新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第1章アカイアの章

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 緒戦(続き)
 マケドニア軍先鋒部隊を率いるは、若き猛将アペルラス。
 彼がセラシアの北、オリュンポス丘とエウアンの丘に近づく頃、ようよう東の空が白み始めていた。
「将軍、ラケダイモン軍の陣が見えてきましたぞ」
 先導の兵が前方を指差した。
「おっ」
 見ると、二つの丘の間に見える峠の上に堂々たる砦が姿を現し、そこにスパルタの旗が林立し、それが朝日の光に反射し無数に輝いていた。
「敵は全て砦の内にあるようだな」
「いかがいたします。直ちに攻めかかりますか」
「いや」
 アペルラスは首を振った。
「力攻めは被害が大きくなり過ぎる。陛下には何か策がおありのようだから、ここでご到着を待つとしよう」
 彼も、幾多の戦いで、クレオメネスの恐ろしさが骨髄に染みている一人。我武者羅な勇でどうにかなる相手でないことを、今は分かっていた。


 やがて、アンティゴノス率いる中軍が到着した。
 王は、左右にアラトスとメガレアスを従え、アペルラスの許にやって来た。
「どうじゃ、敵軍の様子は?」
「は。どうやら全軍砦の内にあって、我らを待ち構えている模様です」
「ふむ」
 王は目を細め、砦をしばらく眺めていたが、アラトスの方を振り返った。
「アラトス殿、どう思う?」
「何分敵はクレオメネス。何か策を巡らしているのやも知れませんな」
 籠城戦はあり得ない。となると、何らかの計略が当然に推測される。
 そこにアカイア兵が現れ、アラトスの許に駆けより、その耳元に何事かを告げた。
 アラトスは頷くと顔を王に向けた。
「陛下、あの者・・・の使いが来たそうです」
「お、丁度よい。こちらに呼ぶがよい」


 間もなく農民の姿をした者が現れた。
「あの方の使者として参りました」
 双方、用心深く、当の人物の名を一切出そうとはしなかった。それは、その人物こそ勝利の切り札であり、いかなることで露見しないとも限らないからであった。
「御苦労。して、スパルタ軍に何か変わった動きはないか」
「それが一大事にございます」
「どうしたのだ」
「敵は、陛下の軍勢を一挙に滅ぼさんと、砦を出撃し四方に展開して布陣しております」
「なにっ!」
 アンティゴノスとアラトスは驚いて周囲を見回した。
 夏季のことゆえ、谷あいを走るオイヌス川はせせらぎの如き流れに過ぎず、その川をはさんで西にオリュンポスの丘、東にエウアンの丘があるが、兵の姿は見えなかった。
「一兵の姿もないぞ。それは本当であろうな」
 アラトスが問いただした。
「時至るまで隠れているのです。恐らく、遠目にもアンティゴノス陛下がここにあることは知れていましょう。ひとまず退かれるが上策かと」
 王の周囲は騒然となった。
「陛下、急ぎ後方へお下がりくださいませ」
 アペルラスが促した。
「おう」
 王は馬首を巡らせた。


 その時であった。突然、フルートの音色があたりに響いた。
 その途端、二つの丘、そして谷間に、ラムダの文字をあしらった旗が一斉に翻った。
「あああ」「おおっ!」
 アンティゴノスとアラトス、思わず声を上げた。
 次の瞬間、スパルタ兵が喚声を上げ、一斉に駆け下って来た。
 東からエウクレイデス王率いる部隊が、中央からエウリュクレイダス率いる部隊が、山野を揺らして殺到してきた。
「乱賊アンティゴノスを討て!」
「今こそマケドニアに鉄槌を!」
 雄叫びに雄叫びが重なり、大喚声となって、マケドニア兵を包み込む。
「防げ!防ぐのだ!」
 アペルラスは叫んだ。
 左右からスパルタ軍が突入し、マケドニアの先鋒部隊はどっと崩れたった。

