝日の光に反射し無数に輝いていた。
「敵は全て砦の内にあるようだな」
「いかがいたします。直ちに攻めかかりますか」
「いや」
アペルラスは首を振った。
「力攻めは被害が大きくなり過ぎる。陛下には何か策がおありのようだから、ここでご到着を待つとしよう」
彼も、幾多の戦いで、クレオメネスの恐ろしさが骨髄に染みている一人。我武者羅な勇でどうにかなる相手でないことを、今は分かっていた。
やがて、アンティゴノス率いる中軍が到着した。
王は、左右にアラトスとメガレアスを従え、アペルラスの許にやって来た。
「どうじゃ、敵軍の様子は?」
「は。どうやら全軍砦の内にあって、我らを待ち構えている模様です」
「ふむ」
王は目を細め、砦をしばらく眺めていたが、アラトスの方を振り返った。
「アラトス殿、どう思う?」
「何分敵はクレオメネス。何か策を巡らしているのやも知れませんな」
籠城戦はあり得ない。となると、何らかの計略が当然に推測される。
そこにアカイア兵が現れ、アラトスの許に駆けより、その耳元に何事かを告げた。
アラトスは頷くと顔を王に向けた。
「陛下、あの者の使いが来たそうです」
「お、丁度よい。こちらに呼ぶがよい」
間もなく農民の姿をした者が現れた。
「あの方の使者として参りました」
双方、用心深く、当の人物の名を一切出そうとはしなかった。それは、その人物こそ勝利の切り札であり、いかなることで露見しないとも限らないからであった。
「御苦労。して、スパルタ軍に何か変わった動きはないか」
「それが一大事にございます」
「どうしたのだ」
「敵は、陛下の軍勢を一挙に滅ぼさんと、砦を出撃し四方に展開して布陣しております」
「なにっ!」
アンティゴノスとアラトスは驚いて周囲を見回した。
夏季のことゆえ、谷あいを走るオイヌス川はせせらぎの如き流れに過ぎず、その川をはさんで西にオリュンポスの丘、東にエウアンの丘があるが、兵の姿は見えなかった。
「一兵の姿もないぞ。それは本当であろうな」
アラトスが問いただした。
「時至るまで隠れているのです。恐らく、遠目にもアンティゴノス陛下がここにあることは知れていましょう。ひとまず退かれるが上策かと」
王の周囲は騒然となった。
「陛下、急ぎ後方へお下がりくださいませ」
アペルラスが促した。
「おう」
王は馬首を巡らせた。
その時であった。突然、フルートの音色があたりに響いた。
その途端、二つの丘、そして谷間に、ラムダの文字をあしらった旗が一斉に翻った。
「あああ」「おおっ!」
アンティゴノスとアラトス、思わず声を上げた。
次の瞬間、スパルタ兵が喚声を上げ、一斉に駆け下って来た。
東からエウクレイデス王率いる部隊が、中央からエウリュクレイダス率いる部隊が、山野を揺らして殺到してきた。
「乱賊アンティゴノスを討て!」
「今こそマケドニアに鉄槌を!」
雄叫びに雄叫びが重なり、大喚声となって、マケドニア兵を包み込む。
「防げ!防ぐのだ!」
アペルラスは叫んだ。
左右からスパルタ軍が突入し、マケドニアの先鋒部隊はどっと崩れたった。
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