緒戦-アカイアの章44

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 緒戦 
 マケドニアの大軍は、ラコニアの山峡を埋め尽くさんばかりに、ひたすら南に進んだ。途中、遮るものは何一つなかった。獣も驚き隠れ、山野は彼らの軍靴に蹂躙されていく。
 アンティゴノス、中軍にあって、重厚な近衛兵の集団に囲まれ悠々進んでいた。
「アペルラス」
「はっ」
「クレオメネスは、砦に立て籠もったままか」
「はい。セラシア一帯に強固な砦を構築し、兵をしきりに集めているとのこと」
「ふむ」
 アンティゴノスは前方の山々を見た。
(クレオメネスめ…何を考えている)
 時間はない。それはクレオメネスも同じはず。
 なのに、籠城の構えを見せているという。
 そのことは、かえってアンティゴノスの不安を駆り立てた。
(またしても、何か謀をめぐらしているのはあるまいか)
「陛下、心配要りませぬぞ」
 アラトスがいった。
「いざという時には、かの者が我らに呼応することになっておりますれば」
 その言葉に、アンティゴノスは愁眉を晴らした。
「おうそうであった。貴公の働きで、我らは大いなる味方を得たのであったな」
「左様。クレオメネスがいかなる策をもって当たってこようとも、我らの勝利は万々間違いありませぬ」
 二人の会話に、アペルラスが怪訝な表情を浮かべた。
「陛下、大いなる味方とは?」
「ふふ。そのうち分かる。楽しみにしていよ」


 その当の敵クレオメネスは、前日の夜、諸将を集めていた。
「諸君!こたびの戦いこそ、ラケダイモン興亡を決する戦い。いや、ギリシア世界の明日を決する戦いぞ!」
 諸将は異議なく同意した。
 もはや、ギリシア世界において、アンティゴノス王朝に正面切って敵対するのはスパルタ一国のみ。スパルタの敗北、それは、マケドニアの支配がギリシア全土に及ぶことを意味する。
「おそらく、アンティゴノスは、我が兵力寡勢ゆえ砦に立て籠もって待ち受けているものと決め付けておろう」
 諸将は顔を見合わせた。
 彼らは、エジプトからの補給が途絶えたことを知らない。それもあり、大軍相手に籠城戦になると思い込んでいたからだ。
「が、そうはいかん。余は、決戦するためにこの地を選んだ。一挙に襲いかかり、アンティゴノスを討つ」
「あっ」「おおっ」
 諸将の口から、思わず驚きと感嘆の声が上がった。
 そう。クレオメネスは、決して追い詰められてこの地を選んだのではない。決戦するに最適な地を選んだに過ぎなかった。
「諸将よ!後世に輝く名誉を轟かせる時ぞ!奮えや人々!」
「おおお!」
 俄然士気は高まった。そう。窮余の末の籠城ではなく、敵を一挙に滅ぼすための行動と分かったからだ。
「今から陣立てを申す!まずエウクレイダス!」
「ははっ」
「そなたは、右翼のエウアンの丘に布陣せよ」
「はっ!」
「エウリュクレイダス、そなたは中央に布陣し騎兵隊を指揮せよ!」
「ははっ!」
「余は、左翼のオリュンポスの丘に布陣する」
 クレオメネスは、このひと月、考えに考え抜いた陣立てを、矢継ぎ早に命じていった。
 ときは紀元前222年夏。
スパルタ軍は、夜明け前にセラシアの城から出ると、前方に進み、西のオリュンポス丘から東のエウアン丘一帯に展開し、命じられた場所に布陣していった。



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 内通(続き)
 ダモテレスは、兵を追い出し、その男と二人になると、はじめて
「何者だ」と訊いた。
 秘密部隊の長という職務からの用心深さが身に染み、部下にも機微に触れる話は聞かせないようにしていた。
「わたくし、アカイア同盟ストラテゴス、アラトスの使者として参りました」
 男の言葉使いががらりと変わった。
「なに、アラトス…アラトスがわしに何の用なのじゃ」
「親書を預かっておりますれば、それをご覧頂きたく」
 その男は、髪の毛をまさぐり、紐状になっていた書付を取り出し、それをダモテレスに渡した。
「なかなかうまいところに隠しておるな。どれ」
 ダモテレスが、よれよれの親書を広げると、次の文面が現れた。
『貴君は、レオニダス王に仕え名誉ある地位を占めるも、今はクレオメネスにより閑却される。この戦いの勝利が貴公に名誉をもたらさないことは明らか。さらに、クレオメネス自身の運命も、我が友軍マケドニアの大軍の前に風前の灯火。貴公が、祖国を滅亡から救う名誉を得んと思われるならば、我が使者の話に耳を傾け、力をお貸し頂きたい。アカイア同盟ストラテゴス、アラトス』


「むう。容易ならざる話だな」
「左様でございましょうか?」
「主君クレオメネス王を裏切れ、ということであろうが…」
「いえ、祖国をお救いになるとお考えになられるべきかと」
「祖国を救う…のう」
「はい。遅かれ早かれ、クレオメネス王はこの地を追われることは明らか。ならば、ラケダイモン滅亡を誰かが救わねばなりませぬ」
「それがわし…か。が、わしは王族ではない」
「いえ。二人の王がいずれもマケドニアに敵対しておりますれば、もはや王家に祖国を守る力はありませぬ。力ある者が国を保つべきでございましょう」
 その言葉の意味に、ダモテレスの目が見開いた。
「それは…戦後、この地をわたしに委ねるということか」
「はい。アンティゴノス陛下のお言葉もございます。事が成就すれば、その功績は大きい、閣下をこの地の太守に任じようと仰せにございます」
 アラトスは、不満分子のダモテレスに対し、スパルタ領と引き換えに寝返りを唆してきたのだ。荒技をここぞと繰り出す、このあたりの芸当は、さすがに一日の長があった。
 鬱々たる不満に日々苛まれていた男の前に、旨味たっぷりの好餌が差し出されたのだ。ダモテレスの心は大きく揺れ動いた。
 それから、二人は、なおも長時間ひそひそ話し合い、最後には笑みを交わし、密偵は満足した面持ちでセラシアの街に消えていった。

内通-アカイアの章43


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 内通 
 アンティゴノスは、その夜、密かにアラトスを部屋に親しく招いていた。
「アラトス殿。戦場は一本道の続く峠の上。激戦は必至。何か工夫はありませんかな」
「ございます」
 アラトス、にことして答えた。
「ほう」
「内通者を得られることです」
「なるほど…が、そのような都合のよい者がいるかの。ラケダイモンは、クレオメネスの許に一致団結しているように見えるが…」
「一人ございます。もし、陛下のお許しをいただければ、私が工作いたしましょう」
「おお。それは助かります。その策が成れば味方の犠牲も少なくて済みましょうからな」
 その夜、一つの影が、ラコニアの山間に消えていった。


 ここセラシア、スパルタ軍の本営。
 山峡の小さな町は、スパルタ全土から集まった兵で溢れ返っていた。
「どけどけ、荷馬車が通るぞ!」
「道を開けろ!」
 運命の決戦を目前にしていることもあり、行き交う兵は皆殺気立っていた。
 その一角に、スパルタ憲兵隊の陣営があった。
 いわゆる秘密部隊であり、これまで専ら本国の治安の任に当たっていたが、祖国の急ということで前線に動員され、エウクレイデス王の下に配属されていた。
 司令官はダモテレス。
 王直属の部隊を率いる彼、表面上、忠誠なラケダイモン武人そのものであった。
 が、内心大いなる不満を抱いていた。というのも、彼は先代レオニダス王に重用され、ためにこの司令官という重職についていたが、子のクレオメネス王の代となってからは、全く閑却されてしまっていたからだ。
(あんな若造のエウリュクレイダスらばかりを重用するから、今日のような非常事態を迎えたのだ)
 それだけではない。レオニダス王の代に広げた所領は、クレオメネスの革命で、全て接収されてしまった。
(わしが精魂込めて開拓した肥沃な土地を…)
 かつて所有していた土地を耕す人々を見るたびに、やりきれない不満が沸き起こった。


「隊長」
 兵が入ってきて、彼の雑念にも似た思考は中断された。
「どうした」
「怪しい者を捕らえたのですが」
「敵の密偵か」
「それが…なかなか不敵なやつで。隊長に会わせろ、会わせぬうちに拷問などして尋問すれば、お前らは破滅だ、などとほざきおりまして」
「ふん、そんなこけ脅しに怯んでいて憲兵が務まるか」
 ダモテレスは立ち上がった。
 別室に入ると、農民の風体の者が一人、兵に囲まれて座っていた。
「お前か、密偵は」
「ダモテレス殿か」
「む、わしの名を知っておるのか」
「勿論だ。貴方に会いに来たのだ」
 職務柄、様々な人間を吟味してきた。その彼の知覚が、ある臭いを感じ取った。
「その方ら、少し座を外してくれ」



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 時間との戦い(さらにさらに続き)
 同じ頃。マケドニアの陣営でも、プトレマイオスの勧告につき協議していた。
「今さらクレオメネスと和睦とは…」
「ここまで追い詰めておきながら…」
 武将たちの誰もが憮然とした表情を見せていた。
 アンティゴノスは思案していたが、今回、使者に立ったデメトリオスを見た。
「デメトリオス殿。貴殿は、これをどう見る」
「陛下が一挙にギリシアの覇権を握るのを恐れ、かかる勧告をしてきたものでしょう」
 それは誰にでも分かること。
 アンティゴノスが気にしたのは、さらにもう一段何かあるのではないか、そのことだ。
「ふーむ。エジプトからラケダイモンへの兵糧の補給は止まったのであろう」
「はい。テオドトスも示唆していましたが、我が間者からの報告にも、アレクサンドリアに停泊していたラケダイモン行きの船舶の出航が全て停止されたとあります」
 王の下問に側臣メガレアスが答える。
「ならば、長期戦に持ち込めば、クレオメネスの軍勢は遠からず崩壊するな」
「左様。まず傭兵どもが逃げ出しましょう。次いで兵糧が尽きれば、いかなる強兵も戦うことなど不可能ですから、四散いたしましょう」
 アペルラスが答えた。
「ふむ」
 とはいえ長期戦は望むところではない。ずっと留守にしている本国が気に懸かるからだ。
(されど…二三ヶ月ぐらいならば、留守の軍勢で持ちこたえられよう)
 何分、クレオメネスの武勇を骨髄に知った彼、睨み合いで勝利がもぎ取れるならば、それに越したことはない。アンティゴノスの心は長期戦に傾き始めていた。


「アラトス殿。貴殿はどう思われる」
「はい。まず、クレオメネスがこれを受け容れることはありますまい」
「それはその通りであろう」
「そして、我らにも、悠長に長期戦を構える時間はない、と思われます」
「ほう…何ゆえそう思う」
 アンティゴノスは身を乗り出した。そのことこそ、訊きたい点なのだ
「陛下の気がかりとするところを、プトレマイオスは把握していましょう。ならば…」
 アラトスは、あえて語尾を濁した。
 が、それは十分にアンティゴノスに通じた。
「そうか…プトレマイオスに唆され、北方が動き出すか」
「はい。わたくしがプトレマイオスならば、間違いなくその手を打ちましょう。クレオメネスへの支援はやめたはよいが、それで陛下にギリシア全土を平定されては何にもなりませんから」
「なるほど…となると、我らも勝負を急がねばならぬ、ということだの」
「御賢察」
 アラトスは大きく頷き続けた。
「陛下の裁断により速やかに勝利を得れば、エジプトの策略は崩れましょう」
 さすがアラトスも当代の英雄の一人。プトレマイオスの策謀を喝破した。
「よし!」
 アンティゴノスは大きく頷き、すっくと立ち上がった。
「諸公よ。いよいよ決戦の時がきた。ここでクレオメネスを打ち破れば、長年我らに敵対してきたラケダイモンの勢力をこの地上から一掃できるのだ。ここを正念場と心得、一倍奮起してもらいたい」
「おおう!」
 将たちは拳を力強く突き上げた。


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